第30話 爆弾、投下します!
「妻のユニシスだ」
「ユニシスにございます」
「エニシと申します」
「これが息子のマルシスで、こっちは娘のヨシュナだ」
「マルシスだ」
「ヨシュナよ」
「エニシと申します」
伯爵以外は初対面になるから、まずはあいさつからということらしい。
食事の前に家族を紹介されてしまった。
なんだか家族ぐるみの付き合いみたいな感じがするけど、たぶんそれは気のせいだろう。
だって伯爵家って貴族だし。
「まあ、まずは座ろうか」
伯爵がそう言って、先に座る。
ボクも使用人のひとりに案内されて、椅子を引いてもらえた。
もちろんそこに座る。
なんかマンガで見たことあるような長いテーブルで、お誕生日席ポジションを用意されてしまった。
ボクから見て左側に息子と伯爵、右側に娘と伯爵夫人が座ってる。息子と娘の方がボクに近い位置だ。
年齢的配慮か、そもそもそういう位置に座るのがマナーか。
どっちでもいいか……。
「先程も伝えたが、マナーなどは気にせず、楽に食べてくれたまえ」
「はい。ありがとうございます。ただ、少し……勝手ながらお願いがございます」
「ふむ? 何かね?」
ボクとミカゲで立てた作戦は……これ。
「もし、使用人の方に、マナーに詳しい方がいらっしゃるのなら、マナーについて教わりながら食べてはダメでしょうか? こういうことを実際に食べながら学べる機会など、もう二度とないかもしれませんので」
「ほう……」
「まあ、素晴らしいことだわ、あなた」
「……ジョイナス」
「はい、旦那様。ルクリンとサフラをエニシ殿に付けたいと思います」
「そうしてくれ」
ふぅ。
第一関門クリア。
これでもカイラッドさんとの商売のやりとりで、ボクも少しずつ成長できてると思いたい。
テーブルマナーなんて、中学校の修学旅行でマナー講座付きの夕食を食べた時に教わったくらいだ。もうほとんど覚えてない。
……フォークやナイフは外側のものから使うんだったかな? それくらいしか覚えてない。
マナーに関しては伯爵が許すと言ってくれてる。
でも、そこでマナーはどうでもいいって態度ではなく、できないなりに学びたいって態度の方が気に入られるかなって……小狡い考えでやってみました。
ミカゲもいい方法かもしれんのじゃ、って言ったし。
とりあえず伯爵と伯爵夫人の感触は悪くない。
あとは食べながら真面目にマナーも勉強しよう。
できるだけ、好感度を稼ぐ。
……まあ、同時並行で今頃はミカゲが屋敷の中で情報収集してるんだけどな。
そのことがバレたら好感度どころじゃない。
でも、王城でさえ余裕で侵入できたミカゲが、伯爵家の屋敷くらいで見つかるとは思えないし。
情報はいくらあっても足りないくらいだ。
「……なるほど、そうやって魔物を連携させて戦っているのか」
「驚きましたわ。魔物がそのように賢く戦えるようになるなど、想像もしておりませんでしたもの」
「お褒め頂き、恐縮です」
「上からジャイアントビー、下からグリーンウルフが攻撃してくる。それが分かっていたとしても……正面のブラッドベアーを警戒せざるを得ない。どうしても、上か、下か、どちらかに隙が出る……」
「お兄様は難しく考えすぎでございますわ。人にはできないことができる魔物をいかにうまく動かすのか、そこが重要ではありませんこと?」
息子と娘がボクの冒険者としての戦闘に興味を持ってるみたいだ。
たぶん、ボクの戦闘に関することについては、伯爵は既に騎士たちから報告を受けていて、特に驚きがないんだろう。
伯爵夫人はそういう部分に興味を示すのは淑女として如何なものか、みたいな感じかもしれない。娘を見る目がちょっと怖い。あとで叱られるんじゃないかな?
食事そのものは特に問題なく進んだ。
マナーでの許しを与えたにもかかわらず、それでもマナーを学んで失礼のないようにしたいというボクの考えは、伯爵家のみなさんに温かく受け止められた。
……頑張ってるじゃないか、うむうむ、って感じで。
どうにかして成り上がろうとしてる冒険者、くらいの印象だろうか。
そんな感じで受け止めてもらえてるんだろう。
音を立ててしまったりなんかの失敗はあったけど、それでも優しい視線しか感じなかったからな。
そもそもマナーについては伯爵が最初からできなくても許すって言ってたし。
「……エニシ殿はひょっとして、ジャイアントビーのハチミツをどこかの商会とやりとりしていないかしら?」
戦闘から話題を変える、そういうタイミングで伯爵夫人がそう言った。
でも、これは……ボクから重要な情報を抜こうとしてるって部分もありそう。
……単純にハチミツが欲しいだけ、なんて可能性は少ない、はず。
「……伯爵家がカイラッド氏から購入しているハチミツは、ボクがカイラッド氏に卸していますね」
本当は隠したい。
でも、なかなか難しい。この伯爵家との関係が今後どう動くかがまだ読めてない今は嘘をつくのもちょっとな……こっちから関係を崩したくはない。
「あら? それなら同じ価格で直接買い取らせてもいいのよ?」
「いえ、それは……今まで通り、カイラッド氏から購入して頂ければ……」
「そうなの? 直接買い取る方がエニシさんの利益になるのに?」
そんなことは分かっとるっての。言われるまでもない。
でも、カイラッドさんという……心許せる善人とのつながりの方がちょっとくらいの利益よりも大事。
ほとんど信じられないような人ばっかりの、こんな世界だからな……まだそこまで他人との関りがないだけかもしれないけど。
……実際、カイラッドさんが伯爵家にいくらでハチミツを売ってるのかは知らない。それでも、あの人がもうかるんなら、もうそれでいいし。
味方には徹底的に味方。
このスタンスで間違ってない。
もし裏切られたら、その時は報復すればいいだけだ。
「それでも、カイラッド氏からどうぞ、ご購入下さいますよう……」
「そうなのね」
「ユニシス。どうやら彼は……利益だけで動くような男ではないようだ。あまり無理を言うんじゃない」
「そうですわね」
……それ、どういう含みを持たせてるんだろう?
利益がなくても伯爵家に尽くすよな? って感じか?
いや、そこまでする気は流石にないんだけど……言外に含ませた意味まではボクには分からないから、その言葉通りに受け止めておくことにしよう……。
「ところで」
「はい、伯爵様」
さあ、きたかな。
伯爵様ご本人からの問いかけだ。
「君はここに来る以前はボーダントの町が活動の中心だったと聞いているが?」
「はい、そうですね」
「その前は、どこに?」
ああ、やっぱり来たか、本番が。
食事も終わって、そろそろお開きかなってこのタイミング。
最後にきっちりと聞いておきたいってところかな。
たぶん伯爵家が調べても、ボーダントの町以前のボクのことについては何も分からなかった。
そういうことだろう。
だから、ここで踏み込んできた。
……でも、こっちもそれを待ってたんだ。
爆弾を落とすために。
あの国を……悔しがらせるために。
「ボクは……ナタリー国から山越えをしてこのアンペーラ国へとやってきました」
「山越え、とな……?」
「あのセルバンデス山脈を越えたというのか……」
伯爵と息子のマルシスが少しだけ考え込むような表情になった。
……その程度で驚くってことは、次の爆弾はどのくらい効くのかな?
「……では、ナタリー国の王都の争いを避けてこの国へ?」
「いいえ」
「違うのか……? あちらの王都で起きた庶民の反乱は、かなり大規模なものだと聞いているが?」
ここだな。
「はい。違います。ボクは……ナタリー国で勇者召喚が行われた時に異世界から召喚された勇者のひとりでした」
「なっ!?」
「そんなことがっ!? いや、確かに勇者の召喚が行われたという話は噂で……」
親子そろって驚いてる。
ここまでは狙い通りだな。驚かせたら……もうボクの勝ちだろう。
「ただ、ボクの場合、『勇者』や『賢者』などが召喚された中での『魔物使い』だったので、役に立たないだろうと王城を追い出されたのです」
まあ、伯爵家の人たちからしてみれば……ボクが役に立たないなんて話にはならないはず。
ダンジョンを発見した本人だからな。
しかも、これからあのダンジョンで……カイラッドさんとこの町を豊かにしていく予定だし。
伯爵領で新たなダンジョンが見つかり、そこの探索やドロップ品の売買で大きな利益が生まれる。
冒険者ギルドはもちろん……国、そのもの。伯爵くらいの地位なら、王家まで話が届くはず。
さて、この爆弾があの国……ナタリー国まで届きますように……。




