第23話 ところ変われば……違うもんだなぁ……。
「……ええっと、なんでこの訓練場なんでしょうかね? 受付じゃなくて?」
「いや、おまえさんの従魔のサイズだとどう見てもここか、向こうの解体場くらいしか無理だろってば? デカすぎるんだってばよ」
「それはそうかもしれませんけど……」
「あと、解体場は流石に従魔にも失礼だろってばよ」
「確かに……それはそうかも……」
ガルーダと名乗ったフランドールの冒険者ギルドマスターがそんなことを言った。
……突然、変なことを言われたから、生きたまま解体するイメージが浮かんでしまった。なんて残酷なイメージなんだ!?
フランドールの冒険者ギルドに拠点を移すためにやってきたら、いきなりギルドマスターのお出迎えでびっくり。
そのまま訓練場へとご案内で二度びっくり。
問題はガルーダってギルドマスターが……。
「……従魔の大きさが問題なら、ギルドマスターはなんで木剣を選んでるんでしょうかね?」
「そりゃせっかく訓練場にやってきたんなら訓練するもんだろ?」
しねぇよ!?
意味分からんわ!?
冒険者ギルドテンプレってギルドマスターがやることじゃないだろ!?
脳筋か!? いや、脳筋だな!? 間違いないわ!?
相手にしてられない!?
「……あの。ボクは魔物使いなので……訓練とかはちょっと……」
「何言ってんだってばよ。おまえさん、ホントは強いんだろってばよ」
フフン、と鼻を鳴らしつつ、ガルーダは笑った。
……あ、これは脳筋だけじゃなくて戦闘狂タイプのギルドマスターか。
単純に戦ってみたい系な人ほど迷惑な存在はないと思う。
「そうでなきゃよ、ブラッドベアーを従魔になんかできねぇし、オーガはもちろん、オークだって狩るのは無理だってばよ」
そこまで予想してるってことなら、このガルーダって人はボクの強さを見抜いてるんだろうけどなぁ……。
ちょっと考えれば分かることではある。
これまであっちのギルドでオークやオーガの討伐証明を提出してきてるし。
だからってボクが自分の強さを今ここでさらけ出す必要は感じない。
もういいか。
しばらく冒険者ギルドはなしでも問題ないだろうし。
「……そういう話なんであれば」
「ん?」
「ボクはもう冒険者ギルドは辞めさせてもらうってことで」
「え? おいおいおいおい!? 待て待て待て!? 待てってばよ!?」
ボクは立ち止まらずに歩いていく。
このタイプの人なら、背中からの不意打ちとかはまずやらない。やられたとしてもキンタたちが対応してくれるし。
「え? 本気かよ? ま、待てってばよ!?」
訓練場に集まった見物客が、ボクとキンタたちのために道を開けてくれる。
ボクのためというよりは、キンタが怖いんだと思うけど。
少なくとも見物客にガルーダみたいなタイプがいなくて助かった。
はい、どいてどいて。ボクはもう帰るから。
訓練場を抜けて、大きな出入口から冒険者ギルドの受付のところへと出た。
そこで、ガルーダではないギルド職員とぶつかりそうになる。
「あっと、すみません」
「いえ。大丈夫です。では」
「あ、はい。って、確かあなたは魔物使いの……」
「ええ、魔物使いですが何か?」
「いったいどこへ……」
「おいおいおいおいぃぃっ!? 待てってばよ!?」
慌てたギルドマスターのガルーダが追いかけてきた。
ギルド職員の人がボクとガルーダを交互に見つめて、目で問いかけてくる。
「……この人が訓練場でボクを殺そうとしたので、もう冒険者ギルドは辞めようと思いまして」
「えっ? えええっっ!? 殺そうって!? えええっ!?」
「いや!? 殺そうなんて思ってないってばよ!?」
「ギルマス!? せっかくの有望株になんてことを!? 大変申し訳ありません!? どうか!? 考え直して下さい!?」
「この人がギルドマスターじゃなくなったら考え直します。では」
「ちょちょちょちょ!? わ、悪かったってばよ!?」
なんかガルーダってのが謝ってるけど、知らん。
「何やってるんですかギルマスぅぅぅっ!? オーガを狩ってくるような実力派なんですよぉぉっ、彼はぁぁっ!?」
「いや、そりゃ……オーガを倒せるんならランクは上げてやりたいんだってばよ……」
後ろからギルド職員の声が聞こえてくる。なんか苦労人っぽい気がする。
……ふうん。そういうことか。
ボクの実力を確かめて、ランクアップさせようって考えだったとは。
ここに拠点を移す前にDランクになってるから……Cランクにするつもりだったのかもしれない。
(ご主人さま……あのデカいのを叩きのめせばよいのじゃ?)
(なんでも暴力で解決するってのはダメだろ)
(それをご主人さまがゆうのじゃ? 無理があるのじゃ)
(……まあ、見物客が多いところで実力を見せたくないだけなんだけどな)
……いや、ミカゲの言う通りではある。ボクは確かに、これまで色々と暴力的な解決もやってきたとは思う。
だからといって、他の冒険者がいる前で手の内を晒す気はない。
そもそも、今までだってそういうことは裏でやってきたはず。
……毒殺とか、窃盗とか。
本当にボクのことを認めて、ギルドマスターとかギルドの職員とかがそこまで期待してるんなら……そのうち、ちゃんと謝罪にやってくるだろうと思う。
それまでは冒険者ギルドなんて無視しとけばいい。
脳筋を相手にするのは面倒すぎるし。
ま、ダンジョン発見の大手柄は……冒険者ギルドじゃないところに報告するか!
別に役所とか……衛兵の詰め所か、門番のところでもいいかもしれない。
伯爵に伝えてほしい、みたいな感じでいけばいい。
どうせダンジョン攻略には冒険者ギルドも関わってくるだろうけど、冒険者ギルドとギルドマスターの面子は丸つぶれになるだろ!
ざまあ!
「……そんなことがあったとは」
「まあ、しばらくは冒険者ギルドと関わらないつもりです」
信じられない、という顔でカイラッドさんが首を振った。
ボクも信じたくない。
本当にバカなんじゃないかって思ってる。
あのギルドマスターのガルーダって人は……冒険者は全員、訓練場での模擬戦を喜ぶと思ってるに違いない。
そんな訳ないだろ。
誰もが戦いに飢えてるなんてありえないだろうに。
「冒険者ギルドというのは確かに暴力装置ではあるけれど……それを大した意味もなく内部に向けるとは……」
「一応、オークやオーガまで狩ってくるボクのランクを上げたい、という意味はあったみたいですけども」
「エニシさんのランクを上げたいのなら、ただ上げておけばいいんです。わざわざ訓練場で戦って……強さを確認したいというのは、まだオークやオーガを倒せるかどうか分からない者に対してやるべきことなので」
正論だ。
カイラッドさんの言う通り。
ボクは誰の力も借りずに……従魔たちの力は別として、個人でオークやオーガを倒してる。
それでちゃんと討伐証明もやってるんだから、力量を確認する必要はない。
そういうことだろうと思う。
「……やはりエニシさんと話し合った通り、こちらでは食肉ギルドにも加盟しておいて正解でしたね」
「これを予想してた訳じゃないんですけどね……」
冒険者ギルドでチンピラではなくギルドマスターに絡まれるとか、予想できるはずがない。
カイラッドさんはここ、フランドールへと移ってから、繊維ギルドだけでなく食肉ギルドにも加盟した。
ボクからオークやホーンラビットなんかの肉を仕入れて売るためだ。
加盟するための運営負担金を出したとしても、それ以上の利益が出るという判断をしたらしい。
ただし、肉屋をやるというよりも、肉の卸売りっぽい感じにする予定。
他の肉屋に安く売る。
どうせ元手はボクの森の拠点のオーク牧場とか、ダンジョン内のホーンラビット牧場とか、そういうところから簡単に手に入る肉だ。
作業工程をゴブリンとかオーガが担当していて、賃金が発生しないという究極の勝ち組商売になってる。
オークは不器用なので、最初に大きく切り分けるところだけ。基本的にゴブリンとオーガの作業になる。
……オークがオークをぶつ切りにする姿はちょっと見たくない光景だったりする。
もちろん輸送を担当するのはフクロフクロウ夜間航空便だ。
「……とりあえず、冒険者ギルドの買取価格よりも安く卸しますよ」
「それではこちらも……冒険者ギルドよりも安く、肉屋に卸すようにしましょう」
「それ、絶対にもうかるヤツですよね」
「まあ、その通りです。あちらの価格はすぐに分かりますから……売れ残りなく、毎回売り切れるというのはありがたいことですよ」
そう言ったカイラッドさんとボクは顔を見合わせて、互いにニヤリと笑ったのだった。
残念だったな、冒険者ギルド。
君たちは敗北する運命にある。くくく……。




