第21話 なるほど、そういう頭の悪いやり方か
「ふざけるな!? このふたりが森へ向かった貴様を追いかけていったことは門番などから証言が出ておるのだ!」
「……ボクは別に、背中に目がついてる訳ではないんだけど……」
「ぷふっ……あ、すみません。人が死んでるというのに不謹慎でしたね」
「いや、今のはしょうがねぇだろ……」
「何が言いたいんだ貴様ぁぁっ!?」
衛兵リーダーマジ切れ。
いや、知らんがな。
「……いや、ボクが後ろから追いかけたのならともかく、ボクを後ろから追いかけてきた人のことなんて知りませんよ?」
「それはそうでしょうね」
「まったくだ。そもそも、ワルサーとコアクーは何のためにこいつを追いかけてたんだ? そこも当然、調べたんだろうな?」
「あのふたりはグリーンウルフを狙っておった!」
「グリーンウルフを? ああ、こいつがテイムしてるんだったか。つまり、従魔を奪おうとしていたってことだな?」
「そういうことだ!」
「何威張ってんだ? そんならおかしいのはワルサーとコアクーの方だろぅが?」
「なっ……」
ギルドマスターの一言で、衛兵リーダーが口をパクパクさせてる。
ボクもそう思う。
どう考えても、おかしい。
「……魔物使い自体が少ないから知られてねぇが、魔物使いの従魔を殺したり、奪ったりするのは罰金刑だろぅが」
「それは……そう、なのか……?」
「知らねぇのかよ……情けねぇな……」
「いや!? だが!? こいつの従魔は無事……かどうかは知らんが、ワルサーとコアクーはもう森から10日も戻ってきておらんのだ!」
ボクとギルド職員とギルドマスターは一度3人で顔を見合わせてから、改めて衛兵リーダーの方を向いた。
「そりゃ、普通に死んだんじゃねぇのか?」
「それは普通に死んだんでしょうね?」
「それは普通に死んでいるんだと思うけど?」
「貴様が殺したんだろうが!?」
「だから、名前も知らない人とか、関わってないですよ? 何か、ボクが殺したという証拠でもあるんですか?」
「それはっ……」
あ、証拠はないのか。
あるのは……ボクの後ろを追いかけたという目撃情報だけ。
しかも、ボクが追いかけた、ではなく、向こうがボクを追いかけていたという目撃情報でしかない。
……まあ、ボクが殺したのは間違いないけど。
衛兵リーダーの予想は当たってる。びっくりするくらい、衛兵リーダーの妄想通りのことをやったと思う。
でも、証拠はない。そういうヘマはしてないつもりだ。
ボクが色々と考え込んでいると、ため息を吐いたギルドマスターが呆れた様子で説明を始めた。
「あのなぁ。ここの森はよぅ、この町ん中とは違って、危険なんざ、山ほどあるんだっつぅの。油断すりゃ、冒険者なんざ、すぐに死ぬんだ」
「だ、だが……」
「そもそもワルサーとコアクーが死んだからって何かあんのか? 冒険者が森で死んだからって今まで衛兵が出しゃばってきたことなんざ、聞いたこともねぇぞ? 1年で軽く10人以上は森から戻ってこねぇだろぅが」
「そ、それは……し、子爵様が……」
「あん? ここの領主が? なんでワルサーとか、コアクーのことに口出しするんだ?」
えぇ?
ギルドマスター、かなり不敬なんじゃないか? これ、大丈夫なの?
子爵だから貴族だよな? 言葉遣いとか大事なんじゃ?
ただ、子爵かぁ。
そこが口出ししてボクを引っ張り出そうとしてるって?
オゥ、イェー商会と子爵のつながりは代替わりしても続いてるってことかな?
それでボクにはグリーンウルフを持ってきてほしい、と。
だいたい裏は読めたか。
ボクに殺人の疑いをかけて、それを許すかわりにグリーンウルフを差し出せ、みたいな。
そういう頭の悪そうなやり方だろうな。
「とにかく、だ。ハンパな理由で冒険者をとっ捕まえようなんざ、俺の目が黒いうちは認めねぇぞ? 領主にもちゃんと言っとけ。ふざけたマネしてると冒険者ギルドをまとめて敵に回すぞってな」
ギロリ、と音がするような感じでギルドマスターが衛兵たちをにらみつける。
「そ、そのようなことを、え、偉そうに言いおって……」
衛兵リーダーはギルドマスターにビビりながらも、なんとか言い返す。
でも、弱い。弱すぎる。
「少なくともてめぇよりは立派な立場にいるぞ? 冒険者ギルドはこの町だけ、この国だけの組織じゃねぇからな? てめぇらがやろうとしたことと、それにここの子爵が絡んでるっつぅ話は、王都のギルド本部に伝えとくから覚悟しとけや?」
「なっ……」
「では、お話は終わったようですので、どうぞお引き取り下さい」
最後はギルドマスターじゃなくて、ギルド職員が〆るんだ!?
そこにびっくりしたよ!?
いや。
それにしても……ここの冒険者ギルドって、かなりしっかりしたいい組織だな。
ちゃんと守ってもらえて助かった。
本当はボクが殺してるからちょっとだけ申し訳ない気もする。
ギルド職員たちがとり囲むようにして、衛兵たちを外へと追いやっていく。
実にありがたい対応だ。
それを見ていたら、ギルドマスターがボクの方を覗き込んだ。
「おぅ。面倒かけたな。なんかあったらまた追い払ってやるから安心しな。そんで、これからもオークやらオーガやら、森で狩ってくれると助かるぜぇ」
ニカっと音がするようないい笑顔だけど、それでも厳ついギルドマスター。
本当にいい人なんだと思う。
カイラッドさんよりも先に出会っていれば、違ったかもしれない。
だが、すまぬ。
許せ、ギルドマスター。
「……ボク、今日は拠点を移動するって話をしてたんですよ……」
「なんだってぇぇぇぇっっ!?」
その大声は、冒険者ギルドの建物全体をビリビリと揺らしたのだった。




