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決勝戦 - 序 -

 ―…雷鳴が轟いている。全天候型に設計され、今は風雨の侵入を許さぬようドーム型の天井が姿を現しているこのコロッセオの中でも、その雷と雨の激しさは地響きのように低く轟音を響かせている。

 決勝戦に似つかわぬ悪天候にも関わらず、今年の王者の誕生をその目で見届けようと、関係者はもとより一般の観客までもが多く訪れ、スタンドを命の色で染めつくしている。代魔会は、毎年決勝戦以外は非公開試合であるからして、その競技を生で観られる機会は他にまたとなく、一部の物好きたちに於いては、何をおしても年に一度のこの日だけはこのコロッセオという場所に勇み足で駆けつけるそうだ。


「選手入場!」


 しんぱんの号令に従い、フィールド中央へ行進する。反対端からも同じように、オフホワイトを基調とした正装を纏った5人が、こちらへ向かって歩を進めてくる。中央に到達し、互いに横隊のまま向かい合う。こう見ると、昨日はスタンドからしか見てなかったのでわからなかったが、ユーリ・アルグランデ以外の4人もまた、非常に顔立ちの整った面々が集まっている。ユーリも同様に、こちらのチームメンバーを一瞥する。その端の一点を二度見したように思えたが、気のせいだろうか。


「選手紹介!」


 決勝戦ということもあり、また一般の来場者がいるということもあり。この決勝戦だけは開始前にメンバー紹介が行われることが通例となっているようだ。


「まずは、本年の台風の目。ラベーヌ高等魔術学校から、感情トリッキールーキー!安久慧りのん!」


 会場が歓声に包まれる。これからその雄姿を届けるであろう選手へのはなむけか。一層気が引き締まる。…変な二つ名をつけるのさえ止めてもらえれば。


「続けて、こちらもルーキー。ダウナー系ぶっ飛びガール!雲雀張空零!」


 微妙な二つ名付きの紹介は続く。「昨年の次鋒!天宝治クリスティーヌン!」「マジ女神!入見実那!」と、きて。


「最後に!クールビューティーか、狂うビューティーか…。今大会、話題の中心にはいつも彼女がいました。茅水封理!」


 全然嬉しくない紹介で締め括り、続いて相手のターンに移行する。


「一方、昨年の優勝校。ディフェンディングチャンピオン・聖マイレージ魔術学校から、連撃のツインテール!但馬凛(たんば りん)!」


 薄い茶髪のツインテールの女が、最初に紹介される。小柄だが、機動力がありそうだ。


「見た目にそぐわぬ重戦車!環那いこ(わだ いこ)!」


 続けて、華奢に見えるピンクのポニーテール。…ん?


「優しい声色に癒されて!城波モニカ(しろは もにか)!」


 白髪の中肉中背のボブ。笑顔が素敵な彼女はモニカさん。…おや?


「あなたのやる気もフォルティシモ!黒葉庵(くろば いおり)!」


 黒髪ロングの正統派美少女、庵ちゃん。いおりんって呼びたいね…って、おい。


 こいつらどこの異種混合バンドだよ!タンバリン!和太鼓!打楽器の相性が良くないよ!しかも和太鼓なのに髪ピンク!全然和風じゃない!それに!白ハーモニカと黒バイオリン!さっきのリズム隊と全然合わないじゃないか!どーなってんだ!責任者出てこい!


「そして最後に!昨年優勝の立役者!圧倒的強さを誇る、双剣のプリンス。神祓ユーリ・アルグランデ!」


 会場が沸騰する。これでもかと割れんばかりの声援が反響する。これが、昨年王者の貫禄。この場の空気を一瞬で支配されてしまった。


「それでは、両校のみなさん。心の準備はいいですか?泣いても笑っても最後の試合!今年度の世代魔術競技大会決勝戦!レーッツ…ダイマーッ!!!」




 試合開始の合図を皮切りに、例のごとく両チーム一斉に散開する。まずは一旦距離を取り、出方を伺う。相手はディフェンディングチャンピオン。いきなり突っ込むのは得策じゃない。それに、私たちは昨日の聖マイレージの試合を観ている。序盤での戦略の立て方に共通の癖でも見出せれば、一気に対策が立てやすくなる。さあ、どうでる。

 こちらの動きを見て、ユーリ・アルグランデは仲間へ指示を出す。相手の5人も同様に散り散りになり、私たち一人ずつをそれぞれマークするように距離を詰めてくる。リスティ、リノンには、それぞれ但馬凛、環那いこが。そられには黒葉庵、パイセンには城波モニカが。…えーい、ややこしい。次から楽器名で呼ぶ!最後に、私にはユーリ・アルグランデが。マンツーマンの接近戦を仕掛けるべく侵攻してくる。迎撃の態勢を取る準備をしていると、バイオリンが音の魔法を奏でる。おそらく身体強化系のバフ魔法なのだろうが、音の魔法って何属性なんだ?対処が難しい。

 バイオリンのバフにより、相手の移動速度が一段階上昇する。速いが、対処できないほどではない。リノンは和太鼓の両手に握られたメイスのような打撃武器から放たれる衝撃波を電流操作による磁力波を衝突させて受け止めているし、そられもバイオリンの攻撃を躱し続けている。リスティもタンバリンの金属音をさせながら繰り出される速い連撃に対し、地面から盛り上がる岩の盾を生成しながら上手く受け流している。加えて、時折その岩を尖らせ、相手の死角から突き刺そうと反撃までも絡めている。体勢を崩したところに一撃が掠り、タンバリンに傷を負わすことができたものの、ハーモニカが即座に音の魔法で癒す。さすが決勝戦。個の力も無意識下に行われる連携もレベルが高い。一筋縄ではいかない。対処できないほどではない、が。反撃する隙もほとんどない。一気に覚醒で勝負をかけるべきか。


「リスティ!」


 ユーリの双木刀から繰り出される連撃をなんとか捌きつつ、相棒に目配せする。意図を汲み取ってくれたようで、小さく頷いたのが見て取れた。


「先輩行きますわよ!リノン!そられそちらは頼みますわ!」

「…御意。」


 即座に覚醒態勢に入り、それぞれ即席のパートナーと合流する。


「場所を変えますわよ!」


 リスティとパイセンはタンバリンとハーモニカを誘導し西へ、リノンとそられは和太鼓とバイオリンを吹っ飛ばし東へ。それぞれ戦場を変える。戦局はおおきく3つに分かれた。


「余所見してて大丈夫か?」


 ユーリが光の魔法で目をくらまそうとする。同時に諸手の木刀で回転切りをかましてくる。…私は目を閉じ、気配でそれを宙返りして避ける。


「そっちこそ。助けに行かなくていいの?うちの子、強いよ?」

「…確かにな。君とは一時休戦だ。」


 つばぜり合いを力任せで払いのけ、ユーリは西へ向かっていった。…あっちはパイセンもいるし、大丈夫だろう。だったら、私は東だ。




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