敵情視察
準決勝第二試合。昨年度優勝校である聖マイレージ魔術学校ともう一校による試合が開始されようとしている。私たちラベーヌ高校もチーム全員でスタンドから観戦している。コロッセオの観客席からフィールド上の試合を見るのは何気に始めてだ。最も、ただ観戦に来たわけではなく、言わずもがなこの試合の勝者と私たちで決勝が行われることになるので、主たる目的は偵察ということになる。フィールド上では、歴戦の猛者たちが互いに5人ずつひと並びになって向かい合っている。オフホワイトを基調とした正装に身を包み、4人の女性を従えている金髪イケメン。彼こそが前年度優勝の立役者であり、近年最強と言われる双剣のプリンス。神祓ユーリ・アルグランデだ。卒業後は国軍のエリートコースに入隊確実とも噂されているらしい。昨日、隣に並んで一緒に過ごしたはずの男が、やけに遠い存在に思える。…それは、物理上の距離だけの話ではなく、彼の正体を知ってしまったから、なのかもしれない。
―…
「そうか、君たちがラベーヌ高校の選手だったんだな。」
ユーリは驚いた様子で、リスティの言葉に反応する。その様子を見ると、彼のほうも私が代魔会に出場していることは知らなかったようだ。
「すまない。正直、誰が対戦相手でも負ける気がしないから、偵察はしないようにしているんだ。でも、話だけは聞いているよ。今年、とてもユニークな勝ち上がり方をしているチームがあるって。一昨日の準決勝の話も耳に届いてる。中でもたった一人で相手を倒したり、血だまりができるほど容赦なく攻撃する脅威の新星がいるって噂だったけど。…フーリ、君のことだったんだね。」
嫌な情報だけが捻じ曲がって届いている、とも言い切れないが、先程まで一緒にいた男にそう認知されているのはいい気分はしない。
「…幻滅した?」
「いいや?君のことはこれでも少しは知っているつもりだし、事情があったんだろうなとは推察してるよ。ただ…。」
ユーリはお得意の優しい笑顔を崩さないまま、けれども張り付いたその表情の奥に別の感情を滲ませたまま、こう続けた。
「ただ、どんな事情があろうと、万が一俺のチームメイトを殺そうとするなら、俺は君を容赦なく倒すよ。」
刹那、重力が強くなったかのような感覚に襲われた。しかし、それもすぐに解け。
「ま、君がそんなことしないのも知ってるけどね。でも、楽しみだな。フーリ。君となら楽しい戦いができそうだ。決勝戦で待っててくれ。」
一方的にそう言い残し、彼は店を後にした。本当のところ、私のことをどう思っているのかわからない。追いかけて、聞きたい。だけど、彼は倒すべき相手で。そして…、もしかしたら復讐すべき相手なのかもしれないわけで。心のざわめきが、強く、強く燃え上がる。復讐心に駆られた私の魂と互いに惹きつけられるかのごとく共鳴する。
私は、ユーリを。神祓ユーリ・アルグランデを、倒せるのだろうか。
―…
いつの間にかお馴染みになってしまった「しんぱん」のヘンテコな試合開始の掛け声に、スタンドの熱気も一層熱く呼応する。10人の選手が一斉に駆け出し、ところどころで衝突が起き始める。心ここに有らず、ではよろしくないので観戦に集中しようとしたところで、隣に座っていたイルミナパイセンがそっと耳打ちしてくる。
「知ってますか?あのしんぱんのシンパさん。漢字で書くと「清羽」って書くらしいですよー。読めないからカタカナ表記なんですねー。というか、この国の方だったんですね。」
へぇー、知らねーよ。
「ところで、パイセン。なんか私が闇属性使ったこと、みんななんとも思ってないみたいだったけど。何吹き込んだの?」
「吹き込んだ、なんて失礼ですねー。私はただ、「フーリさんは普段から結構情緒不安定で病み病みだから、特例的に闇属性が発現したのかもしれませんね。」って言っただけですよー?そもそも私がそう説明しなくても、あのブラインド空間の色が氷に反射しただけって思ってたようですし。ま、いずれにせよ良かったですねー。」
バカで、と言い切らないところは流石に腐っても女神様のようだ。
「腐ってないですぅー!ピチピチですぅー!」
はいはい。まあ、確かによかった。だけど、みんなの目の前で敵を一刀両断したことには変わりない。そこを大事にしないで居てくれたのは、みんなの気遣いだろう。これも、結果としてあのリーダーが助かった(ように見えた)からか。パイセンのおかげだな。
未だにぶーぶー言っているパイセンに心の中で礼を言いつつ放っといて、コロッセオのフィールド上に視線を戻す。ちょうどユーリが仲間に号令を掛けたところで、その合図に併せ聖マイレージの女性4人が一気に敵を気絶させた。…強い。残った一人にはユーリが相対している。両の手に握られた木刀が、瞬く間に輝きだす。と、瞬きした次の瞬間には敵は倒れており、ユーリは構えを解いて背を向けていた。これが、昨年度優勝校の実力か。圧倒的に強い。
ふと、フィールド上のユーリがその切先をスタンドへ向かって掲げた。見間違いでなければ、いや、たぶん確実に。その切先は私の方を向いていた。…私への宣戦布告、というわけだ。
―…ユーリ・アルグランデ。いいんだよね、私が倒してしまっても。
彼の切先を受け流すかのように視線を外し、私はスタンドを後にした。決勝戦は、翌日。前年度優勝校・聖マイレージ魔術学校対ラベーヌ高等魔術学校。相手が有利だろうと、こちらが不利だろうと。ユーリだろうと、フーリだろうと関係ない。私は、私の心に従う。…もし、彼が勇者なら。明日、それを見極めてやる。覚悟しておけ!ユーリ・アルグランデ!




