もしかしなくてもデート
ユーリとふたり仲良くボールを破壊したことで店員さんに頭を下げた後、着替えて休憩とランチを兼ねて喫茶店に出掛けた。互いにいろいろな話をしたが、ユーリの聞き方がうまいのか、とても会話のリズムがよく、話が弾んだ。
ランチのあとは、これまた行先を告げられぬままプラネタリウムへと連れていかれた。人工とはいえ、無数にきらめく星たちを見ていると、もしかすると自分の悩みなど宇宙レベルではちっぽけなのかもしれないとすら思えた。だけど、それ以上に。スポーツに興じ適度に疲労し、更には昼食を摂りお腹も満たされていたので、この薄暗い環境でリクライニングできるシートに身を委ねていると、ふたりともいつの間にかぐっすり眠ってしまっていた。…久しぶりに深く眠れた気がするな。
「プラネタリウムは失敗だったな。」
ユーリは苦笑いしているが、私にとってはこれも良かった気がしている。
「さて。日も暮れてきたけど、これからどうする?」
昨日の今日で急ごしらえしてくれたプランはどうやらここまでらしい。聞けばユーリはこのあたりに住んでいる訳ではなく、一時的に地方から出てきているようだ。ということは、土地勘もないのだ。にもかかわらず、いろいろ調べて連れ出してくれた。素直に感謝する。…おかげで、少し勇気が出せる気がする。
「…一緒に来て欲しいところがあるの。」
「わかった。行こう。」
目的地も聞かず、ユーリは同行を承諾してくれる。こういうところが、実にユーリらしい。…今はその優しさに甘えさせてもらうことにする。
ユーリを連れ添って、再び喫茶『みゃ』の扉の前に立つ。昨日は、この扉にもみんなにも、自分自身にも背を向けてしまったが、このままじゃダメだと頭ではわかっている。だから、こうして再びここへ来た。たとえ、これまで通りに一緒に居ることができなくなるのだとしても、私がしてしまったことへの説明責任は果たしたい。みんなにどう思われたとしても、私を慕ってくれたみんなには最期まで向き合いたい。それが、今の私だ。…そのあとのことは、それから考えたらいい。例えば、この地を離れどこか遠いところに行ってもいい。勇者を探しに出てもいい。もし、勇者に出会えても復讐するかどうかは、未来の私が決めたらいいのだ。精々それまでに、こんなことがあっても消えない復讐心に染まった魂との付き合い方を覚えておけばいい。
「…大丈夫か?」
と、ユーリは私の肩にそっと手を置く。
ゆっくりと頷き、扉に手をかけ開く。…店内の視線が私に集まる。
リスティ。
そられ。
リノン。
パイセン…、はいないのか。
…みんな、昨日はごめん。一昨日も、怖い思いをさせてごめん。
視線に耐えきれず、頭を下げようとした刹那―…。
声が鼓膜に突き刺さった!
「「「え~っ!!!」」」
3つの叫び声がユニゾンする。…なんだよ!うるさいよ!
「フーリ先輩っ!可愛いっ!可愛すぎるっ!!!」
「…これは、もしかしなくてもデート。髪まで整えてハーフアップにしてる先輩、素敵すぎる。」
「茅水封理!いつの間に彼氏なんて!あなたそういうの興味なかったはずでしょう?」
「…クリス先輩、嫉妬してる。」
「ち、違いますわ!」
「先輩可愛い可愛い!はあはあ!」
いつの間にか私は大声を出力し続けるトライアングルに囲まれ、その騒音の発生源たちは三者それぞれ興奮冷めやらぬ会話を交わしながら、パシャパシャと写真を撮り続けている。…ユーリ!待って!そーっと帰ろうとしないで!こんなときこそ私を助けてよ!
「なんや!封理!べっぴんさんになってもうて!おまけにイケメン連れて!パパショックやわ!」
うるさいのが一人増えた!そしてあんたはパパって歳じゃないしこのイケメンも彼氏じゃない!
「彼氏じゃないんですの?…ほぉ~?」
どういう感情だよ!それは!
「ちょ、ちょっとみんな一回落ち着いて…。」
「「はい。」」
…くそ、こういうときだけ聞き分けがいい。良いチームワークだな!
「私、みんなに謝りたいんだけど…。」
「…謝るってなにを。」
「私たち何かされましたっけ?」
「いや、昨日急に帰っちゃったし…。」
「まあ、そういう日もありますよねっ。先輩、情緒不安定だしっ。」
「あなたが言いますの?安久慧りのん。覚醒したら輩みたいになるくせに。」
「クリス先輩だって泥団子お嬢様のくせにっ!」
「やめてくださいまし!そのおでこをピカピカに磨いてやりますわよ?」
「ごめんなさいっ!すみませんでしたっ!ごめんなさいっ!!!」
「わかればいいんですの。」
…あのー…。
「なんですの?茅水封理。まだ何かありまして?」
「いや、他にもあの魔法使って怖がらせちゃったりとか…。」
「…女神先輩から聞いてる。フーリ先輩も大変だった。」
パイセンから?…何を?
「そうですわ。だから、そんなこと気にしないでくださいまし。それに、あなたは私たちを救ってくれた。みんなこれでもあなたに感謝してますのよ?」
そられとリノンも頷く。…みんな、ありがとう。
「そんなことより、茅水封理。あなた、どうしてその人と一緒ですの?」
「あー、ユーリのこと?ちょっと知り合いになって、いろいろ良くしてもらったんだ。リノンを助けてくれたのも彼だよ。」
ユーリを紹介するも、彼は謙遜の仕草を見せる。
「あのっ!助けてくれてありがとうございましたっ!」
「いやいや、元気になったみたいで良かったよ。」
「しかし、まさか安久慧りのんの恩人があなただったなんて。世間は狭いですわね。ということは、つまり。茅水封理の言っていた、「かっこいい人」も彼なのですわね。」
ちょっと!本人を前にしてやめてよリスティ!
「…あなた、もしかして気付いてませんの?」
気付いてないって…何が?
「そこにいる神祓ユーリ・アルグランデこそ、私が以前言っていた勇者のような人。昨年の代魔会で聖マイレージ魔術学校を優勝に導いた王者その人なのですわ。」




