どうみてもデート
翌日。柄にもなく洒落こんで、滅多に穿かない膝上のスカートをはためかせながら、待ち合わせ場所へ向かう。普段の制服よりも更に短いその丈に一抹の不安を覚えながら、慣れない化粧が崩れないよう細心の注意を払う。まさか自分がこんなに年頃の女の子みたいな行動に出るとは思ってもみなかった。中身、34歳なんだけどな。今日くらいはいいよね?見た目通りの17歳で。
ふと通りかかったアーケードに並ぶ、オシャレなショップのショーウィンドウに自分の姿が映る。どこからどう見ても可愛い女の子で、まさか中身が殺人鬼だとは誰も思うまい。…やめよう。今日くらいは、何もかも忘れて普通の女の子をしよう。そう心に決めながら、ショーウィンドウを鏡代わりにして前髪を直す。…よし、大丈夫。かわいいぞ、私。
「うん、可愛いな!フーリ。」
後ろから覗き込む男の姿が、ショーウィンドウに反射する。
「ユーリ!なんで?!」
「いやあ、待ち合わせ場所に向かおうと思ったら、フーリが必死こいて前髪直してる姿を見てしまったもんだから。これはイジっておかないと、と思って。」
「やめてよ、バカ。乙女心って知らないの?」
「バカはどっちだ!これでも結構モテるんだぞ!」
そんなことは見たらわかるが、それと乙女心を解するかどうかは話が別だ。まあ、この男はきっと解しながら、私相手だからあえて突っ込んで来てるんだろうけどな。
「よし!それじゃ行こうか!」
「そういえば、行くってどこに?」
「内緒!」
目的地を伏せられたまま、差し伸べられたユーリの手を取り、素直にそれに引かれる。ただ一緒に出掛けるだけのつもりだったが、端から見たらこれはどうみてもデートだ。さすがの私も、胸の鼓動が強くなるのを自覚する。…今更ながらいいのか?こんな私が普通に楽しんでしまって。やっぱり今からでも帰るべきだろうか。
「まーた、余計なこと考えてるな。」
私の手を握る力が強くなる。…簡単には帰してくれない、か。
最初に着いたのは、スポーツアミューズメント施設だった。バスケットボールや、バドミントン。バッティングなど。たまたま全部「バ」で始まってしまったが、それ以外のいろいろなスポーツも楽しむことができる。身体を動かすことで、嫌なことも忘れてしまおうという魂胆か。だけどね、ユーリ…。
「私、スカートなんだけど。」
こういうところに来るなら、事前に言ってほしい。それ相応の恰好で来なければ、いろいろと困るのだ。
「だと思ったので。ほい、どうぞ。」
私の異議をも予測していたかのように、ユーリは紙袋を渡してくる。中を覗いて見ると、新品のジャージとスニーカーが入っていた。
「お洒落してくると思ったから、買っといた。着替えてきなよ。せっかくだから、思いっきり遊ぼうぜ。」
…こいつ、慣れてる?あまりに用意がいい。でも、サイズとかどうしたんだろう?と疑問に思っていると、私の表情を察してか補足説明をくれた。どうやら昔にアパレルでアルバイトをしていたらしく、「サイズくらい見たらわかる」そうだ。用意周到で挽回しかけたけど、最後のそれで一周回ってギリギリ蛙化に片脚を突っ込んだわ。…やっぱり、私に恋愛なんて向いてないんだな。
一通りいろいろなスポーツを楽しんだところで、少し休憩する。ユーリが用意したジャージやスニーカーは悔しいほどにピッタリで、それでいてファッションを崩さないように適度にデザイン性に優れたものだったので、周りの視線を気にすることなく存分に身体を動かせた。やっぱり身体を動かすのは気持ちいい。嫌な気分も、汗と一緒に流れていくようだ。にしても、ユーリのやつ。何をやらせても上手いし、絵になる。私もなんでもできてしまうタイプなので、ここまでの勝敗は五分五分だ。…次で勝ち越してやる。
「負けず嫌いだなー。じゃ、あれで決着をつけよう!」
と、ユーリが指さした先にはテニスコート3分の1程の競技スペースがあった。おおよそ、バドミントンのダブルスコートほどの広さで、ネットを挟んでパドルと呼ばれる卓球のラケットに似たものでプラスチック製のボールを打ち合うその競技は、最近話題になっている新興スポーツの一種で、ピックルボールというらしい。
「へえ、サーブした側が取った点だけポイントに計上するんだって。11点先取で勝ちらしい。」
コート横に置いてある簡単なルール説明をユーリは読み上げる。
「じゃ、サーブ権はあげるよ。」
「ハンデのつもり?」
「いや?負けたときに言い訳できないようにと思って。」
こいつ、見た目によらず良い性格してるな。とはいえ、実際ユーリが有利で、私フーリは不利なのだ。だって、フィジカルが全然違うから腕の長さも全然違う。カバーできる範囲がどう考えてもユーリのほうが広いのだ。
「…だったら、サーブで切り崩す。」
ピックルボールの特徴のひとつでもある、アンダーサーブにのっけから回転を掛ける。
「いきなりカットサーブかよ!」
回転のかかったボールは、ユーリの顔面目掛けて変則的にバウンドする。ユーリは体勢を崩し、そのままパドルは空を切る。
「はい、私のポイントね。」
「くそ、次は必ず返す。」
明らかにカットサーブを警戒しているユーリに対し、今度は速い球速のサーブをその足元へ打ち込む。…辛うじてレシーブされたが、返球は緩い。今度はそれを逆サイドへ強打する。…またしてもリーチを活かしてギリギリ返されたものの、ボールは力なく浮いている。チャンスボールだ…!
…決まった!我ながらナイススマッシュだ!
と普通ならポイントゲットとなるところだが、いるはずのないところにそいつは現れた。
「させるか!」
光速で移動したのかと思うほど素早くスマッシュコースに現れ、ノーバウンドのままガラ空きの逆クロスへボレーを決められた。…嘘でしょ?
「これでサーブ権は俺のもんだ。」
何かを企んだ表情で、サーブの体制に入る。…何をしてくる?と警戒していると、ユーリは身体を少し反転させ、パドルの裏面でカットサーブを放った。
「バックカット!?器用すぎるでしょ!」
お互い今日が初プレイとは思えないほどの戦略戦だ。
…このバックカット、通常とは逆にバウンドする。だったら、カットにはカットだ。身体の外へ逃げていくバウンドに対し、逆らわないように更にさらに回転をかけレシーブする。しかし、ネットに詰めてきていたユーリによって、またボレーが決められる。…だけど!
「それ!反則!」
「え?うそ?」
「レシーブをノーバウンドで返球するのも、その線より前で返球するのも反則!」
「マジか!ちゃんとルール見てなかった!」
「…サーブ権、返してもらうね。」
…それから、どれくらいの時間が経っただろう。11点先取であるにも関わらず、両者一向に引かないシーソーゲーム。10点を過ぎた頃からは2点差をつけないと勝敗が決まらないのだが、30対30を超えた頃にはさすがに疲れが出てきたのかミスが目立つようになってきた。それでも互いに譲らず、ネットを挟んでのボレーの応酬が続く。…いつ、この戦いは終わるのだろう。終わってほしくないような気もするけど。
たまたま観ていたらしい誰かが言った。
「もう、じゃんけんで勝敗決めなよ…。」
…その時だった!
カン!と乾いた打球音と同時に、破裂音がした。激しい勝負にボールが耐えきれず、真っ二つに割れたのだ。割れた半分は私のコートに、もう半分はユーリ側のコートに転がっていた。
「…引き分けか。」
いや、引き分けってなんだよ。ていうか、この感じどこのテニス系バトルマンガだよ。
突然訪れた熱いバトルの意外な幕引きに、いつの間にか集まっていたらしい観客たちは拍手を送る。…恥ずかしいのでやめてもらいたい。




