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其の、刹那に。

 ―…ふと、思い出す。前世で、私が殺されたときのことを。


 私に向けられる杖先。

 展開される魔法陣。

 …魔術師の放った、炎。


 ― 私に力があれば、今すぐあいつを殺してやるのに。 ―


 憎い。…憎い、憎い。憎い憎い憎い憎い!!


 …数多の魔法陣が私のほうを向いている。

 (嗚呼、私はまた殺されるんだな。)

 どこか冷静なままの、凍り付いたままの心がそう呟く。


 ―…憎い、あいつに殺される私が。

 ―…憎い、仲間を守れない私が。

 ―…憎い、復讐を成し遂げることができない私が。


 ―…憎い!力のない私が!!!


 視界に映る魔法陣は紫金に輝き、今にも全てを無にしようとしている。

 そこには、何の殺意も感じられない。ただ、「終わる」という事実が訪れるだけ。


「―…はっ!はははっ…!」


 笑わせる。


 …何の殺意もないって?


 そんなの―…




 その場に居た誰しも、何が起こったか理解らなかっただろう。


 その場に居た誰しも、その眼に映る現実を信じることができなかっただろう。


 …だけど、これが現実だ。

 私が選んだ、現実だ。


 これが、私の殺意だ。




 …魔法陣は徐々にその形を失っていく。術者の命が途絶えたのだから当然だ。じきにこの闇の天蓋も消失する。そうなれば、私のしたことも公になってしまう。

 だけど、後悔はない。こうしなければ、やられていた。仲間を、全てを失ってしまっていた。私の生きた意味すら、消えてなくなってしまうところだった。


 私の足元には、縦に真っ二つになった、かつて人間だったものが転がっている。

 先刻までは何とか意思疎通ができていたそれも、今や完全にただの肉塊と化している。夥しい赤がそれを中心に薄く広がっていく。


 先の刹那、私はこいつを殺した。

 無我夢中だった。

 何も考えず、只々殺意に支配されたまま闇の氷剣を生成し斬りかかった。


 闇を覆うのも、また闇だ。


 奴の闇など、たかが知れていたのだ。

 人を物のように扱い、実験のごとく殺そうとする。

 そこに、命を奪うという覚悟など介在しない。


 命を軽んじ、その重みを知ろうとしないやつに殺されるだなんて御免だ。

 だから、私はその重みを教えてやったのだ。

 復讐に支配された本物の殺意を以って、本物の闇で安っぽい殺戮を覆い潰してやったのだ。


 …背後に目線をやる。

 仲間たちが怯えている。パイセンすらも、その場を動けずにいる。


 …ねえ、みんな。私が怖い?


 だけどね、これが本当の私なの。

 少し先の、未来の私の姿なの。

 どうせ、勇者を見つけたらその命を奪うつもりだった。

 それが少し早まってしまっただけ。


 だから、お願い。…そんな顔をしないで?


 もっと、怖がってよ。


 そんな、可哀相と哀れむような目で見ないでよ。


 泪なんて流さないでよ…!




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