『永哀之総葬』 ― えいあいのそうそう ―
「べっぴんさんたちに囲まれてしもうた。余もなかなかにモテモテなものよ。」
5対1という圧倒的戦力差を目にしても、リーダーは焦る様子がない。かといって、諦めている様子でもない。…まだ何か奥の手を隠してやがるな。
「先輩っ!あっしヤっちゃっていいすかっ!?いいっすよねぇ?!」
「…そられがやる。フーリ先輩、指示を。」
「待て。様子がおかしい。迂闊に動くのは危険だ!」
「私もフーリさんに賛成ですよー。この方は、まだ何か仕掛けてくる。」
決着を逸るリノンとそられを制止しつつ、相手の動きに細心の注意をはらう。この状況、こちらから仕掛けるにしても後輩たちに切り込ませるのはリスキーだ。…行くなら私が行く。
「ちっ…。素直に掛かって来てくれたら返り討ちにできたんですがね。」
!?―…誰の声だ?!聞き覚えのない声を鼓膜が認識する。敵の誰かが復活したか?!
咄嗟に辺りを見渡す。―…が、倒した者は皆地面に突っ伏したままだ。だったら、今の声はどこから…。
「どこを見ているのですか?私はこちらですが。」
神経を研ぎ澄まし、声の聞こえた方向を信じ、ノールックで氷の魔法を打ち込む。…反射的に放ったそれは、何故か敵のリーダーへ向かって一直線で飛んでいく。リーダーはそれを徐に消し去る。…炎の魔法で。
おかしい。奴の属性は闇のはずだ。何故、炎の魔法を使えるんだ。見間違いじゃない。間違いなく、炎を放った。と、疑念に浸る猶予もなく、反撃のファイアボールが飛んでくる。疑念は確信に変わったが、今はこの攻撃への対処が先だ。…氷がダメなら水だ。水魔法で打ち消す!
「互いに相性は良くないようですね。…ま、あなたが炎を嫌っているのは今のでわかりましたが。」
何故だ。何故、二属性の魔法を使えるんだ。私のように複数の属性が発現することは、稀ではあるがないわけではない。だが、「ないわけではない」という表現からわかるように、滅多にないことなのだ。滅多にない。つまり極めて少なく、ほとんど見られないということ。私だって、たまたま前世と繋がっているから使えるだけ。普通の人に、複数の属性が発現するのはありえないといっても過言ではないのだ。
「こらこら、勝手に喋るでない。」
「しかし、このままではあなた様が…。」
「構わぬ。余に任せて下がっておれ。話がややこしくなる。」
信じられないことは連続する。先程の声と、リーダーの声が会話をしているのだ。それ自体は、敵の仲間が気絶している状況を度外視すれば、そこまで驚くようなことではない。私が驚いたのは、その声の出処だ。ふたつの声は、同じリーダーの口が動いて発されていたのだ。
「…なるほど、そういうことですかー。あなた、魂が混ざり合ってますね?」
魂が、混ざり合う…。なにそれ?どういうこと?
「違和感を感じていたんですよー。どうも魂の色も形も綺麗じゃない。最初は人でも殺めたせいかと思ってましたが、それだけじゃないですね?あなた…いえ、あなた方はその身体にふたつの魂が混在して混ざり合ってる状態。つまり、人格がふたつある状態なわけです。…転生した際に元の自我と共生してしまったのか、元々ふたつの魂が混ざり合った状態で産まれてきたのかは定かではないですが。」
…ダメだ、パイセンの説明がイマイチ理解できない。要はひとつの身体という器にふたつの魂が混在しているということか?だから、複数の魔法が使えると。…パイセンが訂正しないあたり、そういう理解で良さそうだ。
「…もう一度聞きます。あなた、何者なんですか?」
「答える義理はあるまいて!」
その答えと同時にリーダーの掲げた右腕の先上空に、巨大な魔法陣が展開される。
上位魔法か…!みんな!警戒態勢をとれ…!
「ようこそ影の世界へ…―『玄陰帳 ― ぶらいんとばり ―』!」
辺りが急に暗くなる。状況を視認すると、いつの間にかコロッセオのフィールド上を濃い紫色の煙が覆っていると知る。その煙はまるで天蓋のように私たちを全方位から囲っており、もはや観覧席側や審判からはこちらの状況を伺い知ることはできないだろう。
「これから起こることを見られるのはまずいからの。」
不敵に笑みを浮かべそう呟くリーダーの口からは、同時にもうひとつの声が聞こえている。その声はなにやら呪文を詠唱しているように聞こえる。…このまま様子見はまずい!私の勘がそう告げている!仕掛けるなら今しかない!…総員!突撃!
目で呼吸を合わせ、全員で突っ込む。しかし、リーダーは両の手を操り、濃紫のファイアボールを放つ。…速い!
咄嗟に防御体勢を取り、闇の火球を捌く。着弾ギリギリのところでそれの軌道を逸らし、体勢を整え―…悲鳴が耳を貫く!それも複数の!…みんな!!!
「し…しくじりましたわ…。」
リスティ…!そられ…!リノン…!―…3人が後方まで吹き飛ばされ、地に伏せている。かろうじて意識はあるようだが、変身も解けてしまっている。覚醒モードの反動もあるのか、もはや動けるようには見えない。
「私がフォローします!フーリさんは引き続き警戒を!」
闇属性への耐性のおかげか、なんとかパイセンは無事だ。…しかし、一気に戦況をイーブンに持ってこられてしまった。
「実に無様である。そこで余の研究成果を見ておれ。」
ひとつの口で起用に声を重ねる。裏の声の詠唱も佳境に入ったようだ。大きいのが来る…!
「ダメです!この魔法は危険すぎる!フーリさん!なんとか発動前に止めてください!」
「ほう!さすがよの!余の『人を滅す魔術』を見破るとは!!!」
人を滅す魔術?!…そんなものがあるというのか!?
「人工知能に創らせたのよ!…実に苦労した。人工知能に仮想世界を創造させ、そこで争いを起こす。戦争に勝つために人工知能はいろんな兵器を産み出そうとしたわ!そして、実際に仮想世界を滅ぼしてしまったのが、この『人を滅す魔術』よ!…最終的に余が使えるように調整はしたがな。今からこれを貴様らに実験してやる。光栄に思え!余の研究の糧となれることを!!!」
リーダーは諸手を天高く掲げる。先ほどまでとは比較にならない大きさの魔法陣が天蓋の内側を埋め尽くすかのごとく無数に発現する。
「パイセン!どうしたらいい!?パイセンの光の魔法で打ち消せないの?!」
「…残念ながらあれは私にもどうにもできません。フーリさん!なんでもいいからあいつを倒して!」
くそっ!くっそぉぉぉおおお!!!
無策にも敵の懐へ飛び込む。あらゆる氷の飛び道具を生成するも、炎によって無効化される。…炎を見るたび身体がすくむ。今はそんなことにビビッている場合じゃないのに!…私の身体!言うこと聞けよ…!!!
「もう遅いわ!!!喰らえ!『永哀之総葬』!!!!!!」




