アブソリュート
その言葉を合図に敵の頂点が全て消失した。またあの速い攻撃が来る!やばい!みんな…!
咄嗟に防御の態勢を取る。近くにいるそられだけでも私が守るんだ!…案の定、頂点の一角が突如眼前に現れた。予測と同時にそられの前を張っていてよかった。でなければ、今頃そられはやられていた。氷の盾で周囲を防ぎ、敵の背後に槍を生成し、突き刺す!…も、ありえない速度で躱され、致命傷は避けられてしまう。しかし、体制を崩すことができたのか、敵は一度距離を取る。…まだ警戒は解けない。それに、他のみんなの状況も気になる。
「フーリさん!」
ふいにパイセンの呼ぶ声がする。無事か!?くそ!土煙で状況が視認できない!
「すみません!私は先程のふたりを相手にしています!たぶん、私が光属性の使い手だからだか、ふたりがかりで潰しに来ています!…リノンちゃんを守りながらですので攻撃に移れません!」
「わかった!リノンは?」
「無事です!相手の連携に対応できていませんが、怪我はありません。ただ…。」
「どうした!」
「クリスちゃんがやられました…!位置を捕捉して回復魔法と防御魔法をかけてますけど…意識はないようです!」
…リスティ!
「落ち着いてください!フーリさん!命に別条はありません。それと、クリスちゃんを倒した敵がそちらに向かうと思います。気を付けてください!」
「…了解!」
「頼みますよフーリさん!申し訳ないですが、私は防御と回復で手一杯です。…あなただけが頼りです!」
パイセンの声が途切れるか否かの頃合いには、そいつはこちらに到達していた。…お前!よくもリスティを!
「…フーリ先輩!私は大丈夫。だから、そいつを倒して!クリス先輩の仇を取って!」
「でも、それじゃそられが…。」
「…大丈夫。私も強くなった。…信じて。」
…そんな顔で言われてしまったら、信じるしかないじゃないか。
「…わかった。でも、そられ。約束して?絶対に死なないで!」
「…約束する。…フーリ先輩、愛してる。」
こんなときに洒落にならない冗談を言うなよ。でも、そられらしい。自信があるってことなんだな。
私はそられに頷いた。そして、水流逆巻くバリアのようなものをそられの周囲に纏わせた。
「…ありがと。」
その言葉を置いて、そられは一方の敵を音速で突き飛ばす。自らと共に。
土煙の中へ消えて行ったそられの無事を祈りつつ、私は先程から連撃を繰り出してきている目の前の敵に反撃に出るべく向き直る。一度、距離を取り ふぅ と深い呼吸を入れる。…集中だ。まずはこいつを倒して、そられに加勢する。そして、みんなを助ける。
霧状にした水を敵に浴びせる、と同時に凍結させる。表皮を凍結させ、動きが鈍ることを狙ってだ。しかし、氷結させる間もなく瞬間的に背後に回り込まれ、その懐に隠した短刀で背中を刺突される。…速い。あらかじめ自らの体表に氷の防御膜を張っていなければ、今頃血しぶきを撒き散らしてしまっていたところだった。正直、強い。だけど、ごめん。君なんかに構っている時間はないんだ。さっさとリスティをやった分、返させてもらう。
「フロスフィア」
刹那、敵を中心とした氷の球体が生成される。捕捉された敵は全方位を凍らされ逃げ場を失う。
…だけど、この技は敵ごと氷漬けにする技じゃないんだ。そんなに生温い技じゃない。氷の温度に相応しく、とても冷たくて触れることすらままならない。そんな技。君の周りに見える球体は、君を覆う球じゃない。無数の鏃のような氷の針の集合体だ。…君はこれからその無数の氷鏃に貫かれる。そして、血を流すことも許されず氷結する。…なんて説明したところで、もう君の時間は止まってしまってたね。
霧状の氷を静かに散らしながら、もう動かなくなってしまったそれは地に転がった。
それを確認して、私は土煙の中へと飛び込んだ。
…そられ!今行くから!待ってて!
そこら中から戦闘音がするものの、辺り一面の土煙で依然視界は遮られている。音を頼りにそられの元へ駆けつけようにも、コロッセオの天井や壁で反響したそれでは正確な位置の見当がつかない。くそ、すぐにでも加勢したいのに。
逸る気持ちを抑えつつ、コロッセオ中を氷のレールで移動する。途中、倒れているリスティを確認した。パイセンの報告とは異なり意識は戻っていたようだったが、まだ動くことはままならない様子だ。幸いにも周囲に敵影はなく、このまま気付かれなければ回復が終わり次第戦線に復帰もできるだろう。これ以上戦って欲しくはないけれど。
リスティと視線を重ね、互いに頷く。そして、その場を離れ再び煙の中に飛び込む。戦闘音は次第にその激しさを増してきている。と、いうことはまだみんなは戦っている。やられていないということだ。…頼む、間に合ってくれ。
「…アブソリュート・零式」
…煙のどこからか声がした。今の声はそられか?!そられの技なのか?!
声はすぐ近くで聞こえたようにも感じた。辺りを見回しそられを探すも、その答えは姿を見つけるよりも先に示された。次の瞬間には、周りの煙がすべて消え去っていたのだ。そして、声のした方の上空にはそられ…によく似たロングヘア―が飛んでいた。スカイブルーの羽を携えて。
「…フーリ先輩、どう?そられ可愛い?」
そられ似のロングヘア―は私と目が合うなりしたり顔でそう言った。ということは、やはりあれはそられなのか?私の知る彼女は、あの羽と同じようなスカイブルーのショートカットだ。しかし、上空の女はメインカラーこそ同じスカイブルーだが、一部の髪がゴールドに変色しているし、何よりロングヘア―だ。本当に同一人物か?
「…副作用。本気の。だから、あんまりこの姿のままでいられない。」
百歩譲って、そられ本人だとしよう。だとしても、さっきの技はなんだ。一瞬にしてすべてがクリアになったみたいだった。
「…アブソリュート・零式。本気の私専用の新しい技。すべてを吹っ飛ばしてくれる。」
アブソリュート・ゼロなら聴いたことがある。いわゆる、絶対零度だ。むしろ私の技名として使わせてほしいくらいの呼称だが、そられのアブソリュート・零式はその実似て非なるものらしい。すべてを吹き飛ばしてリセットして、素の状態に戻してしまう。それでいて、自信は超強化する。いわば、バフ解除しつつ自らにバフ付与するというチート技だ。…ということは、敵は?
「…吹っ飛ばした。私の近くにいるのが悪い。」
…こいつ、吹っ飛ばしてばっかだな。流石、ソ・ラ・レでGsus2。浮遊感があるし、やっぱりジーザス。




