ユーリ・アルグランデ
「かんぱーい!」
昨晩あんなことがあったにも関わらず、今日の勝利を肴に連日の祝勝会が開催されている。もちろん、発案者はイルミナパイセンであり、費用の負担を請け負うのは店長である。…この店潰れたりしないかな?私たちが勝てば勝つほど、閉店廃業に向かっていってる気がする。
「ええねんええねん!気にすんなや!」
泣きながら笑って店長はカウンターで料理を盛り付けている。…どういう感情なのだろうか。
「ほい!マスター特製のデンジャラスカツカレーや!…気を付けて食べるんやで?」
これでもかと盛りに盛られたメガカツカレーが一人一皿ずつ並べられる。縁起よくカツを提供してくれるのはいいにしても、デンジャラスとか不穏な要素は入れないでほしい。明日の準決勝、ギリギリでしか勝てなかったら店長のせいにしよう。というか、デンジャラスなのはこの店の経営のほうではないだろうか。
「おおー!美味しいですねー!」
「…美味い。」
「ふぇんふぉー!おふぁわりありまふふぁっ?」
「…すごい食べますわね。あと、安久慧りのん。食べながら喋るのは行儀が悪いですわ。」
代魔会は、出場者の魔力消費の問題から各校一日一試合までと決められている。つまり、ベスト4決めの本日はたったの4試合のみの開催であり、とどのつまり宴を開催している今はまだ夕方なのだ。そんな中途半端な時間にも関わらず、まるで胃袋が掃除機で出来ていると言わんばかりにバク食いする連中。若いっていいな。胃袋元気で。ま、私も身体は17歳だからイケるはずなんだけどね。実質34歳だから、脂モノ見るとちょっと食欲が出ないんだよね…。おかしいよね、17歳以上になったことないのに。しかし、リノン。昨日あれだけ大怪我を負って、よくそんなに食べられるな。おかわり要求してるし。
「まだまだあるでー!いくらでも食べたらええ!はっはー!」
…店長、ヤケ起こしてるじゃん。
なんとか完食し、休憩しに外に出る。…当分茶色いものは食べたくない。とてもデンジャラスだった。
溜息と共に、ふと視線を見上げれば、空が黄昏色に染まっていた。はっきりとはしないがいろんな色が混ざりあった温かい色。…私とは正反対だ。私は冷たく、またアンビバレンスな感情を持ち合わせて、今にもバラバラになってしまいそうなのだから。
「あれ?昨日の人?」
ふいに誰かに声をかけられ、視線を戻す。声の主に目を向けると…、例の金髪イケメンがそこに立っていた。細く繊細な長い髪に夕日の色が照らされキラキラしている。…眩しい。
「やっぱりそうだ。昨日の彼女、大丈夫だった?」
「あ…、はい。お陰様で助かりました。本当にありがとうございました。」
「礼なんていいよ。それに、見たところ年も近いでしょ?そんなにかしこまらなくていいよ。…そういうタイプじゃなさそうだし。」
一目見ただけで、私の本質を見抜いたのだろうか。それとも、ただ気遣いが上手なのだろうか。壁を作らず、むしろ崩しながら彼は話す。イケメンで性格までいいのか。顔はいいけど性格が悪い私が惨めになってしまうじゃないか。
「じゃ、お言葉に甘えて普通に話す。」
「うん、そうしてくれると嬉しい。」
イケメンは微笑む。夕暮れ時の橙色がより一層その笑顔を温かく見せる。…少し、見惚れてしまう。
「…あ、リノン。助けてくれた子も呼んでくるね。」
「いや、いいよ!昨日の今日で傷も癒えてないだろうし。それに、俺も偶然通りがかっただけだし、わざわざ昨日のこと思い出させるのも悪いしね。」
「…優しいんだね。」
「よく言われる。俺はそう言われるのあんまり得意じゃないんだけどね。」
「そうなの?…ごめん。」
「いやいや、こっちが勝手にそう思ってるだけだから。君が謝ることじゃないよ!」
慌てて手を横に振り静止する。その掌には包帯が巻かれていた。
「その怪我…。」
「…あー、昨日奴を追いかけた先でちょっとね。…そんなことより、あいつ捕まえられなかった。すまない。」
それこそ、この人が謝ることではない。助けてくれただけで充分だ。むしろ、追った先で何かあったらどうしようと心配していたし…。
「逃げられてしまったけど、かなりのところまで追い詰めたから、しばらくは襲ってきたりしないはずだよ。最後は空間魔法で逃げられたけど、脚も怪我したようだったから簡単には走れない。だから、一旦は安心して。俺の知り合いにも頼んで捜索を続けてもらっているから、そのうち見つけられると思うし。」
「…見ず知らずの私たちにどうしてそこまで?」
「うーん…。難しい質問だな。ま、答えになってるかわからないけど、強いて言うなら、知ってしまったから、かな。…見逃せないんだよ。こういう、悪事を働くやつ。昔からそういう性質でさ。」
頭を掻きながら屈託のない笑顔を向ける。なぜだろう、先程から心がざわつく気配を感じる。…この感情の正体は何だろうか。私は、知らない。
「ありがとう。…えっと、」
「神祓 ユーリ・アルグランデ(かんばら ゆーり・あるぐらんで)。ハーフなんだ。ユーリでも、アルでも好きに呼んで。…バラバラとかは止してほしいけど。」
「わかった。考えとく。」
「君は?君の名前も知りたいな。」
「私は、茅水封理。」
「フーリか。なんだか、似た感じの名前だな。…初めて会った気がしないよ。」
「もしかして、口説いてる?残念ながら、あなたは「有利」で、私は「不利」。釣り合わないし、似てもないよ。それに、初めて会ったのだって昨日だから。」
「口説くつもりはないんだけどなあ。でも、そんな理屈でフラれたのは初めてだ。茅水、君面白いね。」
可愛いとか綺麗とか、頭がいいとかなんだとか。そういう類で褒められたり口説かれることは多々経験してきたけど、面白いと評されたのは初めてだ。…神祓ユーリ・アルグランデ。変な男だな。
「じゃ、また何かわかったら連絡するね。茅水。」
連絡先を交換し、彼は去っていった。
私のことをしれっと茅水呼びしていたのは、きっと彼なりの優しさだろう。私が口説くとか言ったもんだから、彼なりの配慮で距離感を調整してくれたのだろう。だけど、本当に不思議なのだけれど。その彼の気遣いが、私の心をいやにざわつかせた。この感情の名前は何だ?この胸の苦しさは何だ?いつの間にか胸元を掴んでしまっていた私の右手を徐に解く。…滲む汗が黄昏色に染まり、私の戸惑いを現しているかに見えた。




