18 シオンの祖父
ミレイアが転移をした先は、王都のはずれ……住宅地の片隅にある小さな白い家の前だった。
今朝早くに、伯母のエリサに問い詰めて聞き出した場所だ。
「ここに、彼がいるのね……」
深呼吸をして、ミレイアは扉の呼び鈴を鳴らした。
ドタバタと駆けるような音の後、顔を出したのはーー
高い身長に逞しい体つき、紫がかった白髪と深く刻まれた笑いじわが印象的な、渋くて素敵な老人だった。
「ようこそ。待っていたよ、ミレイアちゃん」
「初めまして、ミレイア・ノクシアです。お会いできて嬉しいです。大おじいさ……いいえ……ショーレンさん!」
「ハハハ、呼び方は何でもいいよ。とりあえず、中にお入り」
家の中は、質素な外観からは想像できないほどの大きさだった。空間魔法がかかっているのだろう。王宮の居住棟にも引けを取らない壮観な光景が広がっていた。
案内された部屋には、高価な調度品や、貴重な歴史書が高い天井に届くほどぎっしり並んでいた。
勧められるまま大きなソファに座ると、向かいのソファに座った老人は、魔法でカップとポットを飛ばせ、目の前にコーヒーを並べた。遅れて、皿に乗ったサンドイッチも飛んできた。
「昼食はまだだろう? 食べながら話そうか。
改めまして、私はショーレン・セラフィム……君の父シオンの祖父だよ」
「わたし……ショーレンさんの出された小説、全部持っています! 先日は、『明日にかかる魔法』の舞台も観てきました。どの作品も、先の読めない展開が魅力的だけど、何度読み直しても必ず新たな発見があって、登場人物も、生き生きしていて……とにかく大好きです!」
目をキラキラさせながら熱く語るミレイアに、曾祖父はニコリと微笑んで返事をした。
「それは……ありがとう。私こそ、君のことはずっと注目していたんだ。画期的な魔道具の数々、見返りを求めない救出活動……最近では、薬学や召喚学の分野でも注目されているね。あのちっちゃかったミレイアちゃんが、こんなに立派になるとは……感慨深いよ」
「わたしは、ショーレンさんに会ったことが?」
「君が1歳の時、シオンとアリアが会わせてくれたんだ。せがまれて抱っこもしたよ。あの時、シオンが言ったんだ。"いつか、この子がここを訪ねてきたら、一族の歴史を伝えてやってほしい"って」
「……実は、わたしがここに来たのは、ある手紙がきっかけなんです……」
ミレイアは、3年前から毎晩枕元に舞い降りてくる、短いメッセージが書かれた手紙のことを、丁寧に説明する。その送り主が父シオンだと考えていることもーー。
「なるほど。私には、その答えはわからないが……シオンの魔力があれば、手紙を転移させて、決まった時間に出現させることは可能だろう」
「パパは、ママが聖女の力で視た未来を知って、わたしに何かを伝えようとしているんでしょうか。だけど、そのわりにはメッセージは短いし、核心をつくようなことは教えてくれない……」
「……実はね。私は、アリアが視た2つの未来を直接聞いているんだ。ひとつは、この国が滅び、多くの尊い命が奪われる最悪の未来。そして、もうひとつは……今、君が進んでいる未来だよ」
「え……じゃあ、この先に何があるかも知っているんですか?」
「この先に、君の周りで起こり得る未来は聞いている。だけど、それを君に詳しく話すことはできない。話せば、最悪の未来に近づいてしまうから。……シオンが、手紙に重要なことを書かなかった理由は、それじゃないかな? 毎日届く短いメッセージは、あの2人なりの、せいいっぱいの娘への愛情だったのかもしれないね」
「わたしは……2人の幻影に会ったことがあります。その時言われたんです。自分たちが死ななければ、最悪の未来になっていたと……。本当にそうなんでしょうか……他に、道はなかったんでしょうか?」
ショーレンは、一瞬目を伏せて、静かに答えた。
「……それも今は話せないんだ。いつかわかる時がくるよ」
ミレイアは、黙って頷くと、目の前のコーヒーを一口飲んだ。
そして、ゆっくりと顔を上げた。
「わかりました。ショーレンさん、パパがわたしに伝えてほしかった話……聞かせてもらえませんか」
「そうだね。一族が代々語り継いできた歴史を、君に話そうーー」




