19 問いかけ
「まず先に確認しておきたい」
ショーレンは、テーブルに肘をつき、身を乗り出すようにしてミレイアを見つめた。
「君は今、自分自身について、どこまで理解している?」
突然の問いかけに、ミレイアは一瞬だけ考え込むように視線を伏せ、それから静かに口を開いた。
「わたしは、人間になった美の女神、聖女ミレナの生まれ変わりで……地上に残った神である人型精霊と、帝国の初代皇帝の血をひいている。……そうですよね?」
「……そうだ」
ショーレンは、わずかに目を見開いて、ため息をついた。
「もう、そんなことまで知っていたのかい?」
ミレイアは頷き、聖女の日記の存在、手に入れた神話の内容、人型精霊アレクから聞いた話――それらを順を追って、丁寧に説明した。
話を聞き終えたショーレンは、しばらく黙り込み、やがて苦笑する。
「君が神話を既に読んでいるとは、正直予想外だった。それに……アレクが、君にそこまで踏み込んだ話をしたことも意外だ」
「ショーレンさんは、アレクのことをご存じなんですか?」
「ああ、もちろん。現存する唯一の、純粋な人型精霊だからね。幼い頃から話には聞いていたよ。
……私が実際に会ったのは、あいつがアリアにちょっかいをかけていた時だ。シオンが困って、相談してきてね。……随分ふざけたやつだったから、正直がっかりしたんだけど」
ショーレンは、少し考えこむような仕草をした後、真剣な口調で問いかけた。
「あいつは、ミレイアちゃんには、嫌なことはしてこない?」
「……わたしは、大丈夫です。むしろ、助けられています」
ミレイアははっきりと答えた。
「そうか…… それなら、いいんだ」
ショーレンは、安堵したように小さく息を吐いた。
短い沈黙のあと、ミレイアが静かに切り出す。
「ショーレンさん。……わたしが、まだ知らないことはあるんでしょうか」
「そうだな……。君が読んだ神話も、アレクから聞いた話も、私たちの一族が語り継いできた歴史、そのものだ。だから――その“後の時代”の話をしようか……」
ショーレンは、言いかけて肩をすくめた。
「とは言っても……君は、もうわかっているかもしれないけれどね。私は、祖父母の物語を色々と書き残してきたから……」
その言葉に、ミレイアの表情がぱっと明るくなった。
「やっぱり、そうだったんですね!」
そして身を乗り出し、弾んだ声で続ける。
「『明日にかかる魔法』から始まる、最強の騎士シリーズですよね? 帝国の騎士団長として、数々の事件を解決して、奇跡の魔法で多くの人々を救い出した主人公――ナイル。彼が、ショーレンさんのお祖父様なんですね!」
「ああ。小説だから、多少の脚色はあるけどね」
ショーレンは、少し照れたように鼻を掻いた。
「実は、祖父と同様、父も騎士団長をしていたんだ。だから、一人息子の自分も自然に騎士になるものだと思って、訓練を受けていたんだが……まったく才能がなくてね……。
気を紛らすために書いていた物語が、たまたま話題になって……結果的に、小説家の道に進んだというわけだ」
「それは、帝国にいた時のお話ですよね?
どうして、ショーレンさんはレガリア王国に住むことになったんですか?」
「私がレガリア王国に移り住んだのは、二十歳の時だ」
ショーレンは、少し遠くに視線を向けた。
「そのきっかけを作ったのは……取材のために訪ねた研究者、ヴィスタ・モリシンだった――」
「モリシン博士!?」
ミレイアは思わず声を上げた。
「今朝、帝国でお会いしました!」
「……え?」
ショーレンは驚いたように身を起こす。
「ミレイアちゃん、帝国に行っていたのかい?」
「はい。実は……」
ミレイアは、皇太子ヨウィエルを訪ねることになった経緯を簡単に説明した。
「そんなことが……」
ショーレンが低く唸って問いかけた。
「モリシン博士は……自分の正体について、何か話していたかい?」
「正体、ですか?」
ミレイアは首を傾げた。
「特には……。今度、ゆっくり話をしたいとは言われましたけど」
「そうか……。では、まだ何も聞いていないんだね。
私が彼の正体に気付いたのは、特別なオーラを見分ける力があるからなんだ」
ショーレンは静かに頷き、声の調子を落とした。
「……ヴィスタ・モリシンの正体は――創造神モリヴィスだよ」
そして、淡々と、モリヴィスのことを語り始めたーー




