14 公邸前のお別れ
出発の準備を終えて、待ち合わせ場所に向かうと、既に、宰相ソウダインと護衛騎士たちが集合していた。
帝国の騎士団や、外務大臣ソトシン、数名の要人の姿もある。
レオンとミレイアがソトシンらに近づき、挨拶を交わしていると、文官長ブリックが、白いひげが印象的な紳士と共に、魔導走行車の内部から降りてきた。
紳士は、レオンに向かって一礼すると、真っ直ぐにミレイアの元に駆け寄ってきた。
「ミレイア・ノクシア嬢、ようやくお会いできましたね。私は、魔法動力についての研究をしているヴィスタ・モリシンと申します。あなたの論文を、ずっと注目していたので、感無量です。魔導走行車は、理論だけでも素晴らしかったが……短期間にこれだけの物を作り出すとは……まさに神の領域ですな!
良かったら、この後、2人で話せませんか? 魔法動力についての意見もお聞きしたい!」
興奮気味に話すヴィスタに、若干困り顔のミレイアが返事をする。
「わたしも、お会いできて光栄です。モリシン博士の出版された『魔法動力理論』は、幼い時からずっと、わたしの指針です。この後は残念ながら、時間が取れませんが、近いうちにまた帝国を訪れる予定ですので、その時にでも……」
「そうですか。……約束ですよ。ちなみに……付かぬことをお伺いしますが……あなたは、レガリア王国の王妃になられるご予定ですか?」
ヴィスタが、レオンの後ろ姿を眺めながら小声で尋ねる。
「……はい。いずれ……そのつもりです。王妃になるのは荷が重いですが……彼のことが好きなので」
ミレイアも、口元に手を当てて小声で答える。
「……それはいい。今のあなたなら、絶対大丈夫です。必ず、幸せになってくださいね。ずっと応援しています」
ヴィスタが、まるで、昔からの知り合いに話すように……優しい笑顔を見せた。
しばらくして、ブリックに魔導走行車の操作方法を説明し終えたレオンが、振り向いてミレイアに手を差し出す。
「そろそろ行こうか、ミレイア」
「そうね」
「あ、お待ちください」
レオンの手を取ろうとしたミレイアに、ソトシンが声をかけた。
「こちらを、皇太子殿下から預かっています」
「ああ、昨日言ってた入国証ね。手紙も入ってるわ」
ーー
親愛なるミレイアへ
君のことがもっと知りたい。
君の声がもっと聞きたい。
もう一度君の温もりに触れたい。
もっとたくさん一緒にいたい。
まだ出会ったばかりだけど、
レオンの大切な人なのはわかっているけど、
これから先、俺にとっても特別な存在になることは確実だ。
近いうちにまた会おう。
連絡するよ。
ヨウィエルより
追伸 この入国証は、皇宮の関係者しか持たない特別なものだ。
ーー
「これは……」
覗きこんだレオンが、眉を寄せる。
「まるでラブレターじゃないか……やっぱりとんでもないやつだな。……ミレイア、くれぐれも気をつけろよ」
「……大丈夫よ。きっとヨウィエルは、まだ、前世で好きだったミレットとわたしを重ねて見てるんだわ。これから関わっていけば、やっぱり全然違うってわかってもらえると思う」
ミレイアは苦笑いをしながら、手紙を封筒にしまって、ポシェットに入れた。
「はあ……」
レオンは、ミレイアの手を強くにぎり、大きなため息をついた。
「それじゃあ、行きましょうか」
ミレイアは足元に転移魔法陣を発動する。
「では、ありがとうございました」
「みなさま、お元気で。またお会いしましょう」
レオンとミレイアは頭を下げながら、光の中に姿を消した。
「え、転移魔法!?」
「まさか、夢幻の女神!?」
まだミレイアの正体を知らなかった帝国の要人や、騎士たちのざわめきが、響き渡ったことは言うまでもない。




