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12 アレクの正体

「ミレイア。3日ぶりだね」


「あ、アレク! ……ちょうど会いたかったの」


「えー、嬉しいな。ミレイアに会いたいと言われる日が来るなんて!」


アレクは、満面の笑みで腕を広げ、ミレイアを抱きしめる。


「アレク?」

ミレイアは、反射的に抱きしめ返した。


一瞬固まったアレクは、ミレイアの顔を覗きこむように視線を合わせる。


そしてゆっくりと口付けをーー

しようとして、ミレイアの防御魔法に弾き飛ばされた。


「……痛いなー。いつも喜んでくれるのに、なんで拒否するんだよ。今日は帝国の皇太子にもさせてただろ?」


腰をさすりながら立ち上がるアレクに、ミレイアは眉をしかめる。


「わたしが、いつあなたのキスを喜んだ? いつも不意にされるから逃げきれないだけじゃない。ヨウィエルだって……同じだわ。わたしが喜ぶのはレオンのキスだけよ!」


「よく言うよ。アゼルのキスも喜んで受け入れてるし。結局、ベルトランやヨウィエルにも、求められたら悪い気はしないくせに……。もちろん、俺のことも。だって……会いたかったんだろ?」 


ニヤリと口角を上げるアレクに向かって、ミレイアの雷魔法が跳ぶ。アレクは、するりと身をかわした。


「な……! わたしをアバズレみたいに言わないでちょうだい。ベルトランやヨウィエルは友人だし、アゼルは魔力の治療をしてくれてるだけ。アレクに会いたかったのはただーー話を聞きたかったからよ!」


「そんなにムキになって否定しなくてもいいのに。奔放なのはミレイアの魅力だし、精霊の世界では、つがいを複数持つことは珍しいことじゃないんだよ?」


「わたしは精霊じゃないわ!」


「いや、似たようなものだろ? 俺は神々の子孫で、君は、愛の女神の生まれ変わりなんだから」


ミレイアは、しばらく黙り込んでから口を開いた。


「……やっぱりそうなの?」


「ミレイアが俺に聞きたかった話はそれ? その神話を読んだから?」

アレクがソファテーブルに置かれた本を指さす。


「うん……。あなたのことは、わたしの前世……ミレットの記録にも書かれていたわ。あなたを助けた人間は……初代皇帝アレキサンダスだったのね?」


「ああ。幼い頃の話だから、おぼろげな記憶しか残っていないけど……」


ーー


地上に残った神々の子孫である人型精霊の一族は、一時は一つの国を築けるぐらいに栄えていた。

早い段階で、人間と結ばれて一族から離れたものもいた。

しかし、元々、子を授かりにくい種族であったため、気がつけば、小さな村で肩を寄せ合って暮らす希少な存在になっていた。


ある夜、一族は奇襲にあった。

大罪を犯し人間界に落とされた神ファルゼンの生まれ変わりーーカルファルによって。

心を縛られるような精神魔法が、村を襲った。

操られた多くの神官たちが、魔法攻撃を繰り出し、村は炎に包まれた。


逃げ出したものも後を追われ、次々に殺された。

そこに現れたのが、炎を見て駆けつけた騎士アレキサンダスだった。彼は幼い子供を抱いた老女と、一緒に逃げていた若い女性を、身を挺して守った。その瞬間、神官たちは役目を終えたように引き返していった。


アレキサンダスは、大怪我を治療してくれた若い女性に、恋をした。彼女もまた、守ってくれた彼に想いを寄せた。その時初めて、アレキサンダスは、彼らが精霊であったことを知る。

一族を殺したのが、レガリア王国の若き国王カルファルであることも。

カルファルは、アレキサンダスが生まれ育った小国を滅ぼした人物でもあった。


やがて2人は結ばれ、紛争中の小国を取りまとめて新しい帝国を興した。


ーー


「その10数年後、帝国に侵攻してきたカルファルによって2人は殺された……」


「そっか。ミレットの前世であるミレーユは、この頃のカルファルの側室になって……逃げ出したのね。その後、カルファルは皇帝アレキサンダスの息子に倒された……」


「ああ。カルファルは、何度生まれ変わっても女神ミレデーテが忘れられなかった。薄紫の聖女が、ミレデーテの生まれ変わりだと気づいていたんだろうな」


「……アレクの名は、世話になった人から勝手にもらったって話してたよね?」


「ああ。アレキサンダス……通称アレクは、俺たちの命の恩人であり、姉さんと共に、悪と戦い抜いた英雄だった」


「彼の結婚相手の精霊は、あなたのお姉さんだったの?」


「遠縁の女性だったよ。生涯名前は持たなかった。俺を抱えて逃げてくれた婆さんは、村の長老だ。俺に、神と精霊の歴史を教えてくれた。一族は全員家族みたいなものだったんだ。婆さんは、姉さんとアレクが結婚した後、俺としばらく2人で暮らしていたが、1000年の寿命を全うして旅立った。ミレットと出会ったのは、その直後だった」


「アレクは最初から、わたしがミレットの生まれ変わりであることに気づいていたの?」


「うん、わかってた……。だけど、好きになったのは、ミレイアが、ミレイアだったからだよ。アリアは俺の初恋だったけど、ミレイアは、初めて交わりたい……子孫を残したいと願った女性だよ」


ミレイアは顔を赤くして、誠実に返事をする。

「ごめん……、わたしはアレクの気持ちには応えられないわ。あなたに誰かいい相手が見つかればいいのに……。他にはもう、人型精霊は残っていないの?」


「あー……人型精霊はいないが、姉さんの子孫は残っている。カルファルを倒した次男の孫の……曽孫に当たる女性が……今1番精霊に近い人間で、俺の理想の相手だよ」


「だったら……」


「まあ、その女性がミレイアなんだけどね」


ミレイアは、頭を抱えて考えこむ。

「それって、パパが精霊の子孫だったってことよね?……なんだか、どんどん、自分が人間であることに自信が持てなくなってくるわ……」


「心配するな。ミレイアはミレイアだ。俺に聞きたいことは、他にはない?」


「うん。今は、しばらく一人で考えたいかも……」

思考が停止したミレイアは、目を瞑って息をつく。


その瞬間ーーアレクは、ミレイアの不意をついて甘い口付けをおとした。


「隙あり!」


そして、目を見開いたミレイアに手を振って、光と共に姿を消した。


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