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11 残された神話

緊迫した夕食を無事に終えたミレイアは、広い客室のソファで一人、本のページをめくっている。


大衆食堂で出会ったサシャリーから受け取った古い神話だ。


「え……、これってもしかして……」


ミレイアは、目を見開き、息を呑みながら分厚い本をあっという間に読み終えてしまった。


そして、大きな窓から覗く帝国の夜景を眺めながら、書かれていた物語を頭の中で整理している。


ーー


遠い昔、神たちがまだ地上に生きていた時の物語。


創造神モリヴィスは人間を創り出し、やがて天界に戻るための準備を始めていた。この時点では、神と人は、まだ同じ世界に存在していた。


多くの神々の中でも、創造神モリヴィスが特別に信頼し、常に側に置いていた若き神たちがいた。


愛の女神ミレデーテ。

魔術の神アゼラジック。

破壊神レオリアル。

そして、精神を司る神ファルゼン。


ミレデーテの愛は、すべてを等しく照らすはずだった。しかし、その光は、未熟な神々の間に歪みを生む。


レオリアルは、破壊を司る神である。行きすぎた人間の力を破壊し、世界の均衡を保つ存在だった。しかし彼は、乱暴な破壊者ではなかった。たとえ罪を犯した者であっても、その力を粛正することをためらうほどに優しく、自らの役割に葛藤を抱えていた。

彼は女神ミレデーテに、悩みを打ち明ける。すべてを受け止め包みこんでくれる彼女に、次第に惹かれていき、ミレデーテもまた、彼に対して特別な感情を抱くようになっていった。


アゼラジックは、ミレデーテを深く愛していた。その想いは強く、ずっと彼女を求めてやまなかったが、彼女の気持ちを知った時、彼は選んだ。欲する者ではなく、支える者として、彼女の傍に在り続けることを。


だが、ファルゼンは違った。

精神を操る力を持つ彼は、ミレデーテの微笑みも、言葉も、すべてが自分のものであるべきだと信じて疑わなかった。拒絶されるたびに、その愛は嫉妬へと変わり、やがて狂気へと堕ちていく。


ミレデーテとレオリアルの間に、娘ーーメアリアが生まれた時、ファルゼンの心は完全に壊れた。


彼は禁忌を犯す。


幼いメアリアの精神を操り、抗うこともできぬ彼女に乱暴を働き、挙げ句の果てに、彼女の身体に火を放ったのだ。


激怒した創造神モリヴィスは、即座にファルゼンに罰を下す。


「お前は、神としての資格を失った。永遠に苦しみ続けるがいい」


モリヴィスはそう告げ、恐るべき呪いをかけた。


ーー記憶を持ったまま、人間としての転生を繰り返し、その生のすべてにおいて、必ず殺される。

求めても愛を得ることはなく、永久に憎まれ続ける。


やがて、神々は人間たちの自立を見届け、次々と天界へと帰還した。


だが、アゼラジックは、数名の神々と共に精霊として地上に残った。ファルゼンの輪廻を見張り、その暴走を止めるために。


ミレデーテは天界から、その様子を見続けていた。


ファルゼンは、最初の数回の人生では、嫉妬に狂う前の彼のように、静かに、人々の心を和らげる治療師として、罪の意識を抱えながら生きていた。

しかし、どれだけ過去を悔いても、悲劇的な最期はやってくる。ある時は暴漢に殺され、ある時は治療した患者に殺され、ある時は母親に殺された。そして、間をおかず再び、愛されることのない地獄のような人生が始まる。


アゼラジックが精霊としての生涯を終えた後は、ファルゼンを気にかけるものも、制御するものもいなくなった。


輪廻を重ねるごとに、より凶悪に、より孤独に堕ちていくファルゼンの魂。

ーーミレデーテはついに決断する。


自らも人間となり、終わりなき輪廻に介入することを。


しかし、創造神モリヴィスは、人間として生まれ変わらせる前に、条件を突きつけた。


神としての記憶は、すべて失われること。

二度と天界へは戻れないこと。


それでもミレデーテは、承諾した。


その後を追うように、レオリアルもまた人間として生まれ変わる道を選ぶ。破壊神としてではなく、彼女を守る者として。


神々の子孫である人型精霊は、やがて一族を成した。しかし、その一族は、再び現れたファルゼンの生まれ変わりによって滅ぼされる。


しかし、滅びの夜に、とある騎士が救い出した数名だけが、深い森へと逃れ、生き延びた。


生き延びた人型精霊、人間と結ばれて魔術師となったアゼラジックの子孫、人間として転生を果たしたミレデーテ、そしてレオリアル。


彼らは今もなお、世界の片隅で息づいている。

やがて、すべての贖罪を終わらせるために。


ーー


ミレイアは、この神話を広めたという帝国の初代皇帝、アレキサンダスに思いを巡らせる。


「一体わたしに、どうしろと言うの……?」


ミレイアが呟いた瞬間ーーその隣りの空間が僅かに歪んだ。

静かに姿を現したのは、人型精霊のアレクだった。


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