9 隙
「あ! レオン、勘違いしないで。別れるのはパーティーの時だけで……」
ミレイアが慌てて言葉を付け足す。
「……わかってるよ。どうせ、イグニッツ侯爵を油断させるため、とか……そういう話なんだろ?」
「うん! そうなの!」
「はあ……」
レオンは、こめかみに指を当てて深く息を吐いた。
「たとえ一時的でも、公の場で……俺以外の男のパートナーとして、ミレイアが隣に立つのを見るなんて……耐えられる気がしない。
こんなことなら……早く、ミレイアは俺のものだって、社交界に広めておくんだった」
盛大なため息とともに、レオンはミレイアの腰を引き寄せた。
「レオン……。ベルトランとは、ただの友人だからね? イグニッツ侯爵たちの断罪が終われば、求婚状も取り消されるわ」
「……もう、二人きりで出かけたりしないか?」
「あー……二人でお揃いのドレスを買いに行く約束はしてるけど……ベルトランからの希望で……」
「お揃い、ね……」
レオンの声が、わずかに低く沈む。
「……どう考えても、あいつは“ただの友人”のつもりじゃないよな。はあ……ミレイアには、隙がありすぎる」
「レオン……わたしのこと、嫌いになった?」
「嫌いになれるわけないだろ」
即座に言い切ると、レオンはミレイアを抱き寄せ、そのままベッドへ押し倒した。
「……ミレイアが、隙を見せていいのは……俺だけだ」
噛みつくようなキスが落ちる。
「ふ……ん……」
舌が絡み合い、甘い声が漏れた。
レオンはドレスの隙間から、白く柔らかな肌に触れ、その感触を確かめる。
「ミレイア……さっき、したいって言ってたよな?」
「あ……うん……」
顔を赤らめ、ミレイアは小さく頷く。
レオンは器用にミレイアのドレスを脱がせ、自分のシャツを脱ぎ捨てた。
鍛えられた体が、紅潮した肌に重なり合う。
互いの熱が伝わる。
高鳴る心臓の音と荒くなる息遣いだけが聞こえてくる。
首元のペンダントが、強く瞬いた。
レオンが下着に指をかけた、その時――
「レオン、ミレイア。夕食の準備ができたらしいぞ。一緒に行こう」
扉がノックされ、声が響く。
「ヨウィエルだわ!」
無視して続けようとするレオンを、ミレイアが慌てて制止する。
そして、魔法を使って一瞬でドレスを着て、扉へと駆け寄った。
鍵を外し、扉を開けたミレイアの頬は赤く、ドレスの裾もわずかに乱れている。
遅れて出てきたレオンは、上半身裸のまま、露骨にヨウィエルを睨みつけていた。
状況を察したヨウィエルは、思わず顔を赤らめる。
「……君たちは。まだ婚約もしていないのに……。
レオンが手が早いという噂は聞いたことがあったけど……まさか……」
「ち、違うの! 最後まではしてないわ! ……まだ!」
必死に言い訳をするミレイアに、ヨウィエルは大きく息を吐いた。
「ミレイア。君の部屋に、レオンを入れるのは禁止だ。
……結婚前に、しかも他国の公邸で……軽率すぎる」
鋭い視線が、まっすぐレオンに突き刺さる。
「何だよ。初対面で彼女にキスしたやつに言われたくない。
俺たちは、すでに結婚の約束もしている。文句を言われる筋合いはない」
「は? 俺が嫌なんだよ」
ヨウィエルは苛立ちを隠さず言い返す。
「誠実に付き合っているなら、諦めようと思っていた。……でも……」
ヨウィエルは一瞬、言葉を飲み込み――
ミレイアの手を優しく握った。
「え……?」
「行こう」
戸惑うミレイアを廊下へ引き出し、そのまま歩き出す。
慌てて、レオンも身なりを整え、二人の後を追った。
「まったく……隙を見せすぎだ……」
呆れたように呟きながらも――
結局、ミレイアに甘くなってしまう自分に、レオンは深いため息をついた。




