8 強い衝撃
カミリアが、今もなお受け続けている父親からの暴力と支配。
最愛のレオンを奪われた後、味方してくれた義母の不審な死。
ゼファルが企てた、シオンとアリアの暗殺。
そして――ゼファルの強姦によって生まれた、アゼルの存在。
すべてを語り終えた後、ミレイアは、頭を抱えるレオンをそっと抱き寄せた。
「レオン……。あなたがショックを受けることは、最初からわかってた。なのに……わたし、かける言葉も見つけられない……」
レオンは、温かいミレイアの胸に顔を埋め、静かに呼吸を整える。
しばらくして、ゆっくりと顔を上げた彼の瞳は、しっかりと前を見据えていた。
「ミレイア。俺は……ずっと、あの人に騙されていたんだな。父母が俺を嫌っているという話も、先代陛下が傲慢で残虐な国王だったという話も、ミレイアとの関係を応援しているという言葉も……全部、嘘だった。
それなのに俺は、最も信頼できる大人だと、疑いもしなかった……」
一度言葉を切り、レオンは低く息を吐く。
「……母上が受けていた虐待も、アゼルの出生の秘密も、少し前の俺なら、信じられなかったと思う」
「今は……信じられる?」
「ああ。ミレイアの話なら、信じられるよ。
それに……認めたくなかっただけで、本当は気づいていたのかもしれない。
あの人の笑顔の裏に、仄暗い精神魔法が潜んでいることに……」
レオンは、まっすぐにミレイアを見つめる。
「なあ、ミレイア。あの人は……聖女の日記に出てきた、バッカルの生まれ変わりなんだろう?」
「……うん。ミレットが命をかけて倒したバッカルの生まれ変わり。
アゼリオを殺したカルファルの生まれ変わり。
そして、レオナルを暗殺したカラハルの生まれ変わり……。
わたしは、そう考えてる」
ミレイアは、静かに続けた。
「彼は今世も、すべての記憶を持ったまま生まれてきている。この輪廻を断ち切らなければ、また同じ不幸が繰り返されるわ。
……倒すことでは、何も解決しないの」
「ミレイアには、何か考えが?」
「……精神魔法を使えないよう、封じ込めたい。
そして、残りの人生をかけて、今まで犯した罪を償ってほしいと思ってる。
ただ……具体的な方法は、まだ見えていないの」
少し視線を伏せてから、ミレイアは言った。
「本当は、アルヴィン殿下とパミルの婚約披露パーティーまでに、何とかできればいいんだけど……」
「……待って。もしかして」
レオンが、大きなベッドの上で、隣に座るミレイアの腰を掴む。
「ミレイアは、パーティーに行くつもりでいるのか?」
「ええ。イグニッツ侯爵たち、不正に関わった第二王子派の貴族を、パーティーの最中に一斉に検挙する予定だもの。
……あれ? 言ってなかったっけ?」
「……告発の準備を進めていることは聞いている。
だが……ミレイアが、自ら断罪の場に立つつもりだとは知らなかった」
レオンは、苦笑まじりに視線を逸らす。
「正直に言えば……俺は、ミレイアをできるだけ他の男の目に晒したくなくて、誘っていなかったんだ。
ノクシア侯爵と行くつもりか?
……もし行くなら、俺のパートナーとして参加してほしい」
ミレイアは、レオンの顔を覗き込み、わずかに眉をひそめた。
「あのね……言いにくいんだけど。この日は……」
「……何?」
ほんの一拍の沈黙のあと、ミレイアは告げた。
「……別れてほしいの……」
「……は?」
「わたしは、ベルトランの婚約者として、パーティーに参加するわ」
レオンは、今日聞いたどの重い真実よりも、強い衝撃を受けた表情を浮かべた。




