7 自分自身
「……俺もヨウィエルと同じだったってことか……」
話を聞き覚えたレオンが、ぽつりと呟いた。
「レオンは前世を覚えていないでしょう? ……だから、ミレナの恋人だったレオナルが、本当に前世のレオンだったのかは、正直わからない。同じように、ミレーユが出会ったアゼリオがアゼルの前世で、ノールがノエルで、ミレットが出会ったフロントがフローラで、ベルドが、ベルトランの前世だというのも……わたしの想像にしか過ぎないの」
「うん、わかるよ。だけど……ミレイアと初めて出会った10歳の時から、俺は初めて会った気がしなかった。一瞬で、君を絶対に手放したくないって思ったんだ……。この感情が、前世からの呪縛だとしたら、俺自身の気持ちはどこにあるんだろう……ヨウィエルの文句なんて言えないよな……」
「わたしも、日記を初めて読んだ時は、複雑な気持ちになったわ。自分が自分ではなくなった気がして……。だけど、わたしは、前世の約束とか、願いとか、導きとか……そんなものに惑わされて生きる気はない。今のレオンを好きになったのは、わたしの意思だし、未来を選ぶのは自分自身だもの」
「……ああ、そうだな。俺も、今のミレイアのことが好きだ。初対面で感じた恋しさは、もしかしたら俺の中に残っている前世の未練だったのかもしれないけど……今は違う。俺は、学園で再会してから、ミレイアのことをどんどん好きになってる。君は、俺よりも高い魔力と頭脳を持ってて…… 無邪気で、おせっかいで、時々非常式で、愛情深くて、可愛くて、目が離せない。きっと、レオナルがミレナに向けていた感情とは違う。……ミレイアじゃないと、だめなんだ」
「うん、嬉しい。わたしも、今のレオンがいい。高い地位を持ちながら偉ぶらなくて、民の幸せを誰より願ってて……頑張り屋で、強くて、かっこよくて、ヤキモチ妬きで、ちょっとエッチで、わたしに甘い……あなたが愛しいの。だけど……」
「どうした? もしかして、母上が反対していることを気にしてる? ……大丈夫だよ、父上が味方になってくれたし。賛成してもらえるまで諦める気は……」
「違うわ、レオン。……実は、今朝、王妃様とアルヴィン殿下の治療もしてきたの。今なら、わたしたちの婚約は反対されないと思う」
「え? だったら……」
「あのね、ここからは、レオンにとっては辛い話になると思う。覚悟して聞いてね」
ミレイアの重い口調に、レオンは、緩みかけた表情を固くして頷いた。
「レオンが乗るはずだった馬車に、事故に遭う細工を施したのは、王妃様……あなたのお母様なの」
「ああ……そうだったのか。……だけど、それほど意外ではないかな。母は、アルヴィンに王位を継がせたがっていたし……俺のことが邪魔だったんだろう?」
「レオン……。王妃様は、普通の精神状態ではなかったわ。心が……壊れていた。
ノエルが、覚醒した聖女の能力で、過去を視てくれたの。王妃様の人生は……考えていたよりもずっと壮絶だった。そして、その元凶である精神魔法を扱う人物こそ……彼女の父、ゼファル・グラウベン公爵だったの……」
「え……ゼファルおじいさまが!?」
レオンの顔がみるみる青ざめる。
肩が、少し震えている。
「王妃様は、幼いころから父親に酷い虐待を受けていた。そして、母親や使用人たちは、精神魔法に操られて、虐待に加担していた。母親は、正気でいられる僅かな隙を狙って、娘と共に心中しようとした。だけど、結局、命乞いした娘の目の前で、自らの首を切って自殺したの……。それから……」
レオンは、ミレイアが語る悲劇的な真実に、口をつぐんだまま、耳を傾けていた。




