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5 やり直し

ヨウィエルの話を聞きながら、終始、複雑な表情を浮かべていたレオンが、ようやく口を開いた。


「……話はわかった。生まれ変わりなんてただの妄想だと言いたいところだが……ミレイアが信じると言っているから、俺も信じるよ。しかし……諦めてもらうしかないな。今のミレイアは俺の恋人で、あなたが欲している彼女ではない」


「そんなことは……わかってるさ。だけど、せっかく会えたのに、そんな簡単にわりきれないよ……」


涙を浮かべるヨウィエルに、ミレイアが静かに右手を差し出した。


「え?」


「出会いを……やり直しませんか?」


ミレイアは穏やかな声音で続ける。


「わたしはミレイア・ノクシアです。ミレットとは違って、転移魔法も使えるし、身を守る術も知っています。魔道具を生み出す頭脳も、財力もあります。

誰かに強制されて力を使うこともないし……何より、頼りになる仲間がたくさんいます」


一瞬、言葉を区切り、真っすぐにヨウィエルを見つめた。


「いくら不運な運命を背負っていても、ミレットのように人生を諦めることはしません。

どうか……わたし自身のことを知ってください。わたしも、ヴィエルではなく、ヨウィエル皇太子殿下のことが知りたいです。まだ初対面ですもの。

これから……互いの国にとって良い関係を築いていけると、信じています。……よろしくお願いします」


引き寄せられるように、ヨウィエルはミレイアの手を握った。


「うん……そうだな。君はミレットとは全く違う。間違いなく、初対面のミレイアだ。

これから、たくさん話をしよう。お互いのことをちゃんと知って、良い関係を築こう!」


握った手をなかなか離さないヨウィエルに、レオンが鋭い視線を向ける。


「そろそろ、手を離してくれないか。……忘れてないよな? ミレイアは俺の恋人だ」


名残惜しそうに、ヨウィエルはミレイアの手を離した。


「うん。レオンとミレイアが恋人同士なのは何度も聞いた。つまり……まだ婚約もしていないし、子作りもしていないってことだ。……心変わりする可能性は大いにある」


「は? 何を言ってる。心変わりなんてするもんか。子作りだって、やろうと思えばすぐにでも……」


「ちょっと……レオン。自分が何を言ってるかわかってる? 皇太子殿下も、レオンを変に煽るのはやめてください」


「……ああ。レオンの反応が面白くてつい……。でも、それだけ独占欲が強いのに、婚約もしていないのは何故?」


「それは……色々あるんだよ」


「ふーん。まあ、俺はいいんだけど。……それより、ミレイア。聞きたい話がいっぱいあるんだ」


「はい。皇太子殿下、何でしょうか」


「ミレイアの規格外の魔法の話。それに、魔道具の話も聞きたい。あと……お願いなんだけど、できれば“皇太子殿下”じゃなくて、ヨウィエルって名前で呼んでほしいな。同い年なんだし、レオンみたいに友人として接してくれないか?」


ミレイアは思わずレオンの顔を伺った。


「はあ……仕方ないな」

ため息をつきながら、レオンが頷く。


「……わかりました。ヨウィエル殿下」


ミレイアの紺色の瞳が再び自分に向けられて、ヨウィエルは、はにかんだ笑みを見せた。


「敬語もいらないんだけどな……まあ、いいけど」


「……レガリア語、お上手ですよね。さっきまで帝国語でお話してたのに、あまりに自然に変わったから気づかなかったです」


「ああ。こっちの方が君が打ち解けて話してくれるかなって……下心だよ。まずは、魔法の話……聞かせてくれる?」


ミレイアは、レガリア王国でも珍しい転移魔法の話や、病気まで完治させる治癒魔法の話を楽しげに語り始めた。

測定不能なほど高い魔力を持ち、光、闇、炎、風、氷……あらゆる種類の魔法を無詠唱で使えること。

それが普通ではないと知ったのは、学園に入学してからだったということも。


「そうか……魔力が高いミレイアでも、他人を連れた転移魔法は3時間に一度か。魔法は万能じゃないんだね。

……それじゃあ、魔道具については?」


10歳で初めて作った魔道具の話から、現在ノクシア商会で売り出し中の製品の話まで、ミレイアは、求められるままに語った。


さらに調子に乗った彼女は、コートと一緒に預けてあったマジックポシェットを持ってきて、その中から次々に魔道具を取り出して、説明をして見せた。


「なっ!」「うわー」「ふえー」「ひゃあ!」

ヨウィエルは、言葉にならない感嘆の声を何度も上げる。


レオンは、何でも嬉しそうに話してしまうミレイアを、ヒヤヒヤしながら眺めていた。


やがて話題は、設計段階にある魔導飛行機にまで及んだ。


「すごすぎるよ! 魔導飛行機が完成すればレガリアの王都からアレキサンダスの帝都まで、誰でも1時間で行けるようになるなんて!」


「理論上はね。でも、実現するには障害も多いわ。莫大な資金が必要だし、生産や検査のための労働力も必要。

入国管理のための関所も新たに作らなければならないし。そもそも……未知の空飛ぶ乗り物に乗りたい人が、どれだけいるのかも分からない」


いつの間にか、砕けた口調になっているミレイアに気づき、ヨウィエルは、笑みをこぼしながら手を挙げる。


「俺は乗りたい! 資金は援助するし、労働力の提供もできる。……帝国とレガリアの共同事業という形にできないかな?」


「それは……有り難いお話だわ。でも、まずは魔導走行車の普及が先決だと思うの。

それで……これは提案なんだけど、救急魔導車の試験運用を開始できればと……」


「救急魔導車?」


「ここに来る前に立ち寄った町で、いちばん近い病院まで馬車で一時間もかかると知って……。

気になって、そのあと病院でも話を聞いてきたの」


ミレイアの声は、次第に静かな熱を帯びていく。


「一時間なんて、まだ良い方なんですって。辺境の集落なら、急病や大怪我をしても……治すことを諦めるしかない場合が多いそうよ」


「ああ……そうだね。この国には、君みたいな聖女はいない。高い医療技術を持つ治療師は貴重で、大きな町に集中する傾向がある。

辺境までは、どうしても手が回らないのが実情だ」


「……もし救急魔導車があれば、病院まで、今の五分の一の時間で到着できるわ。

馬車では通れない危険な道も、安全に進める。

車内を簡易的な医療施設にして各地に配置すれば、医療を受けられずに亡くなる人は、劇的に減るはずよ」


ミレイアは、さらに言葉を重ねる。


「携帯通信機があれば、病院と連絡を取り合うこともできるし……。それに、わたしの頭の中には、高い医療知識がなくても、診断と応急処置の方法を示してくれる“魔導診断機”の設計図も浮かんでいるの」


ヨウィエルは、息を呑んで聞き入っている。


「魔道具を使って応急処置を行う人材を育てれば、現在の治療師にかかっている負担も減るでしょう?

その結果、治療師を目指したいと考える若者も、きっと増えると思うわ」


「……はあ……」


ヨウィエルは、思わず声を漏らした。


「驚いたよ。君が、この国のためにそこまで考えてくれていたなんて」


ミレイアは困ったように苦笑する。


「別に帝国のためってわけじゃないの。たまたま現状を知ってしまったから……放っておけなくなっただけ。

それに、帝国にノクシア商会の魔道具を売りつけたいという下心もあるわ……」


「ははっ」


ヨウィエルは、心底楽しそうに笑った。


「ミレイアは、俺の想像を軽く超えてくるね。

君の作る魔道具なら、いくらでも買わせてもらうよ」


ふと思い出したように、言葉を続ける。


「実は、レオンにも話してたんだけど……。

帝国ではすでに、レガリア製の魔道具が大人気なんだ。

入荷しても、すぐに売り切れてしまう」


「そうなの?」


「帝国内に生産拠点を作って、レガリアの技術者を派遣してもらえるなら、売り上げはレガリア王国と、発明家であるミレイアにも入るように計らうよ」


「まあ……それは、良い話ね!」


ミレイアの表情が、ぱっと明るくなる。


「ちょうど、工房を広げたいと思っていたの。

今度、商会の技術者を連れてきて、ヨウィエルに会わせるわ!」


「いいね! スケジュールが決まったら、俺の携帯通信機に連絡してくれよ」


そう言って、ヨウィエルはポケットから通信機を取り出した。


「あ……この間発売したばかりの最新機種だ!

どうして持ってるの?」


「まあ、皇太子の特権ってやつだよ。それよりさ……」


「うん? 何、ヨウィエル」


「えっとね……」


──コホン。


身を乗り出して話し込む二人の間に、レオンの咳払いが落ちる。


「ミレイア。距離の詰め方が、相変わらずおかしいよ。

他国の皇太子だってこと、忘れてないか?」


「あ……」


ミレイアは、はっとして肩をすくめる。


「そうだよね。ごめんなさい」


しゅん、と落ち込むミレイアを見て、ヨウィエルがすかさず口を挟んだ。


「おい、レオン。ミレイアは、俺の希望に応えてくれただけだろ。なあミレイア、俺は気にしないから、これからも気楽に話してくれよ」


「うん……」


初対面とは思えない2人の空気に、レオンの胸がざわめく。


「はあ……。ヨウィエルも、もう充分だよな?

そろそろ、ミレイアは返してもらう」


レオンはそう言って、ミレイアの手を強く握って立ち上がる。


「え、ちょっと待ってくれ」


ヨウィエルが慌てて呼び止める。


「ミレイア……今日は泊まっていくよな?

客室も用意させたし、ディナーも準備させている」


レオンの不機嫌そうな様子を気にしながらも、ミレイアは振り返った。


「ありがとう、ヨウィエル。今夜は泊まらせていただくわ。でも……今は、レオンと二人で話さなきゃいけないこともあるから」


そして、一瞬だけ、柔らかい笑みを浮かべる。


「……また、後で」


二人が部屋を出て行くのを見送りながら、

ヨウィエルは、ゆっくりと背もたれに身を預けた。


「……はあ」


胸の奥に残った想いを吐き出すように、

大きなため息が、静かな室内に溶けていった。


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