過去を視る
夕食を終えたあと、ミレイアはノエルと共に自室に戻った。
窓の外には、夜の街の灯りが連なっている。
ミレイアは、そっとカーテンを閉めた。
中央のテーブルの上に、円盤型の魔道具が置かれている。
「……それが、例の魔道具ですか?」
ノエルが、視線を落として尋ねる。
「そうよ。聖女が視えたものを、そのまま映像として映し出してくれる魔道具。
……実際に使うのは初めてだけどね」
ノエルは小さくため息をついた。
「……私が寝ている僅かな時間に、こんなにすごいものを、さらりと準備しているなんて……言葉もありません」
「まあ、ほとんどはエリサさんが作ったものだけどね」
「さすがエリサさん。間違いなくシオンさんのお姉さんですね……」
肩をすくめたノエルと、微笑みを浮かべたミレイアが、ソファに座ろうとした時ーー
突然、2人の間に淡い光が弾けた。
「ミレイア、お待たせ。また会えて嬉しいよ」
現れたばかりのアゼルが、当たり前のようにミレイアを抱きしめる。
「アゼル!来てくれてありがとう」
ミレイアは嬉しそうに笑い、自然に抱きしめ返した。
「まったく、揃いも揃って……」
ノエルが軽く咳払いをして、2人に向き合う。
「アゼルさん!連絡せずに急に現れるのはやめてください。それから、お嬢様に軽々しく触れるのもやめてもらえます?お嬢様も、普通に受け入れすぎです!」
ノエルの怒り顔を見て、慌てて離れた2人は、互いに苦笑した。
3人は、それぞれソファに腰掛けた。ミレイアの隣りに座ろうとしたアゼルは、ノエルの無言の圧力に負けて向かい側に。ノエルはミレイアの隣りに並んだ。
「アルス叔父さまに通信をつなぐわ」
ミレイアは通信魔道具を操作した。
空間に小さなアルスの虚像が映し出される。
『ノエル、聖女の力を使えるようになったんだって?』
「ええ、そうなの。兄さんに役立つような情報が視えるかはわからないけれど……」
『……無理はしなくていいからな。体に負担を感じたらすぐにやめてくれ』
「わかったわ」
頷くノエルの隣りで、ミレイアが可視化魔道具を起動させて、空間に大きな光幕を作り出している。
アゼルはその様子を息を呑んで眺めていた。
「アルスおじさま、今からこの光幕にノエルが聖女の力で視たものが、映像として映し出されます。そちらから、ちゃんと見えていますか?」
『ああ。しっかり見えているよ』
「ノエル、準備はいい?」
「はい、お嬢様」
ノエルは深呼吸をした後、魔道具に手をかざした。
集中して、王妃カミリアの過去を想像する。
しばらくして、淡い光が揺れーー断片的な映像が映し出された。
ーー
暗い部屋。幼い少女が何度も鞭で打たれている。
「痛い!痛いよ……やめて……」
悲痛な泣き声と共に聞こえてきたのは、男の怒号。
「魔力が全くないくせに、精神魔法が効かない体質だけを持っているなんて……どこまでがっかりさせれば気が済むんだ……欠陥品が!」
再び鳴り響く鞭の音。
絞り出される少女……カミリアの声。
「痛いよお……どうして……?なんでこんなことするの?
……お父様!」
映し出されたのは、彼女の父親。若かりし頃のゼファル・グラウベン公爵だった。




