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3回目の記録

「あ、ちょっと待って。一応読む前に伝えておくよ。ミレイアの前世……100年前の聖女は、私の叔母なんだ」

ユキアが、日記を読もうとしたミレイアに声をかけた。


「……日記帳は娘に受け継がれてきたと思っていましたけど……叔母さまなんですか?」


「ああ、そうだね。聖女の日記を託されたのは、長女である母だった。

叔母は、死を覚悟した時に、母にだけ前世のすべてを打ち明けて、日記帳を借りたんだ。記録を残すために……」


「大おばあさまは、その話を?」


「聞いていない。母が教えてくれたのは、叔母が初代聖女の生まれ変わりだったという話だけだよ。

叔母は私が10歳の時に、25歳の若さで命を落とした。私は彼女のことを慕っていたからよく覚えている。この西の森に住んでいたこともあるんだ……。

秘密めいた人で、今のミレイアに負けないぐらい美しい人だったよ。若い時から多くの男性に求婚されていたが、生涯独身だった。

彼女が日記帳に何を書き残したのかを知りたい。読んでみてくれるかい?」


ミレイアは静かに頷き、自分にしか解読できない文字を、声に出して読み始めた。


「わたしはミレナとミレーユという2つの人生の記憶を持って、再び生まれ変わった。3回目の人生……ミレットとして生きた証を、ここに書き残す」


ーー


生まれた瞬間、泣き声をあげるより先に思ったわ。

"ああ、また始まったんだ"って。


だけど今回は、生まれてきた瞬間に薄紫の光は放っていなかったの。

しかも、長女ではなく、次女!


10歳上の姉のマリヤは、わたしが言葉を発せるようになった時には、既に力を覚醒させていて、聖女として育てられていた。


力を使わなければ、薄紫に光ることもない。ミレナの生まれ変わりであることも、バレていない。

今回は、聖女の宿命に縛られず自由に生きられそう!

他人のためではなく、自分のために。


2回目の人生で産んだ娘は、80年の天寿を全うして家族に見守られながら息を引き取った。

幼かった孫のダリヤは、現在の祖母。聖女の立場を早々に娘に引き継いだ後、世界中を旅して悠々自適な生活を送っている。

普通なら見られるはずのない成長した姿を見られるんだから、転生も悪くはないわね。


精神年齢の高いわたしは、幼いころから同年代の子供と馴染めず、1人でいることが多かった。だけど、愛情深い家族の元で、それなりに楽しくすごしていた。

魔力検査を、力を隠し通して何とか乗り切ったおかげか、特段注目を浴びることもなかった。


"恋愛はしない"と宣言したのは、前世の痛みを忘れていなかったから。

……胸を焦がすような想いはもうたくさん。


それなのに……成長するにつれて、わたしの外見に惹かれる男たちが次々によってくるようになった。女友達はすぐに離れて行ってしまうし、いくら冷たくあしらっても、別の男に入れ替わるだけでキリがない。


わたしは王立学校を出た15歳のころから、西の森で暮らし始めた。人里から離れ精霊たちに囲まれる生活は、穏やかで気楽だった。


でも、平穏な暮らしは長く続かない。


王都で流行病が広まった。生まれ育った街は、病のせいで壊滅状態。

治癒にあたっていた母も倒れたと、緊急の手紙が届いた。

姉は子供が生まれる寸前で、動ける状態じゃない。


わたしは、ずっと隠していた力を解放した。

薄紫色の光を体から放ちながら、次々に死にかけた人々を救って回った。


だけど、母だけは……救えなかった。

何度試しても、治癒魔法が効かなかった。産後の姉が急いで駆けつけたけれど、やっぱり治癒は出来ず、数日後、亡くなってしまった……。


わたしは、街の流行病を収束させたことで幻の聖女と呼ばれるようになった。


噂を聞きつけた神殿は、正式に聖女として働くように勧めてきたけれど、酷使されるのはごめんだった。

しかし、母を亡くし、今後負担が増えるであろう姉が心配な気持ちもあった。

結局、緊急要請が来た場合の臨時の聖女となることで落ち着き、森に戻った。


最初の要請は、商店街でおきた襲撃事件の怪我人の治癒だった。

治癒をうけた大富豪、商人のリュシクは、たくさんの贈り物を持って森の家まで会いに来た。

"ミレットさんのためなら何でもする。いつだって駆けつけるよ"

そう言って馬車で2日間かかる道のりを何度も行き来して、わたしがほしい魔道具や、森では手に入らない食料や衣服を運んできた。

わたしからの報酬を受け取ることもなく、冷たく突き返しても、またやってきた。

"一体何が目的なんですか"

と問い詰めたわたしに、

"ただ君の顔を見ていたいだけだ。ちなみに、婚約者は募集中だよ"

とリュシクは平然と答える。

もちろん婚約者になるつもりはない。


二度目の要請は、地震の被災者の治癒だった。そこで、領民の様子を見に来ていた侯爵令息ベルドに出会った。

彼は、相手によって性格を変えるカメレオンのような男だったが、傲慢な父親とは違い、領民に分け隔てなく手を差し伸べていた。

共に被災者を助け、お互いの家族の話や、好きな文学の話をするうち、意気投合した。

その後も領民の様子を一緒に見に行こうと何度も誘われた。

"ミレットといると素の自分でいられる。……お前が好きだ。どうか、俺と結婚を前提とした交際をしてくれ"

真っ直ぐに伝えてくれたベルドを、わたしはやんわりと否定することしか出来なかった。

別れ際の寂しそうな顔が忘れられない。


3回目の要請は、数年前に国交を復活したアレキサンダス帝国へ向かう視察団に同行することだった。


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