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戦う覚悟

手紙を読み終えたマーサは、困惑した表情を浮かべて肩をおとした。


「父とセラフィス神官長が友人だったなんて全然知らなかった。ここに来たきっかけが、父の勧めだったなんて……意外だな。アゼルを預けるために話をしに行った時、父は私を心配する言葉一つかけてくれなかったから……。もう、見捨てられたんだと思ってた」


少し遠くを見るような目で、マーサは続ける。


「私にとってセラフィス神官長は、実の父以上の存在で、ずっと守られていると思ってたけど……彼は精神魔法で操られて、魔石を使って私を殺そうとしていたのね……。なんだか皮肉ね。

そしてその魔石のせいで、森の聖獣たちが魔物化した……」


「そうじゃな。あの時、ミレイアたちが浄化をしてくれなかったら、今頃森は、荒廃しておったじゃろう。わしたちも、無事では無かったかもしれん。恐ろしいのう」

イリウスが体を震わせる。


「セラフィスは自分が犠牲になる覚悟でここを出て行った……そして、魔物化した白龍に飛ばされたんだな」

ユキアが眉を寄せる。


「ーーあ!実は数日前、セラフィス神官長に会って治療をしてきたんです。アゼルから聞いているかもしれませんけど……」

ミレイアが思い出したように声を上げる。


「え、聞いてないわ……!」

マーサが目を丸くする。


「……何だか話しづらくて、時期を見て話そうと考えていたんだ……」


アゼルが苦笑いをして続ける。


「セラフィス神官長は、南の農村にいました。白龍に飛ばされた後、倒れているところを住民に助けられたようです。治療をして今は正気を取り戻しています。

マーサとミレイアを殺す暗示がかかっていたことは、その時に本人から聞きました。しかし、一部の記憶が喪失していて……白龍と契約したこと、精霊の泉に邪悪な魔石を投げ込んだこと、そして魔石を渡し精神魔法で操っていた人物の顔と名前も……覚えていないようでした」


「セラフィスは今も農村に?」


ユキアがアゼルに問いかける。


「はい。しばらくは村の教会で神官として働くそうです」


「そうか……無事だったんだね。まあ、今はまだ、戻らない方がいいだろう。……マーサは、彼を恨んでいるかい?」


マーサは首を横に振った。


「セラフィス神官長は、あの男に精神を乗っ取られていた被害者です。今は複雑な気持ちですけど、私の味方になろうとしてくれていたあのころのことまで否定したくない……」


ミレイアは、マーサを安心させるように語りかける。


「大丈夫。もう、誰にもあなたを傷つけさせません。わたしは、すべての元凶と戦います。必ず、何とかします。」


「ミレイアさん……、あなたも殺されかけていたのよ?すごく危険な相手だってこと、ちゃんとわかってる?何故そんなに強くいられるの?」


マーサの切実な問いかけに、ミレイアは迷いなく答える。


「わたしは平気です。魔力は人一倍持っていますから。今も苦しむ人たちを放っておくわけにはいかないんです」


威勢のいい声色に反して、ミレイアの肩は少し震えている。

それを見つけたアゼルが、テーブルの下でそっと手を握った。

そして、優しく言い聞かせた。


「ミレイア、一人で危険なことをするのだけはやめてほしい。今の君には、沢山の味方がいる。ノクシア領の皆も、学園の皆も、精霊たちも……。僕は、君のためならなんだってする。レオンやアレクと手を組んだっていい。どうか、一緒に戦わせてくれ」


「アゼル……。わたしもあなたを危険な目に合わせたくない。だけど、放っておいてはくれないよね?」


「……あれが父親だなんて思っていないが、血を分けたものとして、マーサを傷つけミレイアの家族の命を奪った罪を、必ず償わせないとならない。

だけど今のまま立ち向かっても、うまくいくとは思えない。決定的な弱点を見つけ出す必要がある」


「うん、そうだね。わたしもそう思うわ。……準備を進めていきましょう」


手を繋いで見つめ合う二人に、向かい側に座るユキアとイリウスとマーサが、穴が開くような視線を送っている。


「あ……」


ミレイアが照れた顔をして手を離した。


「ミレイア。すっかり忘れているようだけど……本題の、聖女の日記の続きはどうなってる?」


「あ、そうだった」


ミレイアは、はっとしてテーブルに置いたままの日記のページをめくる。


「続きがあるみたいです」


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