表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
272/379

セラフィスからの手紙

「セラフィス神官長は、弔いの後、2人きりになった私とアゼルを心配して訪ねて来てくれた。……その時初めて、アゼルの父親について話をしたの……」


マーサが苦い表情で、続きを語ろうとした時、ユキアが口を挟んだ。


「ちょっといいかい? 実は……セラフィスから手紙を預かっている」


「手紙?」


マーサの驚く顔を見ながら、ユキアは、聖女の日記が入っていた木箱の中から一通の封書を取り出して、テーブルの上に置いた。


「私も中は読んでいない。マーサをここに連れてきた時、"元気になったら渡してほしい"と託されたんだ」


「読んでも……いいですか?」


「もちろんだよ」


マーサは震える指で封を切り、中の手紙を開いた。


「マーサへーー君がこれを読んでいるということは、元気になったということだろうか……」


ーー


まず、謝らなければならない。

操られていたとはいえ、とんでもないことをしてしまった。


日に日に正気を保てる時間が短くなっている。

今のうちに、この手紙を残しておく。


マーサが巫女になりたいと神殿に駆け込んだ時、君は家族を亡くしたと言っていたが……実は、君の父・セレディオから手紙が届いていた。


私とセレディオは学園時代の旧友だ。

互いに競い合いながらも尊敬し合えた、数少ない仲だった。


魔塔主の息子であるセレディオと、神殿の神官として働くことが決まった私は、卒業後に表立って会うことはなかったが……それでも時折、手紙のやり取りをしていた。


手紙には、君と仲違いした理由が書かれていた。

魔塔主の娘が神殿の巫女になるなど、本来は禁忌だろう。

だがセレディオはただ——娘である君を守ってほしいと、私に頼んできた。


あの時、私は神官長になったばかりで多忙を極めていたが、君のことは気にかけていたつもりだった。

仲間の巫女にも世話を頼んでいたし、待遇も悪くなかったはずだ。


日に日に暗い顔になっていったことに気づきながらも、住み慣れた家が恋しくなっただけだろう、いずれ落ち着く……そう、考えていたんだ。


シオンとアリアが、君に身の回りの世話を頼みたいから、新居に一緒に住まわせたいと言い出した時には、これで、一安心だと思った。


アゼルを育て始めた時にも、捨て子に愛情が湧いたのかと……微笑ましく思っていたぐらいだった。


マーサが、辛い目に遭って、身籠って、自殺を図り……ひっそりと出産していたことなど考えもしなかったんだ。


真実を聞いたあの日、私はどんな顔をしていただろう。

気づけなかった自分を責める気持ちと、信じられないという気持ちが、入り混じっていた。


マーサを強姦した人物が、あの頃の私には“あり得ない人物”だったから。


あの方は、定期的に神殿へ多額の寄付をし、人々の悩みに耳を傾け、涙を流して説教をする、誰もが敬う紳士だった。

地位もあり、妻子もいる。

そのような人物が、そんな卑劣な行為をするなど……私には信じられなかった。


確かめなければ、という一心であの方に近づいた。

精神魔法を操り、神官たちや王宮の要人たちを洗脳していることに気がついたのは、自らもまた、魔法の影響を受け始めた後だった。


それでもこのころはまだ、気を抜かなければ正気を保てていたし、命令をされることもなかった。

信じたい気持ちも残っていた。


しかし、"マーサという若い巫女は、今どこにいる?"と尋ねられた時……私は確信した。


——君の言っていたことは本当だったと。


巫女になって僅かで神殿を出た君を、あの方が知っているはずなどなかったから。


……私は、"彼女は流行病で亡くなりました"と嘘をついた。


それから8年。成長したアゼルは、10歳の魔力検査で規格外の力を見せた。

セレディオ譲りの転移魔法だけでなく、魔力の色が見え、心を落ち着かせる魔法まで使えた。

おそらくあれは、あの方からの遺伝である“精神魔法”だ……。


周囲の勧めでアゼルは神官見習いとなったが、あの方が神殿を訪れる日は、私はアゼルを決して表に出さなかった。

だが、別の神官の口からアゼルの噂が出たのを耳にした時……限界を悟った。


マーサにアゼルを連れて魔塔へ行くよう勧めたのは、そのためだ。

君はセレディオに真実を告げたようだが、結局はアゼルだけが魔塔で暮らすことになった。


私が正気を保てなくなってきたのは、半年ほど前からだ。


あの方は、ミレイア嬢が殺されたはずのシオンの娘であることに気がついた。

そして隠されていたマーサ、そしてアゼルの存在にも——。


しばらく側にいて分かったのだが……あの方は、自分より能力の高い一族に異常な執着を見せる。

魔塔主の家系と聖女の家系は、特に。


ミレイア嬢とマーサを殺すよう命じられたのは、その頃だ。


私は精神魔法に操られ、刺客を二度もミレイア嬢に差し向けた。

そしてマーサの部屋に邪悪な魔力の宿った魔石を隠し、病に侵されるよう仕向けた。


正気に戻るたびに後悔した。

しかしまた意識は曖昧になる。


正気でいられるわずかな隙を縫い、私はセレディオに全てを告白する手紙を書いた。

そして、どうかマーサを魔塔へ連れ帰ってほしいと……。


返事はすぐに届いた。

——マーサは魔塔を嫌がるだろう。西の森へ連れていってほしい。魔塔と神殿の修復を試みていた元聖女がいる。

聖域である西の森なら、悪しき術者は踏み込めないだろう——


それがマーサを西の森へ連れてきた理由だ。


私は、邪悪な魔石を持ってどこか人のいない場所に行くつもりだ。

それで罪が許されるとは思っていない。

ただ、せめて誰にも迷惑をかけたくない。


……ああ、また意識が朦朧としてきた。


君の幸せを、祈っている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ