能力の覚醒
「本当は今でも……魔力の少ない私にそんな能力があるなんて信じられない。だけど、もし私に誰かを助けられる可能性があるのなら……やってみたい」
ノエルが通信魔道具に浮かび上がるユキアに決意を語る。
『ああ、それでいい。聖女の能力を発動するには、まず、他人の助けになりたいと強く願うことが必要なんだ』
「うん……」
『聖女だからといって、必ず特殊能力を持つわけじゃない。けれど、ノエルに過去視の能力が発現することは、アリアが予知していたから間違いない。自分の持つ力を信じることも必要だよ』
「……具体的にはどうすればいいの?」
『聖女の特殊能力は”視る”力だ。みたいものを想像してごらん……。ノエルの能力の場合は、対象人物の過去を』
ノエルは、しばらくの沈黙の後、口を開く。
「王妃様の過去を考えてみたけど……だめね、何も思い浮かばない」
『頭で考えてはいけないよ。瞳の奥に集中するんだ……。そうだね……最初は自分の身近な人について視る方がやりやすいだろう』
「身近な人……それなら……」
ノエルは胸に手を当てて目を閉じる。
隣に立つミレイアも、いつも賑やかな聖獣たちも、そして通信魔道具越しのユキアたちも……息を呑んで見守っている。
一瞬、空気がわずかに揺れ、ノエルの体から淡い光が溢れ出す。
彼女は小さく息を飲み込み、目を見開く。
「……見えた……」
ノエルの瞳から、ぽろりと一筋の涙が零れる。
ミレイアがそっと肩に手を置いた。
「何が見えたの?」
「サム……結婚したばかりのころの、質素だけど幸せだった頃の姿が……」
ノエルの声には、驚きと喜び、そして少しの切なさが混じる。
ユキアは微笑み、ほっとした声を上げた。
『いいじゃないか。その感覚をしっかり覚えておくんだよ。……今、どんな感じだい?』
「寝ている時にみる夢に似ているけど、不思議……現実におきたことだってはっきりとわかるの……。だけど、これは私の中の記憶ではない。私が一緒にいない時のこと……。サムは、工房に訪ねてきた旅の商人に『結婚しているのか』と聞かれて、私のことを嬉しそうに話してたわ……。大好きだった、はにかんだ笑顔で……」
ノエルが頬の涙を拭って、うっとりとした表情を浮かべた。
『これからは、いつでも視れるだろうさ。しかし……過去を視ることは嬉しいことばかりじゃないからね。過去とは違う現実に打ちのめされることもあるだろうし……思わぬ真実を知って憤ることもあるかもしれない。……ノエルが今ここに生きている現実を見失わないように、常に心を強く持つんだ』
ユキアの忠告にノエルは強く頷いた。
『それからもうひとつ。力を使った後は、すごく疲れるんだ。よく食べて、よく寝ること……わかったね』
「わかったわ、おばあさま。おかげで、兄さんが知りたがっている王妃様の過去も視ることができそう……ありがとう」
『ああ、アルスに連絡しておやり。今日は夜まで仕事だと言っていたからその後にでも……』
「そうね。なんだか……おばあさまが言うように疲れたみたい。私は、少し休んでくるわ。いいですか、お嬢様」
そう言ったノエルは、少し息が上がっている。
「もちろんよ、ノエル。初めて能力を使ったんだから疲れるのは仕方ないわ。ゆっくり休んできて。ノエルに世話なんてしてもらわなくても、わたしは全然大丈夫だから!」
「うん……、それを言われると侍女としては寂しいんですけど……」
苦笑しながら部屋を出るノエルを見送った後、ミレイアは通信魔道具の向こうのユキアに語りかけた。
「前から聞きたかったんです。大おばあさま、わたしにも特殊能力って……ありますか?」
『ああ、まだ知らなかったんだね。ミレイアは、生まれつき特別な力を持っているよ。初代の聖女と同じ……神の意志を視る力だ』
「何それ……。全くわからないんですけど。そもそも聖女ってなんなんですか」
『それを語るのは、時間がかかりそうだけど……大丈夫かい?誰かが呼んでいるのでは?』
ユキアの目は、さっきからミレイアのドレッサーの上で震えている携帯通信機に向いている。
「あ、気づかなかった。レオンからだわ!」
『聖女の話とミレイアの能力の話は、今度会った時に話すよ。近いうちに、アゼルと一緒に会いに来るんだろう?』
「はい。必ず!」
ミレイアは、西の森の3人に手を振りながら通信魔道具を遮断した。
そしてーー急いでレオンからの通信を繋いだ。




