ノエルの能力
ミレイアがノクシア邸に転移魔法で戻ったのは、外がまだ薄暗い早朝だった。
「あ、お嬢様。おかえりなさい。早かったですね」
ノエルが、朝支度を終えてミレイアの部屋のソファでくつろいでいた。傍らでは契約獣たちが気持ちよさそうにまどろんでいる。
「ノエル、ただいま。みんな、いい子にしてた?」
モフィとスインが弾かれたように起き上がり、ミレイアへ飛びついた。
「ミレイアが帰ってきたー!」
「おはよ〜ミレイア。寂しかったよ〜」
「主よ、よく戻った。無事で何よりだ」
ギンは飛びつきたい気持ちを堪えて、低い声で挨拶をしたが、しっぽだけは嬉しそうに揺れている。
ミレイアは三匹をまとめて抱き寄せ、頬擦りをした。
「朝食は召し上がりました?」
ノエルが微笑ましくその様子を眺めながら声をかける。
「ええ。アルスおじさまが早朝から仕事だったから、一緒にご馳走になってきたの。ノエルは?」
「私はさっき使用人のみんなと食べました。兄さんは元気そうでしたか?」
「うん。色々あったから、少し疲れた顔はしてたけどね。……ノエルに伝言があって」
ミレイアはモフィたちをそっとおろし、向かいのソファへ腰を下ろした。
「伝言、ですか?」
ノエルは真っすぐに背筋を伸ばす。
「まずは、王妃様のことを聞いてほしいのだけど……」
ミレイアは、アルスの設置した瞬間記録機に残された映像のことから話し始めた。
――王妃がイグニッツ侯爵の非道を理解した上で、第二王子の即位のために共謀していたこと。
そして、王妃自身が顔の見えない男に何度もムチで打たれていたこと。
さらに、レオンが乗るはずだった馬車に細工したのが王妃カミリアであったことも、包み隠さず語った。
「なるほど……。いつの時代も、王位をめぐる争いはあったようですが、王妃様の件は……もっと深い闇がありそうですね」
ノエルの静かな言葉に、ミレイアは頷く。
「うん。アルスおじさまも同じことを言ってた。それで伝言なんだけど――」
「私の力が必要だって言われました?」
ノエルがゆっくり問い返した。
「え! ノエル、知ってたの? おじさまは“ノエル本人は、聖女の能力を持つことを知らないだろう”って言ってたけど……」
ミレイアが驚くと、ノエルは少し目を伏せ、記憶をたどるように口を開いた。
「兄さんと、このことについて話したことは一度もありませんからね。……昔、姉さんが教えてくれたんです。
あの頃の私は、六歳になったばかりで、いつか姉さんのような聖女になれると本気で思っていました。そしたら父さんも、少しは……認めてくれるかもしれないって」
ノエルは小さく息をつく。
「だけど、いくら勉強しても魔法は使えるようにならないし、初等学校の魔力検査でも平民レベルの魔力しかありませんでした。……落ち込んでる私に、姉さんが言ったんです」
――『ノエルは"過去を視る"聖女の能力を持っているわ。その力がいつか、あなたの大切な人を助けることになる』
「結局、聖女の力を覚醒することなく大人になって……。私は、最愛のサムを守れませんでした。
“大切な人を助ける力がある”なんて、嘘だったんだと思っていたんです」
ノエルは顔を上げ、真っ直ぐミレイアを見る。
「……だけど、ついにその時が来たんですね」




