開かれた国交
「100年間入国が許されなかった帝国で対談の場が設けられた背景には、皇帝の代替わりがありました。
初代アレキサンダスの時代から、皇帝の座と共に代々受け継がれてきた“精霊の血”と呼ばれる強大な魔力は、子を授からなかった4代目の死によって途絶えてしまったのです……」
皇帝の座は、養子であった5代目——皇帝ヨウィータが継ぐことになった。
聡明で温和な人柄で国民に愛されていたが、魔力は低く、100年ものあいだ帝国を守っていた結界を維持できなくなった。
帝国を守るため、ヨウィータはレガリア王国との関係改善が不可欠だと判断し、先先代国王エルヴィスへ対話を申し入れた。
エルヴィスは両国の確執を理解していたが、先進的な思考の持ち主だったため、帝国の提案を快く受け入れた。
しかし、話し合いのために帝国を訪れたエルヴィスたち一行は、帝国民から手荒い洗礼を受けることになる。
宿泊場所も食事も他国の国王をもてなすとは思えない粗末なもので、皇帝以外の帝国要人たちは笑顔ひとつ見せず、握手にも応じなかった。
それでも国王エルヴィスは怒らず、終始穏やかで堂々とした態度を崩さなかった。
その誠実さが功を奏し、両国は「互いに侵略しないこと」「過去の責任を問わないこと」を条件に国交を復活させることとなる。
さらに皇帝ヨウィータは、レガリア王国に残された“帝国に関する過去の資料”をすべて破棄することを追加条件として求めた。
「……理由は明示されなかったようですが、帝国側には、レガリア王国に残したくない“過去”があったのかもしれませんね」
「だから資料が残っていなかったのか……」
「ええ。会談の後、帝国の使者が一つずつ確認して回るほどの徹底ぶりだったそうです」
「先先代陛下は博識で外交力に優れていたと聞いている。そんな方が黙ってその条件を呑んだとは……少し意外だな」
そう言ってレオンは手元の資料を閉じた。
「……そろそろ町に着きそうだ」




