136 帝国の歴史
「私が留学した当時、ほとんどの帝国民はレガリア王国に良い印象を持っていませんでした。魔法を使って争いを仕掛ける野蛮な国と噂されているのを何度も耳にしましたし、私自身、留学先で心ない扱いを受けて困っていた時期もありました。しかし、そんな中でクラスメイトたちを律してくれたのが、当時皇太子だった現在の皇帝でした。それからは、皇太子の側近でもあった現在の外務大臣のソトシンが、色々気にかけてくれて……」
ソトシンは、レガリア王国からの留学生を毛嫌いすることはなく、むしろ友好的だった。
彼は、帝国民がレガリア王国を嫌う理由を教えてくれた。
ーー200年前、世界は戦火の真っ只中にあり、多くの小国で紛争が起こっていた。
それを中心となって煽っていたのが、その時代、世界最大の国だったレガリア王国だった。国王のカルファルは怪しい魔法を操る独裁者であり、逆らった者には容赦がなかった。
だが、そんな時代を変える人物が現れた。小国同士の紛争を止め、強い統率力で各地をまとめ、新たな帝国を築いた初代皇帝アレキサンダスである。
彼自身は小国出身の騎士にすぎなかったが——
“人型精霊”の妻を持っていたと伝えられている。
「人型精霊……っ!」
レオンは思わず声を上げた。
アレクの存在を知っているからこそ、帝国史にその名が出てくることに驚いたのだ。
ブリックは、レオンの反応に気づきながらも、曖昧な笑みで首を縦に振った。
「伝説のようなものです。何かの比喩かもしれませんし……。さて、話の続きを」
ーー帝国が力を伸ばし始めて数年後、カルファルが率いるレガリア王国の軍が侵攻してきた。
アレキサンダスとその妻は敵に立ち向かったが、民を守るために魔力を使い果たしていたため、カルファルの強大な魔法の前に命を落とした。
彼らには二人の息子がいた。
一人は当時16歳。精霊の血を引き、聡明だった彼は、カルファルらをレガリア王国へ誘導し、国外から侵入できないよう巨大な結界を張った。そして、両親の遺志を継いで新皇帝となった。
もう一人の幼い息子は混乱の中で行方不明になっていたが、数年後——
カルファル討伐の報告とともに姿を現した。
帝国内の養護施設で育てられていた彼は、幼馴染であるグリアユス王国の王女を救うべく単身レガリアへ乗り込み、なお権力を握っていたカルファルを討ったという。
カルファル亡き後は、彼の幼い息子ではなく、遠縁の側近がレガリア国王を引き継いだ。
国王が代わったことで両国の交流は細々と続いたがーー数年後、レガリア王国は突然「カルファル陛下を殺した罪を償え」と賠償を求めてきた。
だが、先に戦争を仕掛け皇帝夫妻を殺したのはレガリア王国であり、両国は相容れないまま国交断絶の100年を迎えることになった。
「これが、ソトシンから聞いた帝国で伝えられている歴史です。先先代の国王がどのように国交を復活させたかは……宰相殿の方が詳しいでしょう」
レオンがそばに控えていた宰相ソウダインに視線を向けると、彼は静かに頷き、レオンの隣に腰を下ろした。
「ええ。私の父は、先先代陛下が交渉の席についた際、通訳として随行しておりました。その場で何が語られたのか……少しばかり聞かされております」




