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135 帝国に入る

レオンたちを乗せた魔導走行車がアレキサンダス帝国の国境検問所をくぐったのは、夕暮れ時だった。

警備隊は見たことのない乗り物に訝しげな視線を向けたが、すでに連絡が入っていたらしく、レオンたちの顔ぶれを確認すると入国証を見せるだけで問題なく通過できた。


「ここまでずいぶん早かったな。馬車なら丸一日はかかったところだが、この速度なら帝都の公邸にも、あと数時間で到着できそうだ」


宰相ソウダインが感嘆の息を漏らす。


「二日後に、帝国の皇太子殿下と外務大臣との会談が予定されています。殿下、日程は調整いたしますか?」


文官長ブリックが携帯通信機を手に、レオンに問いかけた。


「そうだな……先に、兵が占拠していた町の様子を見たい。ひとまず今晩は近くで宿を取ろう。調整がつくなら、明日には帝都に向かう」


魔導走行車が荒野を進んでいると、国王の命令で侵入していた兵と合流した騎士団が、馬に乗って近づいてきた。


レオンは走行車のレバーを引き、速度を落として停車させた。

急いで降りた近衛騎士団のグラハムとセルジュが、兵たちから事情を聞いている。窓の外には、青ざめた兵と、状況を呑み込めず戸惑う騎士たちの姿が見えた。


レオンがゆっくり降りて近づくと、全員が一斉に敬礼した。


合流した騎士団の隊長ウーバが口を開く。


「レオン殿下、ご報告いたします。町に被害は確認できませんでした。住民の中には、我々がレガリア王国の騎士であると知って怯える者もおりましたが……怪我人もおらず、占拠されたという記憶も曖昧でして……」


しどろもどろになるウーバに代わり、帝国出身の副隊長デマルスが続けた。


「我々が到着した時、帝国軍が兵を拘束していました。私が帝国語で“王命は手違いであった”と説明し謝罪すると、被害状況を共に確認したうえで、すぐに撤退することを条件に我々を解放してくれました」


その直後、兵たちから聞き取りを終えたグラハムが報告する。


「兵は、軍事施設を破壊し、町を焼き払い住民を捕らえる王命を受けていたようです。実際にそれを遂行したと言う兵も数名いますが……実際にはどこも破壊されていません。まるで集団で幻覚を見ていたように、話が噛み合わないのです」


レオンは、精霊アレクが町を修復し、住民と兵双方に一時的な“幻覚魔法”を施したと語っていたことを思い出す。


――あいつは気に食わないやつだが……さすが精霊だな。


「最悪の事態にならなくて良かった。……兵たちは今は混乱しているだけだろう」


「……承知しました。では、我々は先に王国へ戻ります。どうかお気をつけて」


ウーバ隊と、幻覚の余韻が残る兵たちは馬にまたがり、荒野の向こうへと去って行った。


魔導走行車は再び動き出し、町へと向かう。

クラリスから渡された帝国の資料を読み込んでいたレオンが、ブリックへと視線を向けた。


「文官長。俺は王太子として、世界各国については人より学んできたつもりだ。アレキサンダス帝国についても同じだ。言葉も話せるし、名産も把握している。しかし……歴史について、俺が知っていることが驚くほど少ない。クラリスの資料にも肝心な部分が抜けている。二百年前に建国されたばかりの帝国が、なぜこれほどまでに力をつけたのか。レガリア王国との国交を百年以上も閉ざしていた理由。そして、五十年前に先先代の国王が国交を回復した際、どんな話し合いがあったのか……王宮の記録に何も残っていないのは不自然だ。何か知っていることはないか?」


ブリックはしばし沈黙し、それから静かに口を開いた。


「若い頃、私は帝国へ留学した経験がございます。その時に見聞きしたことを、少しお話ししましょう……」


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