134 ひとりじゃない
夜が深くなった頃。
ミレイアとパミルは、ララベルが用意したお揃いの柔らかいパジャマを着て、客室のベッドで並んで横になっていた。さっき知ったばかりの衝撃的な事実に胸がざわつき、2人ともなかなか眠れずにいる。
「ミレイアお姉ちゃん……レオン殿下のことが心配?」
パミルが、浮かない表情のミレイアに声をかけた。
「ええ……。わたしが弱気になるなんて、だめだよね……しっかりしないと……」
「心配になるのは当然だよ。実の母親に命を狙われているなんて……。王妃様にどんな事情があったとしても、許せるわけない……」
「うん、そうだよね……王妃様のやったことは……証明されれば罪に問われるでしょうね……。レオンに伝えたら、悲しい顔をするだろうな……。それに……ううん、なんでもない」
ミレイアは言いかけて口を閉ざした。胸の奥が重く痛む。
ーーまだ確信がもてない。目的もわからない。でも、王妃様をムチで叩いていた男が、わたしの思い当たる人物で間違っていなかったら……レオンはさらに傷つく。
きっとあの人物が精神魔法を操るすべての元凶。
わたしを産んだ両親を殺め、今もなおわたしたちの命を狙う黒幕。そして、アゼルの父親。
ーー確かめなくてはならない。
パミルが、そっと覗き込む。
「お姉ちゃん? 大丈夫?」
「ん?……大丈夫だよ。わたしは全然平気」
「だけど、泣いてる……」
いつの間にかミレイアの頬を伝っていた涙に、パミルがそっと触れた。
ミレイアは、はっとして息を吸う。
「パミル……」
堰を切ったように、ミレイアは声を上げて泣いた。
胸に溜まっていた不安と恐怖と、レオンへの思いが、涙に溶けてあふれ出す。
パミルは何も言わず、小さな手で抱き寄せた。
その時だった。天井からキラキラとした光の粒が降り始め、緑色の封筒がヒラヒラと舞い落ちてきた。
「何これ? お姉ちゃんの魔法?」
パミルが驚きながら手を伸ばす。
ミレイアは涙を拭い、すっと表情を整えた。
「わたしあての手紙だよ。3年前から毎晩届いてるの」
ミレイアは封を開き、光に包まれた文字を読んだ。
【ミレイアへ】
大丈夫、レオンはひとりじゃない
あなたもひとりで抱え込まないで
短いメッセージは、読んだ途端に光の中へと溶けて消えた。
パミルは息をのんだまま、その幻想的な光景を見つめる。
「手紙……だれからなの?」
「送り主の名前は書いていないの。だけど、この3年……ずっと心の拠り所になっていたのは事実よ。時々、未来を知っているような内容のメッセージが届くから、最初は未来の恋人からの手紙だと思っていたの。わたししか知らないようなことも書かれていたから、将来のわたし自身なんじゃないかと思ったこともあるわ。
でもね……最近思い始めているの。
ーーこれは、亡くなった両親がわたしに残した、過去からの手紙だったんじゃないかと」
「アリアさんが……娘の未来を予言して?」
「たぶんだけどね……」
少しの沈黙の後、パミルは小さく息を吸った。
「明日……朝、帰っちゃうの?」
「うん。やらないといけないことがたくさんあるから。ノエルとも話さないとならないし。……パミルにも、また手伝ってもらうことになると思う」
「うん。まだ治療しないといけない人たちがいるもんね。いつでもすぐに出られるように準備しておくよ」
「ありがとう、パミル。今日は疲れたよね……そろそろ寝よう」
「……うん。おやすみ、ミレイアお姉ちゃん……」
2人は寄り添うように目を閉じ、ようやく静かな眠りについた。




