130 鉢合わせ
ミレイアは、後悔していた。
連絡を入れずにオルコット家の玄関ホールに転移してしまったことを。
「え? ミレイアさん?」
扉の近くで鉢合わせたのはマリエル・オルコットだった。学園のクラスメイトであり、イザベル・イグニッツの1番の親友、そしてララベルの妹である。
「あ、マリエルさん……。こんばんは」
咄嗟に挨拶したものの、訝しむマリエルの視線に動揺してしまう。
「何故ミレイアさんがここに? こんな時間に……」
「あ……実は約束があって……」
どこまで話していいか分からず戸惑っていると、ドタバタと音がして、ミレイアの足元にハンスが飛び付いた。
「ミレイア、会いたかった〜」
その後を追いかけてきたパミルが声を上げる。
「ミレイアお姉ちゃん! よく来てくれたね、待ってたよ〜」
「あ、うん……」
ミレイアは目を瞬かせながらも、ハンスを抱きしめ返す。
マリエルが、姪のパミルに問いかける。
「あなたたち、ミレイアさんと知り合いなの?」
「うん! お父様が会わせてくれて、仲良くなったの」
パミルが、嘘ではないが核心をさけた返事をする。
「お義兄さまが?……ああ、そういえば生き別れになってた妹さんが、たまたまミレイアさんの侍女だったんだっけ……」
マリエルが思い出したようにつぶやく。
ミレイアはコクコクと頷く。
「そう、そうなの! 今日はパミルとハンスに会いに来たの。色々あって遅くなっちゃったんだけどね……。マリエルさんは何故ここに?」
「私は姉に借りていた本を返しに来ただけよ。ーーミレイアさんは、ハンスにずいぶん懐かれているのね。私は嫌われているみたいだから……羨ましいな」
そう言って笑みを浮かべるマリエルは、少し寂しそうに見える。
「ねえ、マリエルさん! 今度2人でゆっくり話さない?」
ミレイアが帰ろうとするマリエルを思わず呼び止める。
「……そうね。同じクラスだけど、今までちゃんと話したことはなかったかもしれない。あなたとは縁がありそうだし、今度、お茶でも飲みながら話しましょう。では、私はこれで」
マリエルに手を振って見送ると、パミルがほっと胸を撫で下ろした。
「はあ、良かった。なんとか誤魔化せたみたい」
「やっぱりマリエルさんには、わたしの事情は伝えていないのね」
「うん。ノエルさんがわたしの叔母さまだってことは知っているみたいだけど、ミレイアお姉ちゃんが幼い頃に亡くなったはずの、わたしの従姉妹だってことは話してないよ」
「話す気はないの? マリエルさん、寂しそうにしてたけど……」
「うん。今は話さない方がいいってお母さまが。マリエル叔母ちゃんのことは別に嫌いじゃないよ。ハンスもそうだと思うけど、怖いおじいさまと一緒に住んでいるから、警戒しているだけ」
「オルコット侯爵? 怖いの?」
「うん……。人を言いなりにさせようとするの。思い通りにいかないと暗い部屋に閉じ込めるし。ハンスは今まで何回も閉じ込められてる。わたしは一回だけ、王妃教育を嫌がった時にね……。おばあさまも、おじいさまの言うことをちゃんと聞きなさいとしか言ってくれないし……」
「でも、パミルたちはハンスが生まれる前に主屋から離れたのよね?」
「うん。だけど……父母がいない時に預けられていたことが何度かあって……。前はハンスが、おばあさまに懐いていたからね。さすがに今は警戒しているけど」
「そう……小さい時に怖い思いをしたのね……。マリエルさんは、大丈夫なのかしら」
主屋に戻って行ったマリエルを心配するミレイアに、パミルが応える。
「大丈夫じゃないかな。マリエル叔母ちゃんは、おじいさまの反感を買うようなタイプじゃないし。それより、早く入りましょう。お父さまとお母さまも待ってるわ!」
「うん……」
ミレイアはパミルとハンスに手を引かれて室内に入っていった。




