123 馬車の代わりに
レオン、ミレイア、パミルの3人は、王宮の正門前に向かって歩き出した。
12月の冷たく澄んだ空気が、頬を撫でる。陽はまだ高く、噴水が光を受けてきらめいている。
広い庭園を横切り、馬小屋の前に差し掛かった。
護衛としてレオンたちに同行する予定の近衛騎士団のグラハム隊が、3人の姿を確認して馬に跨ったまま敬礼した。
「ちょっと待ってて」
そう言い残し、レオンは隊長のグラハムのもとへ向かう。
すぐ側には、王族専用の紋章が入った豪華な馬車が置かれていた。磨き込まれた車体が冬の陽を反射して鈍く光る。御者が出発前の点検を進めている。
「ね、ねえ、レオン殿下はあの馬車に乗って帝国に向かうの?」
パミルがミレイアの袖をつまみ、少し上擦った声で問いかける。
「うん、あれはレオンがいつも使っている馬車ね。どうかしたの?」
パミルが眉をひそめて耳打ちをする。
「……なるほど。教えてくれてありがとう。なんとかしないとね……」
ミレイアは一瞬目を見開いたが、不安げなパミルを安心させるように柔らかく微笑んだ。
「お待たせ」
戻ってきたレオンが歩き出そうとした瞬間、ミレイアは彼の腕を掴んで引き止めた。
「レオン、出発前に渡しておきたいものがあるの。ちょっと広いところで……いいかな?」
レオンは不思議そうに頷いた。
ミレイアは人目につかない馬小屋の裏へ、レオンとパミルを引っ張って行く。
誰もいないことを確認すると、肩にかけた小さなマジックポシェットの中に手を突っ込み、大きな物を引っ張り出した。
淡い光が弾け、4つの車輪と窓がついた箱型の魔道具が姿を現す。
「これは……ミレイアが学会で論文を発表していた魔導走行車だよね。既に完成していたなんて知らなかった……驚いたな」
レオンが目を瞬かせている。
「セドリックが仕上げを頑張ってくれたの。さっき受け取ってきたばかりよ。……レオン、馬車で行くのはやめて、これに乗って帝国に行ってほしいの」
「これに乗るのか? 俺はいいんだが、一緒に行く宰相と文官長が何と言うか……。出来たばかりの魔道具なんだろ? 大丈夫なの?」
「ええ。検証はたっぷりしてきたから、心配ないわ。魔導走行車は、馬車と違って馬の体調に左右されないし、途中の休憩も必要ない。それに、馬車なら帝国の中心部まで丸2日かかるけれど、魔導走行車の出力を大きくすれば、半日もかからないで到着できるわ。中もこだわって作ったから、乗り心地もなかなかいいの。10人乗りだからグラハムさんたちも一緒に乗れるし……」
「……ずいぶん推すね」
「最新の技術は、帝国との交渉でも有利に働くと思うの。それに――」
ミレイアは少し声を落とした。
「パミルが、レオンの馬車に異常があるって教えてくれたの。悪意のある魔法の細工がされているらしいわ……」
ミレイアが視線を送ると、パミルは「うん、そうなの」と頷いて、レオンの顔を見上げた。
「わたしの聖女の力で視えたんです。人間や動物に対してなら、もう少し細かく状態異常がわかるんですけど、馬車の本体に魔法がかけられているから、それがどんな種類の魔法かまでは判別できません。だけど……乗っていけば、無事ではいられないかもしれないんです!」
レオンは眉をひそめ、額に手を当てた。
「誰かが俺に危害を加えようとしているのか……。宮廷魔術師を呼んで馬車を調べさせるよ。ーーそれで、ミレイア。魔導走行車は御者がいなくても動くのか?」
「目的地を言えば自動で走る仕組みよ。簡単な手動操作もできるわ。試してみる?」
「乗りたい!」
パミルが勢いよく手を挙げる。
レオンは苦笑し、ミレイアの瞳を見つめて頷いた。
「ああ、これで行こう。みんな驚くだろうけどな」




