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第1話 5

終夜が探しているもの。

それは、この騒動の一番の原因であろうハサミだった。


終夜はハサミを見つけ、手で拾い上げ、少女の近くまで行き、床に座った。


「じゃあ、全てのことを話してくれるか?」

終夜は唐突に切り出した。

優一は何がなんだか分からなかった。

が、すぐにその答えは出てきた。


「いつから、我の存在に気が付いた。」

無機質な男性の声。

その声が発せられているのは、まぎれもないハサミだった。

ハサミが言葉を発している。

目の前に起きた摩訶不思議な光景に優一は目を点にする事しか出来なかった。


「俺の肩にあんたが突き刺さった時だ、そん時にあらかた、あんたと少女の過去をみたがな」

そんな優一にお構いなしに、終夜は続けた。


「そうだったのか…では、改めて礼を言わせてもらう」

ハサミは続けて

「あの子を救ってもらってありがとう」

そう言った。


「まだそれを言われるのにはちと早い」

終夜は手をひらひらとさせながらそう言うと

「では、過去にこの子とあんたに何が起こったのか教えてくれ」

終夜は頭を下げ、そう言った。


「…そうだな、そうするとしよう」

少し間を空けてハサミは言った。

「だが、まずは我の正体を教えよう」

終夜もいつの間にか近くにいた優一もそのことは気になるので素直に頷いた。


「では、単刀直入に言わせて頂く。我は神だ」

ハサミはそう言った。

優一は隣で「か、神様ぁ!?」と、驚きの声をあげた。

「神と言えど、たくさん居てな、我は全てを断ち切ることが出来るのだ」

他にも、死を操る神や、幸福を司る神なども居るのだ、とハサミ兼神様はそう言った。


「んで、なんでその神様がこの子と一緒に居るんだ?」

終夜が少女の方を指差しながら言った。

少女はよっぽど疲れていたのか、いまだ小さな寝息を立てていた。

「もしかして、この子も神様?」

優一は自分の仮説を立てたが、

「それは、違う」

と、直ぐに否定された。


「その少女と我が出会ったのは、五年ほど前のことだ」

ハサミはゆっくりと過去について語り出した。






とある街にある事件が立て続けに起きていた。

その手口は、人を廃墟の中に連れ込み、バラバラに切断して殺すと言った、残虐かつ冷酷な手口だった。

それも、一度に数人の時があった。


そして、その日がやってきた。




「いやぁ、お父さんっ!!お母さんっ!!」

少女の声が響く。

少女の目の前には少女の両親だった「もの」が転がっていた。

そして、その横には男が一人立っている。

その手にはその少女の両親命を奪ったであろう一本の日本刀が握られていた。


その時の少女の声でハサミは目が覚めたのだった。

もともとここは遠い昔に神を奉っていた祠があり、その上に作られた建物だった。

そこで奉られていたのが、その神様だった。



「なんで、なんでこんなことするの!!」

少女は涙で顔をくしゃくしゃにしながら叫んだ。


男が少女の方に振り向いた。

「なんでかって?そんなの聞くまでもないだろ」

男の顔が狂気に歪む。

「楽しいからに決まっているだろう」そう、男は殺人狂。

人を殺すことを芯から楽しんでいる人間。

人を殺すことに躊躇いのない人間。

自己満足のために人を殺す。

快楽のために人を殺す。

そういう男だった。


「んにしても、つまんねぇなぁ、もう死にやがった」

男は少女の両親だった「もの」を蹴飛ばした。

「次は、お前かな、お嬢ちゃん」

ゆらりと、男は少女に近付いた。


少女は逃げようとジタバタするが、手足を縄で縛られているため動くことが出来ない。

「やだやだやだぁ、誰か、誰か助けてっ!!」

少女は泣き叫ぶ。

その声に神は心揺すぶられていた。

(彼女を助けたい。だが、そんなことをすれば…)

神という地位を失うことになる。


神は力を使って人間に手を貸してはならない。

そういう法律みたいなものがある。

もし、それを破れば神という立場を失い、違う何かに姿を変えられて長い生涯を過ごさなければならない。


神の中で心が揺れている間に、男は少女の目の前にまで立っていた。

「やだぁ、やだぁぁぁ!!」


ガタガタ身体を震わし、

両目からは涙が溢れ、

少女はただ叫ぶことしか出来なかった。


「良いねぇ、その声」

男は笑顔で言う。

「でもねぇ、お嬢ちゃん、君は死ぬんだよ」

男の顔が狂気で埋め尽くされた顔で日本刀を振り上げる。


「さようなら、お嬢ちゃん」


男が日本刀を振り下ろそうとした瞬間、一瞬時が止まった。

男の身体に沢山の線が走る。

そして、男の身体はバラバラに切り裂かれた。

だが、血は出ない。


少女の目の前に大きなハサミが突き刺さる。

「お前には痛みもやらぬ、その姿で永遠にさまよい続けるがよい」

機会的な男の声が響く。

「と言っても、我に切り裂かれたものの時は止まるのだかな」

それは、他にもならぬ、その様子を見ていた神のなれの果ての姿だった。


男の身体を神の力で切り裂いた途端に姿をハサミに変えられてしまったのだ。

そして、自分の力では動くことも許されない、ただの道具になり果てた。

ただ、普通のに比べると大きいが。


だが、神はなんの後悔もなかった



「そして、そなた」

ハサミは少女に語りかける。

少女の瞳には光はすでにない。

「そなたは、何を望む?」

ハサミは少女に語りかけた。何を、望む…?

少女の頭の中は絶望で染まっていた。

自分は助かった。

自分は助かったのだが、

両親は、もう、この世にはいない。

もう、あの暖かった笑顔も温もりも感じることは出来ないのだ。

誰も、少女の隣にはいない。

存在、しない。


「もう…やだ…」

少女は嫌だった。

独りで生きていくことが、

隣に誰もいないことが、

こんな世界要らない。

独りぼっちで生きる世界なんて要らない。

「こんな世界…もう要らない。」

少女は静かに呟いた


「…そうか、ならば我を手に取れ」

ハサミはそう言う

とても大きなハサミだったが、ハサミを少女が握った途端に少女にハサミの力が多少なりとも宿り、簡単に地面から引き抜くことが出来た。


「我は何でも断ち切るハサミ」

ハサミは続ける。

「そなたは、いったい何から断ち切る?」ハサミは少女に再び訪ねた。


「私は…この世界との繋がりを断ち切る」

少女は静かにハサミを開き、ゆっくりと閉じた。

少女は世界と切り離され、少女の時が止まった。

ハサミはこの結果に不満はなかった。

きっとこの少女は立ち直ってくれると信じていたから。



だが、思うようにことは進まず。

少女の心は荒れに荒れ、

事あるごとに廃墟のなかで暴れた。

やがては、自分の名前すら忘れ、

世界との繋がり断ち切りながらも、生きることを渇望した。

死を恐れた。

独りを恐れた。

だがいつまで時が経とうともずっと独りだった。それから、いくつもの月日が流れた。

少女は、世界から切り離されていたので、年をとらず、成長もせず、

あの日と変わらぬ姿のままでいた。

ただ、心は違っていた。

独りということを本気で恐れ、

死を本気で恐れ、

少女の心は完全に壊れてしまった。

独りではないと、いくらハサミが言ったとしても、所詮無機物。

少女の心の隙間を埋めることは出来なかった。


そして、少女は一つずつ忘れていった。

最初にこの事件のことを。

次に自分の両親のことを。

最後に自分自身のことを。


そうしなければ、少女は、

少女の心は爆発してしまっていた。



「そして、五年の時が流れ少年、君に救われたのだ」

そうハサミは話に終わりを告げた。


優一は開いた口が塞がらなかった。

知らなかったのだ。

少女がこんなにも苦しんでいたことを。

少女は何も悪くないということを。


「済まなかった」

謝ったのは終夜である。

「もっと俺が早く気が付いていれば…」

終夜は唇をかみしめた。

「いや、いいのだよ、現に君は彼女を救ってくれたのだから」

ハサミは優しく呟いた。


終夜は随分前から気が付いていた。

この廃墟の中で何かが起きていると。

だが、廃墟に入るための予定が合わず、

今日やっと乗り込むことが出来たのだった。


「これで我もやっと眠ることが出来る」

ハサミはそう続けた。これでやっと我も眠ることが出来る

ハサミの言った言葉にすぐに言い返したのは、

「ふざけるな!!」

他でもない終夜だった。


眠ることが出来る?

なんで眠る必要がある?

なんで、5年もの長い月日を共に過ごして来た、少女と離れられなきゃいけないのか?


終夜には理解出来ない。


「我が誤っていたのだ。我がしっかりしていればこんなことにはならなかったのだ」

機械的な男性の声なのだけど、そこには悔しさが感じ取れた。


「それに、名前もない神もどきの我と一緒に居てはならぬのだ」


ぜつ、それがお前の名だ」

終夜がいきなりハサミに言い放った。

何でも断ち切る、絶つ事から「ぜつ


「今更、名をもらったところで我は所詮神もどきな…」

「そんなの関係ないっ!!」

終夜は絶に言い放った。

「絶が神だろうがなんだろうが俺は知らない。だかなっ!!世界とは切り離されていたとしてもこの子と過ごした時間は本物だ!!」

終夜は止まらない。

「その長い時間過ごしたあんたが居なくなったらこの子はどう思う?」

握り拳を振り回しながら終夜は叫ぶ。

「悲しむに決まっているだろっ!!そんなことも分からないのか!!」

確かに、周りからしてみたら絶は単なる大きなハサミかもしれない。

だけど、少女からしてみたらかけがえのない存在なのだ。

ずっと、共に過ごしていたのだから。

ずっと、少女の隣にいたのだから。

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