第3話 1
「…ここは、いったい…?」
いつも寝ている時の上下黒のスウェットで佇む1人の少年、天城終夜はふと呟いた。
そして、終夜は考える。
上下スウェット姿である以上、自分はそのまま自らの布団に潜り込み眠ったはず。
と言うより眠った記憶も残っている。
自分の置かれた状況がいまいち分からないがとりあえず立ち上がり、終夜は辺りを見回した。
夕焼けなのか朝焼けなのか分からないが天は赤く染まっており、辺り一面に荒野が広がっている。
天は赤く染まってはいるが、辺りを照らすまでの光はなく、遠くまでは終夜の瞳でも見渡すことは出来なかった。
その時、終夜の後ろ側から終夜の身体が持ち上げてしまいそうな強い風が吹く。
その風に終夜は一旦バランスを崩しかけるがなんとか立て直し、倒れることを回避した。
風を耐えきった終夜は何故か顔に驚愕
浮かべ、勢いよく振り返る。
「…なんなんだ、あれは?」
終夜の真後ろに在ったため終夜は振り返るまで気が付かなかった。
終夜の後ろには、まるで天を突き刺すかのように、天高く、ただただ真っ直ぐに天に伸びていた塔が一つ建っていた。
もう一度、終夜目掛け風が吹く。
終夜は、手を翳しながら、耳を澄ます。
「□□□□□□ーーー」
言葉にならない、声とも言いづらい、ただただ純粋な叫び声。
それも、その声には、痛み、悲しみ、絶望と言った負の感情の塊だった。
しかし、終夜の耳にはしっかりと、入った。
もちろん、その声を聞き逃す筈もなく、終夜は走り出した。
あの天高く伸びる塔に向かって。
*******
塔の入り口の所で終夜は壁に背を預け肩で息をしていた。
顔には幾つもの大粒の汗を浮かべながら、終夜は呼吸を整える。
(何か身体の調子が変だ。)
終夜は壁から背を離し、両手を膝の上に乗せ呼吸を整えながら考える。
(俺が居た所から此処まではそんなに距離も離れていなかった。普段の俺なら対して気にならない程度の距離だった。)
息を整え終わると終夜は自分が走って来た道のりを振り返る。
(だけど、走る速度はいつもよりもずいぶんと遅く、体力をかなり落ちている。まるで普通の人間と同じぐらいに)
終夜はそこまで思考を進め、顔を歪めた。
「俺は、バケモノなんだけどな…」
終夜はそう呟くと、自分の身体の疑問を考えるのをやめ、自分の前にある天高く伸びる塔の中にある螺旋階段を上り始める。
長い螺旋階段を上り始めて早、十数分。
終夜の足取りは重くなってきており、一度は引いた汗がまた浮かんできている。
なるべく息を乱さないように階段を昇りながら終夜は思考を凝らす。
(やっぱり、俺の体力は普通の人間程度にまで落ちている。でも、なんでだ?確かに昨日までは、いや、眠る前まではいつも通りだったはず、なら何でだ?)
終夜はそこまで考えると、今まで階段を登り続けてきた足が悲鳴を上げており、足が震え始めて来ていることを知ると、終夜は立ち止まり階段へ腰掛けた。
終夜は自分のずいぶんと疲労した足の筋肉をほぐす。
(俺は力を失ったのか?俺は《人間》と呼べるような存在になったのか?)
〈普通の人間〉になる。
それは異常な力を押し付けられた終夜
にとっては全てを犠牲にしてでも欲する願いだった。
(…そんなのは駄目だ。もしそうだとしたら力を取り戻さないとな)
願いの筈だった。
しかし、終夜はもうその願いを欲することは出来ない。
(俺はあの《力》でみんなを救ってみせる。みんなを幸せにしてみせる。)
《力》に固執しているわけではない、
その《力》から得られる終夜の《願い》の為に終夜は自分の為の願いを捨てる。
あらかたほぐし終わった足を軽く叩くと、終夜はまた階段を一段一段昇り始めた。




