幕間 4
終夜はデパートの一角に設けられた休憩所のベンチに深く腰掛け天を見上げいる
《天》と言ってもデパートの天井の白いコンクリートな訳なのだが、終夜は天を見上げたい気分だった。
終夜がこのような状態になってしまった理由が終夜の横に置いてある沢山の紙袋である。
勿論、その中身は服である。
買い物に来る前までに一悶着あったのだが、いざデパートに来てみると結衣のテンションが急上昇した。
目の前に広がる服などに目を輝かせていいるところをみると、やはり、結衣も女の子なんだなぁ、なんて
終夜は思っていた。
そこまでは良かった。
問題はその後である。
結衣は服を一つ一つ手に取り、「この服、私に似合うかな?」と、聞いて来るのである。
終夜は服のセンスがよくわからない。
なので終夜は、「あぁ」や「うん」などといった曖昧な返事しか返すことしかできない。
勿論、結衣もそれで納得するはずもなく、三、四度生返事を繰り返したところで、「ちゃんと一緒に考えてよっ!!」と、涙目で大きすぎる声で言われ、周りの人達に冷たい視線の集中放火を喰らい、終夜も真剣に考える。
元々服に関して対して興味がなかった終夜なので考えたところで大した案など浮かぶ筈もないのだが、とりあえず、終夜が見て結衣に似合いそうな服を探す。
腰まで伸びた綺麗な黒髪。
それとは対照的な白い肌。
顔立ちも整っており、まさに大和撫子を再現したような感じの少女。
(着物とか似合うかもな)
と、頭に浮かんだ終夜だったが、洋服売り場に着物なんて有るわけもなく、直ぐに考えを打ち消す。
しばらくの間考え、ようやく終夜の手が動く。
結衣の綺麗な黒髪がより際立って見えるように明るめの空色のワンピース。
それだけでは今の季節では寒いため、その上に羽織るための白色のカーディガンを掴み、
「俺はこれがいいと思うぞ」と、言って結衣に手渡した。
そこで、終夜の集中力は切れた。
「後は自分で選んでくれ」
「えぇ~、もっと選んでよ」
「俺が選んでばっかりも駄目だろ。後は結衣が選べよ。」
「終夜に選んでもらうことに意味があるんだよ!!」
「だから、俺は選んだだろう?」
「そうだけど、一着だけじゃん!!」
「それに、結衣がどういう服を選んで来るのか少し楽しみだったりするんだよ」
実は、これは本当だった。
結衣が自分でどういう服を選んでくるのか少し興味があった。
「む~、まぁ、一着だけとはいえ選んでくれたし、いいよ。後は私が選ぶよ」
渋々ながらも納得してくれた結衣に終夜はホッと息を付く。
「でも、お金は大丈夫なの?」
「それなら大丈夫だ。少し多めに持ってきたからな」
「そうじゃなくて、私の服でしょ?私がお金を全く払わないで買ってもらうなんてなんか悪いよ」
結衣の頭がしゅん、と、うなだれる。
本当に申し訳ないと思っているようだった。
「そんな事気にするな。これは俺から新しい《家族》へのプレゼントなんだから」
終夜はそう言いながら、結衣の頭に手を置き、優しく頭を撫でる。
「だからな、結衣。俺に遠慮なんてするな」
「……うんっ!!じゃあ、終夜をギャフンと言わせる服選んでくるからっ!!」
「ギャフンってなんだよ……」
本当に嬉しそうに、満面の笑みで結衣は売り場へ駆けていった。
朝の行動を見ていると遠慮のひとかけらもないように見えるが、こういうところでは結衣は気を使う。
なので終夜は《家族》という言葉を使った。
結衣がそれを欲しているのは気付いていたから。
そして終夜は、溜め息を吐く。
これは結衣に対するものではない。
終夜自身に向けたものである。
終夜は結衣に《家族》と言ったが、それは断じて違うと考える。
終夜は《バケモノ》だから、家族になんてなれない。
なれる筈がない。
本当なら結衣の隣に立つ資格もない。
それでも終夜は結衣に向かって嘘を吐く。
結衣を傷付けたくない、という偽善から嘘を吐く。
そして、ひとつ嘘を付くごとに終夜の心の中に重くのしかかる。
終夜はそんな自分がたまらなく嫌になる。
(だけど、今だけでも結衣が笑っていてくれるなら、いいかな)
終夜はそんなことを思いながら結衣のあとを追いかけようと、歩き始めた時だった。
突然飛び出して来た人と正面から激突。
終夜は少しバランスを崩した程度だったが、ぶつかった相手は終夜よりも小さかった為、尻餅をつく。
終夜は反射的にそのぶつかった相手に手を差しのべる。
「ごめんなさい、って終夜じゃん」
「すまない、って結衣か」
終夜とぶつかった相手は結衣だった。
結衣は差し伸ばされた手を取り、立ち上がる。
「…まさか、もう選んできたのか?」
「うんっ!そうだよ」
「………ギャフン」
「…なにそれ?」
結衣の手には四、五着の服があり、終夜が考えに耽っていた僅かの間に結衣は服を既に選び終えていた。
終夜の選んでいた時間の数倍早い。
それに驚き、自分でも思ってもいなかった、言うことになるとは思わなかった言葉を終夜は口にしていた。
「それだけでいいんだな?」
「うん、いいよ」
「んじゃ、レジにいきますか」
とりあえず、一呼吸を入れ、終夜はレジのある方向へ足を向けるが、結衣に手を捕まれ、止められる。
終夜は急に止められ、バランスを崩しかけるがなんとか立て直す。
「ん?どうした?」
「えっと、あのね 。私だけ服買うのもなんだから、終夜の服も選んであげる」
「別に、俺は買わなくてもいいんだが…」
「駄目、だって終夜、そんなに服持ってないでしょ」
「それはそうだが…」
終夜は確かに服をそんなに持っていない。
終夜自身、あまり服に興味がないため、学校の制服を入れても数着しか持ってない。
「大丈夫、私が選んであげるから」
そう笑顔で言い切られ、終夜は渋々了解した。
してしまった。
そこからだった。
終夜の地獄が始まったのは。
何故か目を輝かせた結衣が紳士服コーナーに入った途端に目に入った終夜に似合いそうな服を数着を一瞬で選び、終夜に手渡し、試着室へ終夜の手を引っ張り連れて行く。
試着室に終夜と選んだ服を押し込む。
余りにも早過ぎる状況変化についていけずに戸惑う終夜に結衣は、
「んじゃ、着替えたら出てきてね」
と、笑顔でそう言うと試着室のカーテンを閉めた。
そして、そこからはずっと結衣ペースで運んで言った。
着せ替え人形かのように終夜に次々に服を着替えさせ、服を決めていく。
そして、結衣の納得できるまでの服を選び終える頃には終夜の体力は0になっていた。
そして、レジを済ませ冒頭部分に戻る。
結衣は下着コーナーへ行った。
流石に終夜と一緒に下着を買うのは結衣でも恥ずかしいらしく、1人で行くと、言い1人で行った。
終夜はそれにホッとするとどっと疲れが出てベンチに深々と腰掛け、缶コーヒーを啜る。
そこで、フーッと一息付いた時だった。
デパートの休憩所に設けられた窓から《それ》が見えたのは。




