幕間 3
「あんなに泣かれてたら、言い出せないよな…」
終夜は1人部屋の中で呟いた。
結衣が目が覚めていることに気が付き、何故終夜の布団の中で寝ていたのか問いただそうと思い、勢いよく洗面所のドアを開けた終夜だったが、開けた瞬間に頭が真っ白になった。
結衣が大粒の涙を流しながら終夜の枕に顔をこすりつけていた。
それも、涙を流しながら終夜の名前を呼び続ける。
その声はとても弱々しく、まるで全てに絶望したかのような声。
その光景を見せられた終夜は、先ほどの勢いは完全に消え失せ、
「…一体何をしているんだ?結衣?」
そんな素っ気ないことしか言えなかった。
その後、結衣に泣きながら抱きつかれたり、頬ずりされたり一悶着あったが、何とか落ち着かせ、朝食を取らせた。
「絶、今回のことはあまり怒らないでやってくれ」
「ああ、我も分かっている」
終夜は部屋の奥の窓の下に立てかけられている絶に声をかけ、絶もそれに返す。
今回のこととは、結衣が終夜の布団に潜り込み、一緒に寝たこと。
結衣は絶が居たとはいえ、今まで1人きりで過ごしていた。
だから、結衣は孤独を極端に嫌う。
故に、結衣は誰かの温もりを求める。
考えてみたら、簡単なことだったのだ。
終夜はそれを理解し、溜め息をつく。
「でも、俺は《バケモノ》だから、な…。あまり、俺に近付かないでくれ。俺には結衣の隣で生きる資格なんてないのだから…」
終夜の呟きは部屋の中に消えていった。
「終夜~歯ブラシ借りるね~」
「結衣っ!?ちょっとまて!!今新しいの出すからっ!!」
少し部屋の空気が暗くなっていたのだが、結衣の一言で一気に吹き飛んだ。
終夜は直ぐに、部屋を飛び出し洗面所へ向かう。
「…お前はどれほどの痛みを、どれほどの覚悟をその小さな身体で背負っておるんだ。…だがな、お前は《バケモノ》じゃない。正真正銘人間だ。だから、結衣のことを頼むぞ、終夜よ」
無機質な声が部屋に響く。
しかし、その声が終夜へ届くことはなかった。
終夜が洗面所へ駆け込む。
そして、目の前に写り込んだのは、『終夜』の歯ブラシを口に突っ込む直前の結衣の姿。
終夜は、自らの力をフル動員させ、神速の速さで結衣から自分の歯ブラシをひったくると、洗面台の上に置かれている棚から新品の歯ブラシを取り出し、結衣の口に突っ込む。
突っ込んだ歯ブラシには歯磨き粉がしっかりと付いている。
こんな、どうしようもないことに力を使うのは些か、無駄なのではと一瞬終夜の頭によぎったが直ぐに否定する。
むしろ、全力でやらなければ危なかった。
「むぅ~、終夜との間接キスがぁ~」
シャカシャカと音立てながら歯磨きをしながら結衣は文句を言っている。
「…やはり、それが狙いだったんだな。…というより、そういうことって普通、コップとかでやらないか?」
終夜は片手で頭を抑え、盛大に溜め息を吐き出す。
そして広がる盛大な沈黙。
「…結衣?」
急の沈黙に少し怖くなったのか終夜は結衣の顔を覗き込む。
結衣はぽかんとした顔付きでボーっとしていた。
そして、数瞬の後に破られる沈黙。
「そっちなら間接キスはOKなの!?寧ろやりたい放題!?」
「…いや、だめだから」
結衣の顔から発せられる驚きと喜びに溢れた声を終夜は迷うことなく切り捨てる。
ぶーぶー、と文句を垂れている結衣をシカトしながら、結衣の口に入れられそうになった歯ブラシを終夜は自らの口に放り込む。
本当は今日起きてから二回目(そんなに時間を空けずに)の歯磨きだが、歯磨き粉までしっかり付いている歯ブラシを放置する事は終夜には出来なかった。
「今日は買い物に行くからな」
ハミガキを終え、1人で暮らすには少し広いぐらいの八畳の部屋の中央にテーブルを置き、窓側に座った終夜がそう切り出した。
「はいは~い、質問~」
「ん?なんだ、結衣?」
「いったい何を買いに行くの?って終夜っ!?何あからさまな溜め息吐いてるのっ!?」
終夜は結衣の言葉を聞くと同時に最近よく出るようになった盛大な溜め息を吐いた。
その溜め息に付いて結衣が抗議の声を挙げるが終夜は右から左へ受け流す。
「ねぇっ!!聞いてるの、終夜!?」
その態度が気に入らないのかさらに結衣は声を荒げる。
結衣による攻撃を一通り受けた終夜はもう一度溜め息を吐き出した。
「なら、結衣。今の自分の服装を見てみろ。」
「終夜のジャージだね、うん。それがなんか問題あるの?」
「じゃあ、なんでそれを着ているんだ?」
「う~んと、私が終夜の匂いが好きだから?」
「違うだろっ!!結衣の着る服がないからだろ!?」
「でも、私は終夜の匂いが大好きだよっ!!」
「そんな事誰も聞いていないっ!!」
このままだと結衣が暴走しそうなので終夜は答えを教えることにした。
「結衣の服を買いに行くんだよ」
女の子というのは買い物が好きである。
更に言えば《服》というカテゴリーは特に好きである。
終夜はそう思っていたので結衣も喜ぶと思っていた。
しかし結衣の出した受け答えは終夜の斜め上をいっていた。
「私、服なんて欲しくない」
「えっ?何でだ?結衣だって新しい服欲しいだろ?」
「ううん、いらない。だって新しい服買ったら終夜の服着れないじゃない。」
「…そんな理由かよ」
終夜は盛大な溜め息を吐き出した。
結衣がその溜め息に文句を言っているが終夜は無視をした。
これでは話が終わらない。なので終夜は切り札のカードを切ることにした。
「結衣が可愛い服を着ているところ、俺はみたいんだけどな」
とても小さい声で呟くように終夜は言った。
さっきまで溜め息に対する文句を言っていた口の動きが止まる。
効果あり、と踏んだ終夜は畳みかける。
「結衣にはこんな男っぽい格好じゃなくて女の子らしい可愛い服を着てほしいんだけどな」
「…服」
あぁお「ん?」
「私の昨日着てた服どこにあるのっ!?
「あ、ああ。それならそこに洗って畳んで置いてあるぞ」
「じゃあ、着替えるからちょっと待ってて。着替え終わったら早速買い物行こう」
「あ、ああ。分かった」
雰囲気が変わった結衣に少し驚いたが買い物に行く方向に話が纏って良かったと、終夜は安堵の息をき出した。
あまり、こういうやり方は終夜は好きではない。
結衣の気持ちを利用したやり方は。
結衣は終夜に依存している。
依存しているから終夜に好かれようとする。
終夜が、独りだった結衣に近付いてしまったから。
結衣を《救う》と言う形で結衣に触れてしまったから。
そして、結衣は依存という感情を《恋愛》という形に置き換えてしまった。
勘違いしてしまっている。
恐らく、終夜以外の人が結衣を救っていたら、結衣はその人のことに同じ感情を抱くだろう。
そこから始まる恋愛もありだと言う人もいるかもしれない。
だが、終夜は認めない。
その感情が向けられるのが自分である、と、言うことを。
(でも駄目なんだよ、結衣。俺の手は…)
そして終夜は自嘲じみた笑みを浮かべた。
「それじゃ、買い物に行こう。終夜」
にこやかな笑みを浮かべ着替え終わった結衣が玄関のドアを開け終夜へ右手を差し出した。
「ああ、そうだな」
終夜は家の戸締まりをして結衣の手を取ることなく歩き出した。
(俺の手は…紅く汚れているのだから)
終夜は悲しそうな雰囲気を放ちながらもついて来ている結衣を確認すると歩き出した。
遅くなってごめんなさいm(_ _)m
ケータイがスマホになったので文字が打ちづらい…
これからも遅くなるかもです(^_^;)




