その日、邪魔が入った
ライバルも消え勧誘放題。
昨日までのお祭り騒ぎが一段落し、もういないはずの部活への勧誘者が、まだ存在するのに対する反応は様々だ。
一番多いのは、ちらりと一瞬だけこちらを見て足早に去っていく生徒。これはもう部活に入るつもりがないのだろう。無理強いはすまい。意味がないし、強引に何かをやらせても双方が不幸になるだけだ。
次に多いのがもう部活を始めている生徒。
掛け持ちを認めている活動もあるにはあるが、少数だ。こちらも勧誘するだけ無駄だろう。
その次にやっとこちらに目を止めて、遠巻きではあるが、立ち止まるもの。チャンスではあるが、彼らは野鳥と同じ。こちらが一歩踏み出せば、パッと飛び立つに違いない。
当方が用意した特典は魅力的だがワナにかからずどうやって、獲ようかと考えているのが手に取るようにわかる。
しまった。失敗した、ここは・・・。
「サクラでも仕込んでおけばよかったな」
「ああ」
痛恨のミス。誰か一人でもこちらに歩み寄ってくれれば、雪崩をうって入部希望者が押し掛けそうなのに。天敵の待ち構える海に、最初に飛び込むペンギンをファーストペンギンと讃えるらしく、そういう人をこちらは求めているのだが・・・。
そうこうしている、と。
下校するのに邪魔だと感じた生徒が通報したのか、はたまた校舎の出入口を監視できるところに活動拠点があるのか。
昨日の劇ではないが、取り囲まれた。生徒会役員? に。皆が皆、制服の片方の肩に小さなマントっぽい装飾をつけており、どうやらこちらが正式な身分証明のようだ。
昨日の役職が書かれた腕章は、本物ではない、という証明と、役柄を分かりやすく伝える小道具だったのだろう。
小鳥さん? 逃げ去りましたよ。もう。
あっ! と言う間に。
「どちら様?」
おもいっきり眉の間を中心に、シワを寄せたのはカーラだ。
今日も勧誘するのに否定的だった彼女だが、部員が増えるのに異論はなかったらしい。
そんなこちらの態度にも怯まず、リーダーらしき男子生徒を起点にユルいV字型で仁王立ちする集団、なんてのは、わざわざ自己紹介されずとも正体は推測できるが、確認するのに越したことはない。
万が一にも、───先生や職員を合わせても万に届かないこの学園では、ほとんどありえないと一緒の意味になってしまうが───取り締まるのが好きなだけで権限の一切ない同好会、取り締まり部なんてのがいるのかも───
「生徒実働部だ」
───しれなくもなかった。
「なんの用・・・」
「勧誘期間は昨日までだ。速やかに机を撤去し生徒会室に出頭せよ」
こちらの質問をさえぎり、言いたいことだけ言い放つ。
十人中、八、九人はカチン! とくる言い方であり、その割合を当てはめると四人しかいないこの同好会=所属人数が5人に達していない課外活動グループ、は。全員がいらっとしてもおかしくなかった。
「断る!」
正に一刀両断。ジョンが断言し、わざとらしく実働部、とやらを、ことさらに無視しその背後の生徒に笑顔を向けるる。
「そうね。この机と椅子は学園の職員さんに今日、借りた物だわ。勧誘期間が昨日までで、今日から禁止されているなら、何か一言いわれるだろうし、問題なく借りられたってことは学園側は、禁止って思ってないってことよね?」
繰り返す、“今日”の部分を強調してカーラがジョンと同意する。
なんとなく意見がぶつかることの多い二人だが、共通の敵がいると違うようだ。
「何が問題なんですかぁ?」
無邪気? に相手の神経を逆撫でするリーナといい、なぜうちの同好会員は血の気が多いのか。
「勧誘期間が昨日までなんて聞いていませんよ? 昨日までにカウントされた人数で部か同好会か決まる、予算がつくとは説明されましたが。逆に言えば来年まで処理できない無能、いえ、硬直、じゃなかった、手抜き、も違うか。・・・そこら辺に、こ・ち・ら・が目をつむれば、勧誘自体には問題がないのではありませんか」
プルプルと怒りに震え始めた実働部のリーダーっぽい人に、にこやかに勧誘のビラを差し出す。
バシッ!
・・・受け取らないのはいい、あたりまえだが、気をつかった部下? の人がこちらに差し出した手ごと、ビラを叩き落とすのはどうだろう?
「生徒会、を、なめやがって!」
一言、一言、区切るように。震えた声で言われても。
なめられるような言動をしたのはそっちだし、勧誘活動ができない理由を説明できないのもそちらの都合だ。
もし、かりに。ちゃんと理由があるなら、そう説明すればいいだけなのだから、こちらの邪魔する、できる根拠はないのだろう。
典型的な困ったちゃんだ。
何かしら理由があっての行動なら、すり合わせや、話し合いも試みられるが、そう感じた、とか、今までそうだったから、とかの思い込みや慣習による暴走には通じない。
説得に足るものが相手にないからだ。
まあ、去年までは、期間が過ぎても勧誘する同好会、部がなかったせいで今年問題を起こした同好会=うち、の対処をしなくてはいけなくなった彼にはちょっと、ほんの少しだけ同情できるが、それだけだ。
このまま昨日の芝居のように乱闘になるなら───
「ええいっ! うるさい! かかれ! 強制撤去だ!」
───真っ先に頭を潰そう。
ザクッ! どがっ! ぱあん!
そう思っていたのは自分だけではなかったようで、むこうの実力行使開始の合図と共に、こちらのワシタカが舞い降り、ジョンが駆け寄り、リーナがハの字に突き出した両手のひらから衝撃波っぽいのが打ち出され、実行部とやらのリーダーがひっかかれ、なぐられ、後ろに吹っ飛んだ。
しまった、出遅れた。
ここは自分が追撃? とどめをさす? 場面ではあるが、あまりの早業で、ボス? を倒され呆然としている他の生徒会員を刺激するのも・・・。
・・・どうか? どうする? どうしよう?
「まあ、まあ。ちょっと待ちたまえよ」
むこうとしては一息遅く、こちらとしてはちょうどよいタイミングで現れたのは男装の麗人だった。
で、あってるよな?
男女共に髪を伸ばすこの国では長髪の男性もめずらしくはない。ズボンを履く女性は少数派ではあるが、いる。その場合、腰まわりを隠すべく巻きスカートや、長目の上着を羽織るのだけれど、この学園の何種類か選べる制服には普通に男子も着る、長いタイプの上着がある。
腰がダメなら胸なのだが・・・。
「おい、どっちだと思う?」
ジョンでも判断に迷うようだ。
「ふふ。久しぶりだね。その当惑!」
声を聞けば、との考えは、やたらと芝居がかったセリフっぽい口調に邪魔された。
この学園では学年ごとに差し色、制服のスカーフや、ネクタイ、ベルトのバックル、装飾のラインが異なる。それからすると彼女?、彼? は二年生だ。たぶん、去年の入学時に戸惑われ、一旦落ち着き、新入生=自分ら一年が入って再び、なのだろう。
まあ。
「え、あのぅ。男性ですか? 女性ですか?」
リーナのように直接聞いてしまうのが一番早く、二番目に間違いが少ないか。
カーラがあわてて、口を押さえようとした手は。
ちょっと間に合わなかったようだ。




