その日 天啓はえられた
「ま、とにかく動いたんじゃ。使ってみるとしよう」
倒れた、いや寝落ちしたアルをお姫様抱っこで実験室の隅に運んだイルファ先輩がワクワクと蒸気機関のレバーを動かすと、やっと動いたシャフトが動回転を止めた。
ゆっくりとはいえ、人間やドワーフ、エルフには到底出せない出力。アタッチメントの交換には細心の注意をはらう必要があるからだ。
「まずは簡単なもんからじゃな」
「おいおい。マジかよ・・・」
ジョンの目の前で、鋼の棒が形を変えた。
でこぼこした四角形から、円形へ。
ヤスリで削れば数時間、下手すれば数日かかるであろう加工が数分、数秒。
手作業と比べたらほぼ一瞬である。
しかも、その加工精度ときたら。
「こりゃあ、わいらは廃業かのう」
イルファ先輩をもって、そう言わせるほどのなめらかさだ。
さらに次の加工ときたら。
「・・・」「・・・」
沈黙。自動的に繰り返される機械の動きには、変な中毒性がある。
ガッコん!
ぐるぐる、グルグル。
いつまででも見ていられるような・・・。
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「・・・これが。ネジっ・・・!」
イルファ先輩が掲げる、といってもドワーフの身長では、アルの肩ぐらいの高さでしかないのだが、そこは、皆が低くなることで補えられ。
なんかこう。
民衆を導くほにゃらら、もしくは奇跡にすがろうとする民衆のような光景が出来上がってしまっている。
エド、神官的には大丈夫かと目をやれば。
「ほうほう。ほー、ほほう」
・・・ふくろうっぽくなっているので問題無さそうだ。
彼が手にしているのは、どれだけ長く作れるかを試した一品。
潤滑油たっぷりな代物は、ナットを軸の上に載せただけでスルスルと下へ滑るように移動させており、末端が近ずくたび、ひっくり返せば無限に移動させられそうだ。
「んで? これが何なの?」
そういうカーラの横で、リーナがせっせせっせと、鈍器を制作している。
「わからんきに? これの凄さが! いままではリベットだったんじゃぞ? 固定するのにわざわざ熱せずともよく、はずすのに削らんでもよか。今回みたく、試作を繰り返すには最適じゃ!」
「ふーん」
・・・これが、実際に制作する者と、しないものの、温度差か。
まあ、朝イチなのでカーラの目がまだ覚めていない可能性もあるが。
「できましたっ!」
うん。リーナが完成させた鈍器は言い具合にナットがそろっておらず、ゴツゴツした角がいかにも痛そうである。
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「じゃま」
「危ないぞ」
「突っ立ってるなよ」
・・・恐れていたことが現実に。
イルファ先輩とその仲間達によってバラバラだった蒸気機関のほうも、出来上がったネジを利用し組み立てられ、本格的に飛行機の作成が始まると、素人集団の出る幕はなくなった。
というか。増えている。日を追うごとに。部員が。
まあ、入部届けは提出されているが。
そして恐れていたことが現実に。
木を削る=機体の作成は木工部に及ばず、心臓部の外側は陶芸部が作った鋳型に鋳物制作会が溶けた金属を流し込んでおり、危ないからと、近づくのもお断りされ。
蒸気機関を使った金属加工なら、誰も経験していないので、参加していいはず、なのだが、「ここはわいらが」と丁重にお断りされてしまっている。
「釜焚きなら任せるっスよ!」
「神官様はいるだけで心強いです」
「強度計算、検算はこちらでござるよ」
「燃料の」「研究は」「まかせろ!」
「今日は何が」「食べたいですか?」
「このネジとベアリング? は」「売れますね」
「おっと、そちらに独占はさせませんよ」
まあ、生き生きとしている初期メンバーもいる、というかそっちのほうが多いのだが・・・。
「あれっ?」
「オレらって」
「役立たず?」
あっちこっち覗き込んでいるリーナとスラリスを除く、自分含めた残りがそう思ってしまうのも無理はなかった。
なかったが。
ばん!
珍しくエルフ先生が音を立てて準備室の扉を開けた。
言い忘れていたが、飛行機作成を期限に間に合わせるべく、キンショコ=フラがフル回転なので、エルフ先生も休日出勤、連勤、皆勤であり、なんなら、たまに女子用宿泊室、中から鍵のかかる準備室=いつもの部屋に泊まったりもしている。
そのせいか、その美貌にも陰り、正確には目の下に黒々とした隈が浮かび、元の肌が透き通るように白いせいで、目立つことこの上ない。
そんなエルフ先生が何を始めるかというと・・・。
「あなた達、暇なら手伝いなさい」
「いや、ヒマじゃあ」とは。
一言多めのジョンでさえ口にできないほどの強い口調。
「ひまじゃないけど手伝ますっ!」とこちらにきたリーナも含め、黙々と言われた作業を手伝う。
ガリガリと地面───総合技術実験室の一部はその用途上、土がむき出し、またはわざわざ引かれており───そこに設置されている、蒸気機関を囲うように魔方陣を描く。
少々踏んでも消えないようにか、掘りは深く、そこに魔力伝達物質を流し込むように。
「ここと、あそこ。あとむこうもですね」
複雑な魔方陣を一回で間違えず書き込むことは難しい。
今回も何ヵ所か訂正ののち、やっと発動のワードが唱えられた。
効力は制音。
明らかに、いや劇的に蒸気機関とそのアタッチメントから発せられる音が静かになった。
それでも、異常はまず音からと知ってか知らずか、完全に消えることもなく、魔方陣の中に入ればいつも通りの騒音で。
これにはイルファ先輩も苦笑いするしかない。
「今後、大きな音がする作業は中でするように。いいですね?」
そう言ってエルフ先生がかぶっていたものものしい兜? を脱いだ。
どうやら聴力が優れている分、騒音対策にも、色々あるらしい。
「・・・これだ」
「これよね?」
「・・・なにがだ?」
「なんです?」
振り返りもせず準備室に戻るエルフ先生がわざとやったのか、素なのかはわからない。
だがそれは・・・。




