その日 部室のレベルが上がった
「さて。・・・武術系の部員に見張りでも頼むか?」
吊り下げ式を採用していて、大型の荷馬車が余裕で入る搬入口の扉が思いの外、静かに閉じられたあと。
冗談めかしてではあるが、ジョンがそんなことを言ってくる。
「うーん、どうだろな・・・」
結構な予算、というかほぼ手持ちのお金をつぎ込んで買った資材ではあるが、その実、いまはただの木材と金属塊だ。
わざわざ盗もうするやつはいないだろうし、積んできた荷馬車が去ったいま、そう簡単に移動できるものでもない。
「アレは一部だけ持って行っても意味ないし」
「売ろうとするなら確実に足がつくだろうね」
高価な物もあるにはあるが、持ち運べるように分解されてはいるが、やはり重いし、万が一盗まれたとしても、何より仕入れに苦労したフェリシア先輩がなにがなんでも、とりもどすだろう。
「問題は形になった後かもしれないね」
フラが知っている。
ゆえに世界のどこかでは作られ、使用され、なんだったら本にまでなっている飛行機であるが、この辺、この国では見かけない。
この国で飛ぶものと言えば鳥や虫と、後一つだけなのだ。
ゆえにこの飛行機は見た者のド肝を抜くのは間違いない。
間違いないが・・・。
真似され先に発表されれば台無しである。
「一応ワシタカは飛ばしてるわよ?」
「夏じゃき。カーテンで日差しを弱めるのは不自然じゃなかろ?」
技術実験室の上空を飛んでる猛禽類は「ぴーひょろろ」と上機嫌だし、イルファ先輩の言うとおり、開けられた窓から吹き込む風に、白いカーテンは風に翻っている。
「夜間もカーテンは締め切り。施錠はしっかりしよう。それに・・・」
「だな。ま、知らン人に見られたって、何する乗り物かわからないだろうしな」
一応、模型を見た技術系の部活には口止めはしてあるし、フラ抜きで心臓部が作れるとは思えない。
さらに言うなら。
「アレは・・・無理だろ。盗むのは?」
自分の発言は油断かもしれないが。
皆がコクリとうなずいたのも確かだ。
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世界最初の道具は石、だった。
いや、木の枝とか、ちょっと固い草の茎とかの可能性もあるけど、ここは石、としておこう。
最初パッキンパッキン割って鋭く尖った物を使ってた石器は、磨かれ研がれ、磨製となり。
それによって切り出された木材によって鉱物が溶かされるようになると、金属製品が作れるようになり。
つまりは、この手に握られるハンマーもそうした産物であるし、もっと複雑な道具もまたしかり。
これがこうなってとさかのぼれば、全て石に通じるのである。
あるが・・・。
正直、その存在は耳にしていたとしても、実際に目にするのとは大違いだ。
例えるなら、一歩一歩進んでいた時、急に違う場所にいたような。
それは山道でショートカット。曲がりくねった道をまっすぐ登ったようなモノだろうか?
「これが、蒸気機関・・・!」
運ばれてきたバラバラの部品に一通りの作業を加え、現れた正体を前にイルファ先輩が感極まったように呟いた。
うん。蒸気機関・・・! じゃないよね。
フェリシア先輩の調達した最新型、じゃなくてちょっと型落ちでもちゃんと動く蒸気機関は、バラバラになって、満足気なイルファ先輩達の足元に並べられている。
そう。バラバラのまま。正確にはきたときよりもさらに細かくなって。
「手作りこそ至高! 機械制作など邪道の極み !!」などと主張したわけではなく。
今回作成する物の参考になるのと。
・・・ただ単純に分解してみたかっただけ、らしい。
が。
「・・・戻せるんですよね? これ」
「・・・」
ここで無言になるのはやめていただきたい。
まあ、蒸気機関を構成していた部品はちゃんと規則正しく並べられており。
時折カンカンごんごんゴリゴリと。
古巣から持ち出した金鋸で切断した部分さえちゃんとつなげられれば問題ないハズ、だ。
「ん。ああ。大丈夫じゃ。もう一台あるしな」
ようやくこちらの質問が届いたようで、イルファ先輩が主要部品にうっとりと指を這わせながら答えた。
何が大丈夫なのか・・・。
もう一台って、もう一回ばらせるって意味じゃないですよね・・・?
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二台目は一台目のようにさらに分解されることもなく。
「んん~~? こりゃ何語じゃ?」
付属の説明書が手書き、そもそも読めない等々、少々不安なところはあったが、それでも二、三個の部品が余っただけで組み立ては終わった。
終わった。
「いや、ダメでしょう。余っちゃ」
「おかしいのう? これで動くはずなんじゃが」
・・・気を利かせて予備の部品を付けてくれるのはいいが、それならそうとわかるようにしておいて欲しい。
「さっそく使ってみるっスよ!」
アルも待ちきれないよう───むろん、自分も───なので、さっそく火を入れてみる。
そう。蒸気機関。ゆえにぐらぐらと沸き立った蒸気は必須である。
「・・・」「・・・」
最初、和気あいあいと話ながら進めていたボイラー焚きも、一時間を過ぎた頃には皆、無言となり。
ざっ、ばさ。ざっ、ばさ。
スコップで石炭をくべるたびに軋み出す両腕に腰。
徐々に上昇する熱量に興味津々と覗き込んでいたスラリスとその主人がジリジリと距離をおく。
「まだっスか?」
言い出した手前、逃げるわけにもいかず。
梅々コンビの差し出す謎の液体、どうやら塩分とエネルギー補給用の塩水と砂糖水(別々)を飲み干しながらアルが一定周期で叫び始めるが、沸かさなきゃいけない水の量が量だ。
「まだまだ、じゃな」
沸騰するには時間がさらにかかりそうだ。
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「これ、ここをこうして、こうなれば」
「自動投入か・・・。でもそれを動かす動力は?」
「そりゃあ。・・・蒸気機関じゃろ?」
「それだと、今みたいに、最初は使えない、わよね?」
「二台あります!」
「あーなるほど。止める周期をずらせばもう一台で・・・」
「いっそ、石炭じゃなくて油にしたらどうだ? タンクから流すだけで・・・」
「石炭、買っちゃってるからなー」
「砕いて細かくすれば同じように使えないでござるか?」
日の落ちた校舎内で。
唯一の光源であるボイラーから漏れでる明かりが皆の顔を照らし、影を踊らせる。
そう。
一旦火を入れたボイラーは止められない。
カチッ、と。スイッチを入れれば動くものではないのだ。
ゆえに。
これから何夜も。
こうして眠れない夜をすごすのだろう。
少しずつメンバーを入れ替えながら。
「それはいいんスけど、そろそろ誰か変わってくれないっスか?!」
アルよ。
がんばれ。
君が一番下っ端だ。
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グルグルグルグル。
ぐるぐるぐるぐる。
蒸気機関から伸びた棒、シャフトがまわる。
ぐるぐるグルグル。
グルグルぐるぐる。
「・・・これだけっスか?」
「ああ」「そうじゃよ」「で、ござるな」
蒸気機関は大型、大仰な機械ではあるが、出力は単純な回転運動だ。
むろんそのパワーは絶大で人の及ぶところではなく。
そこに様々なアタッチメントを付けて様々な仕事、ここでは加工をする。
するのだが。
・・・繰り返しになるが、見た目はただの回転する棒、である。
ばたーん!
アルが後ろ向きに倒れ、ガクッと首から力が抜ける。
「エド! おーい! エドはいるか?」
駆け寄ったジョンが叫ぶが、残念ながら神官様は帰ってしまっている。
というか、もう夜が明けているので、まだきていないが正しいが。
だが心配はいらない。
ただ寝てる、寝落ちしただけなのだから。




