その日 聞いてないよと誰もが叫んだ(心の中で)
「材料ぉぉぉお!」おおぅ!」おおぅ!」
旧校舎にイルファ先輩の雄叫びならぬ雌叫びが木霊し、エルフ先生が珍しく本から視線を上げ発生原をみやると、耳をぴくぴくさせた。
・・・うるさかったらしい。
「フェリシア! 材料はいつ届くんじゃ?」
「発注済みです。納期は休みの初日です」
つまりは三日後ということだ。
イルファ先輩が叫び、フェリシア先輩が両手を広げ、アンナ先輩があきれたように、というか、すっかりあきれて、答えを繰り返すのも、すっかりお馴染みの光景だ。
「イルファ先輩もあっちに参加したらどうです?」
月旅行部では、飛行機模型の生産がピーク。
いや、せっせせっせと売り物を作っているわけではないのだが、新しく入った生産系部員がまず一機づつ作り。それらのできがよかったので、元々のメンバーが奮起し。それに触発された生産部員が部品製造の効率化と量産体制を整えた結果。
「もうこれ売れるンじゃね?」と。
ジョンが指差すほどのパーツの在庫ができてしまっている。
「はー。曲げる部分は針金なのね。ちょっと思い付かなかったわ」
カーラが感心しているように、飛ばす物に重いものの代表格の金属を使う発想はなかなか出ないだろう。
しかし、それにより、火を使わず曲げ加工が可能となり、カシメ=金属によって挟み込んで固定、接着をする技術、模型飛行機の場合は鉄製の細い筒に、繋ぎたい部分の端を入れて潰すのを導入したせいで、接着剤の乾燥すら待たずに良くなった。
まあ、こちらは締めに専用の工具、テコの原理でギュッと挟んで締める、刃のついてないハサミのような道具がいるので誰しもが使える手段ではない。
もし売るのだとしたら接着に採用するのは膠だろう。文字通り、皮を似て取り出した成分は乾燥状態なら長持ちするし、ついでに押さえるのに、フラが提案した洗濯バサミとやらをおまけすれば完璧だ。
「もうやることがない」
金属加工倶楽部に所属していてもそれしかできないわけではなく。
木工により正解な縮尺で完成予想模型を、作り、バネばかりと計算を使ってカウズ先輩とプロペラの最適解を導き。
なつやすみに作るべきモノの作成計画まで立ててしまえば、なるほど、叫ぶ、もとい、材料の到着待ちぐらいしかやることがないだろう。
まあ、叫んでも何も解決しないのはイルファ先輩にもわかっているのだろうし。
毎日叫ぶのはストレス解消と、もしかしたら業者が早く───納期が前後するこの国では別段珍しくもない幸運が───訪れていないかの確認だろう。
ちなみに木工部はどこからともなく入力した木材を練習と称し削り始めているし、陶芸部は粘土をこねこね、鋳物制作会は金属を溶かす炉を作っている。
・・・爆破三兄弟がなぜか嬉々として手伝っているのがちょっと心配だが。
「はやくこんかなぁ! 材料ぉ!」おぉ!」おぉ!」
またしてもイルファ先輩のやる気があふれた。
すちゃっ!
エルフ先生が見たこともない、でっかい蹄鉄の形のような形の道具を取り出し、ほわほわの部分で両耳をはさむように、塞ぐように頭に装着した。
・・・よっぽどうるさかったらしい。
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果たして、三日後。
早くも、遅くもなく材料は届いた。
良かった。遅れなくて。
フェリシア先輩によると、一流の配達とはそういうものらしい。
遅れるのはともかく、早くつく分には良いと思うのは普通で、できる商人にしてみれば、早く着かれても、まだ保管場所が空いてなくて、余計に手間がかかったりするそうな。
「ここの品物はいついつまでに売り切って、空いた場所にこれを。こっちの品物は届く予定の物とペアで売れば儲かる。いかに空いたスペースを作らず、効率的に活用するかかんがるのも楽しいものさ。・・・まあ、これを従業員の作業予定に当てはめたりするとえらいことになるけどね。」
・・・なるほど。肝に銘じておこう。
「なんだなんだ?」
「えらい大荷物だな?」
「学園祭の屋台用、じゃないよな?」
「あれは毎年使いまわしだろ?」
休みに入り人が少なくなくなった学園内といえども、何台も大型の荷馬車が連なれば人だかりもできる。
「月旅行部らしいぞ!」
「「「なーんだ」」」
それで、「解散!」となるのはどうかと思うが。
・・・最近、うちの部ならなんでもありと思われてるのではなかろうか?
まあ、新規に立ち上げた部に入部希望者が殺到したのも、一声かけただけで武術系の部活を動かしたのも、技術系の部活から人員を引き抜いたのも事実なのだが。
旧校舎に隠された謎を解いたとか、住み着いていたバケモノを倒したとかは、ちょっと心当たりがない。
・・・ないったらない。
それはさておき。
「こちらの中まで御願いします」
物品の搬入は何回もやっているのだろう。
さすがにアンナ先輩は手慣れたものだ。
大量の木材と金属にその他もろもろを積んだ馬車は学園中の視線を集め、素人だと荷運び人の面倒臭さそうな態度に気圧され「ここでいいです」なんて言ってしまい、最終的に重労働=重い荷物を仮置き場から保管場所に運ぶ羽目になったりするのだが、そんなことはなく。
保管場所と決めた技術実験室の所定の場所に、素材ごとに仕分けまでしてきっちりと材料は積み上げられた。
・・・少し見上げるほどに。
「・・・多くね?」
ジョンが代表して口にした感想は、部員全員が思ったことに違いない。
置き場を決めた時、やたらとそれぞれの間隔が広かったな、と。
おぼえた違和感は、ここにきて確実になった。
「アンナ先輩、これは・・・?」
おそるおそる。
・・・いや、そっと聞こうが、普通に喋ろうが結果は変わらないのだが。
「二台、三機分です」
「二台・・・」
「三機・・・」
「その通りです」
言いきられたからには。
そうなのだろう。




