その日 大物がかかった
ことごとく、技術系の部活から参加を断られた翌日。
「Fiiiiish!」
そう叫んでガッツポーズを決めたいところだったが、人がまばらな旧校舎とはいえ、学園の廊下でいきなり「魚ぁ!」と大声を上げる人はどう思われるだろう? と思いやめておいた。
幸いなことにこの釣り自体が空想なので、かかった魚とのファイトによって他の釣り人のラインを巻き込む心配はない。
ゆえに叫ぶ=竿を上げて下さいと御願いする必要もない。
「スゲーな。本当に釣れたぜ」
部室前の人だかりを見て、ジョンがそんなことを言う。
「シッ! 釣れたとか言うんじゃない!」
まだまだ相手とは距離があるから聞こえないだろうが、エルフ先生の例もある。
・・・あの人、耳が大きい? とんがっている? せいで? ものすごく聴覚が優れているようで。
準備室=いつもの部屋に居ながらに、となりの広い実験室の端っこでした会話、どころか、たまにここ=総合技術実験室に続く廊下でした会話にすら聞こえているのか、顔を会わせた時に「それはですね・・・」とか普通に話しかけてくる。
最初は何がなんだか話が通じず、これこれこうと説明された後も伝説の存在、精霊でも操ってるのでは? としばらく疑われるほどの能力だ。
まあ、自分が持っていたとしても、あんまり使いどころはない能力だけど。
えーと。話がそれたが、何を言いたいかというと。
今は釣りで言えば、かかった魚を引き寄せ、タモ(釣れた魚を掬う用の柄のついた網)を入れたぐらいで。
完全に取り込まで油断は禁物。
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「わいは、敷島イルファ。金属加工倶楽部では副部長をしちょる。制作については、わいが取りまとめるけん、しばらくよろしゅう!」
そう言ってこちらの手をがっしりと握ってくる彼女。
そう、イルファは女生徒、らしい。
人族や、エルフは外見で男女が見分け易いが、ドワーフはわりと難しい。これはひげや胸の有無に男女差がないせいで、他種族限定。ドワーフ同士はちゃんとわかるし、人族に性別を間違われても、ガハハ! と笑い飛ばす度量もあるのでありがたい。
・・・ガハハ?
「ああ。よろしく」
「はい。御願いします」
順々に挨拶しているイルファが男装のフェリシア先輩や少女っぽいエドと握手するのを見ていると、性別ってなんだっけ? ともなるが。
まあ、よし。
金属加工倶楽部、木工部、鋳物制作会、そして陶芸部。不意打ち以外の何ものでもない実演、───釣り針つきの餌を垂らすとも言う───によって、それぞれの部に不平、不満があるような部員をこっちに引っ張ってくる計画は、思ったより大物がかかったようだ。
というか、こちらにきている部員は、ほぼ三年で、イルファ先輩の副部長ほどではないが、それなりにそれぞれの部でもやれていそうな人ばかりだ。
「ん? それか? 皆行きたい、やりたいばかりでのう。二年、一年は来年再来年があるじゃろうし、譲ってもろうた。快く」
・・・えーと、イルファ先輩? なぜ。快くの部分で力こぶを?
まあ、力ずく、・・・たぶん腕相撲とかでも、納得してもらえてるならいいけど。
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兼部不可の部活がなかったので、月旅行部の入部届けも書いてもらった。
ちなみに制作系の部活に入るような人、ドワーフは入学初日に部室の門を叩くらしく、今年の月旅行部の入学騒ぎは聞きかじったぐらいだそうだ。
「ほーん。これが引換券・・・」
イルファ先輩が一応渡した月の石引換券=入学証明書を裏返したり、透かしたりしていたが、特段技術的に見るものがない───適当な紙に『入部しました』と書かれて、こっちのサインが入っているだけ───とわかると、無造作にポケットに突っ込んだ。
たぶん失くすか、一緒に洗濯しちゃうっぽいけど、まあいい。
月旅行部としては入部届けの裏面の注意事項のひとつ『部活で知り得たことはむやみに広言しないこと』が守られれば。
「んで? わいらは何をすればいいんじゃ?」
キョロキョロと部屋を見回すイルファ先輩達だが、もちろんこの部屋に飛行機の材料はない。
あるのは・・・。
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「「「しっ、しっ、しゃべったぁ?!」」」
・・・物事が予想通りに進むのを見るのは楽しい。
新規メンバーを入れてよかった、と。今までの部員と噛みしめるのもまた楽しいが、それでは話が進まないので、フラに次の指示を出す。
前に、一騒ぎ。
「こここここ、こりゃあ、どうなっちょるんじゃ?」
・・・うん。適当にボタン、といっても普通に押せるボタンは二つ、電源ボタンと音量調節しかないんだが、それでも押されると困る。
「はい! 何か御用ですか!」
「うわわわわ! いきなりそんなデカイ声で!」
とかなるし。
「おーい! おい?! まさか・・・」
壊しちゃった? という目でこっちを見られても・・・。
「はいはい、お、おさわり厳禁? よ!」
やっぱり自身の発言で顔を赤らめたカーラがイルファからフラを取り戻し、電源ボタンを長押しした。
「・・・」
やっぱりそれ系の発言と同じぐらい、最初に描かれるホムンクルスの絵は苦手のようで、さっさと机に置いたが。
「まずはこれをみてくれ」
フラの小さな四角が並んだ画面が消え、ひとつの四角が表面全体に広がり、前に見た今までのメンバーはともかく、新規部員の頭がフラの上に集まる。
「これは?」と、聞かれても困る。
エルフ先生に作ってもらった、ドウガ? とやらは、何をどうすればこんなのができるか自分らにもわからないのだから。
最初は点。一つだけ現れた光る点が光跡を残し、部品を形づくっていく。
縮小。
本来の縮尺になったそれらが立体的に、自分達にはよくわからない、だけどなんらかの順番に従って配置されたそれらが、一斉に動いて部品を作り、作り、作り、それらが組み合わさって、さって、さって。
いつしかフラの表面には一台、一機の飛行機が現れていた。
助走。正確には滑走と呼ぶらしい、文字通り滑るような移動をへて、機体は空へ。
小さくなっていく地上。
一切遮るものがない青く白い進路。
視点が変わり地へ。
どんどん遠ざかり、小さくなる機体。
見えなくなった時点で、ドウガは終わり、フラの表面が元に戻り、やがて黒一色に染まる。
「「「・・・」」」
誰も口を開かない、いや何人かぽっかり開けっ放しなのは、最初に月旅行部員が見たときと一緒だ。
「これを、わいらが、作る・・・?」
まだ実感が湧かないのかイルファ先輩にいつもの豪快さは、ない。
だが、自分は知っている。
この後の胸の高鳴りを。
そして・・・。
「もう一回! もう一回、最初から!!」
「そこ! そこが見たんじゃ! ええい! 止まらんのか! この、この? 流れ? は!」
「いや待て! ここは通しでもう一回だろ!」
「いや、部品のとこじゃ! 重要なのは!」
・・・無限に繰り返されるんじゃ? と思えるほどの観賞会が始まることも。




