その日 魔改造は始まった
「こちらはそっち、それはこう。違う違う、それは向こうじゃ!」
広い総合技術実験室ではあるが、蒸気機関二台を設置し、作業スペースを確保した上に飛行機を三機並べるのは無理だった。
ゆえに形になっているのは二機で、一機はパーツこそできているものの、邪魔にならないところに積み上げられている状態だ。
「それで? 二号機の仕様を変更したいじゃと? 今から?」
一見、いつもどおりを装っているイルファ先輩だが、端々に隠しきれないトゲが出てしまっている。
飛行機の形はほぼできた。
「ちょっと乗ってみてもいいっスか?」
アルが操縦桿を動かすたび、いろんなところが動くので内部も完成に近づいているのだろう。
が。
肝心の心臓部の、とある部分がどうしても上手くいっておらず、まだ動いていないせいで、先輩がピリピリしてしまっている。
「・・・好きにせい。ちゅーか元々これらはあんたらのもんじゃき」
逡巡=すぐ決断できなかったのは、突然の仕様変更に不安を感じたせいだろうか? 天を仰いだあと、頭をふりふり出した結論は、様々な結果を考え抜いた、というよりかは、めんどくさくなって投げ出したようだった。
「でもな。これだけは言っとくぞ? 魔法が使えんと飛べんような改造はするな! いいな、絶対じゃぞ? わかったな?」
そう言ってくれるのはこちらが心底心配なのか、命がけの乗り物を作る作り手の矜持からか。
とりあえず許可は出たので、そういうことになった。
<□[≡ <□[≡ <□[≡
「あの口ぶりだと、魔法による材質強化で軽量化、は。却下だな」
早々にジョンがA案を破棄した。
言われて見れば、強化が切れた瞬間、機体がバラバラになるなんて危なすぎる。
・・・このところ、泊まり込みが続いているが、深夜のテンションって怖い。
「で、ござるな」
A案の作成、物質強化紋によって担保された分、機体をどう削るのにはカウズ先輩にも多大な力添え頂いたのだが、その割には、あっさりしたものだ。
まあ、計算好きの先輩なので、それさえできていれば文句はないらしい。
「なら採用はB案ね」
「だな。まあ、こっちは完成品に重量軽減紋を刻むだけだし。・・・何でこっちが二の次なんだっけ?」
それはお前が「簡単すぎね?」って言ったからだよ、とは誰も突っ込まず、ジョンに生暖かい視線が注がれる。
「強化紋は刻むだけなら問題無さそうでござるな」
「そうですね。わたしには、よくわかりませんけど、干渉? っていうのが起こらないなら丈夫に越したことはありませんし」
カーラも先輩には口調を改める。
「そうなると。パーツの接続部に魔術阻害材を挟む必要があるンだけど、な」
「頼むのはあんたよ」
ジョンにはいつもどおりだが。
ここ数日、イルファ先輩達が妙に静かだ。
それは飛行機が形になった=完成に近づき作業量が減ったのも、もちろん理由の一つではあるが。
もっと別の理由も、ある。
<□[≡ <□[≡ <□[≡
「・・・」
分解した飛行機の心臓部、エンジンを目の前に、イルファはじっ、と。手の中を見つめる。
蒸気機関を分解したことにより、フラに説明されただけよりも、仕組みはわかっているつもりだ。
要は。
蒸気機関が蒸気の圧力でやっているピストンの下げを、燃料の爆発によって起こすのがエンジンだ。
仕組みは理解しているし、作り方もわかる。材料はそろっているし、他の部に協力を頼めば、技術的な問題も解決した。それこそ人力で動かせば、その動きはスムーズで、どこにも問題なぞない。
はずだった。
原因はわかっている。
プラグ。
ピストンの上部スペースで燃料に点火する部品が、どうしても上手く働かない。
完成品を分解、というか、真っ二つに割っても、フラの描く図と差異は見られない。
バッテリーとやらは錬金術部のお墨付きだし、実際に他のもの、電球なんかは普通に灯る。
同じように試せばエンジン内の配線? 電気の通り道も問題ないのだから、やっぱり原因はプラグ、なのだろう。
一部が陶器なので陶芸部と共同制作なのだが、向こうを疑うのは良くない。
・・・こっそり自分たちだけで作った物も上手くいかなかったし、むろんむこうも同じことをしているはずだが、「それ見たことか!」とも言われていない。
・・・そう言われたら悔しいはずだが、もうそれでもいい、とさえ思っているのに。
「フラ、こりゃあ、上手くできとるんかいの?」
「これ が。何をさしている か わかりません」
「・・・」
そうなのだ。全知の小人は動かない時に、どこを注意すればいいかは教えてくれるが、実物の評価はしてくれない。
こうなれば、残りの材料で作れるだけ・・・、いや。
下手な弓矢も数撃てば当たる、というが、元々的とは別の向きに射っていれば当たる可能性は、無い。
原因わかったのち、作る材料がないのはダメだろう。
一人で考えるよりは、と。
ここに集った仲間にも相談、というか各々考えてもらったが、フラに質問を繰り返してさえ、仕組みを理解できるのはほんの一握りで。
その一握りは、「問題なさそう」とそろって首をかしげるときたら。
「・・・」
燃料にも問題は無い。
火をつけるのにも用心、長い棒の先に火種をセットしないと火傷するほど燃えやすい液体はあの三兄弟をして、“取扱注意” と専用の容器をこちらに頼んでくるほど。
実際にはもっと燃えにくい燃料でも動くらしい、とくれば、疑うのも失礼だ。
八方塞がり。
幸いにしてこちらの部長は頻繁に口をはさむタイプではないし、いままでの作業内容から信頼は得られているようだ。
が。
それでも、予定に間にあわねばすべては台無しだろう。
エンジンはむこうにも一台渡しているが、まったく同じ材料で作った同形機だ。
たまたまプラグが働けば動くかもしれないが、そんな奇跡はこちらでも数回しか起こっていなく、しかも長くは続かない。
「悪いことしたのう」
あんな言い方をするんじゃなかった。
そもそも、ここには自身の技術を魔法と融合させるために入ったのに。
墜落、空から落ちることをそう言うらしいが、それを恐れるあまり、魔法をぜんぜん使わないのも極端だ。
まわりから魔力を供給する魔法は相変わらず不安定だが、個人=自身の内包する魔力を使う分には、そうでもないのに。
「ドワーフは鉄だけ打ってりゃいいんだよ! 俺らの言うとおりにな!」
最近は減った、というか、こちらがハンマーを持ってれば言ってくるヤツはそういないが、口に出さずとも、顔に出るのはいる。
その度、「自分はできないくせに偉そうに」と反論はするが、こちらも口には、だ。
そんなことは普段は深く沈め浮かぶことすらないが、トラブルが続くと、ちょっと顔をのぞかせる。
「いかんな・・・」
謝ったからといって、明日すべて上手くいくわけではないが、そうしない理由もない。
明日になったら、いや、もう今日だが。
謝ろう。そして・・・。
<□[≡ <□[≡ <□[≡
「おーう。おはんら、昨日は悪かったのう。言い訳にもならんが、ちょくちイライラしとって・・・。って、うごいちょるぅぅぅぅ?!」
部室に入ってくるなり、こちらにペコリと頭を下げたイルファ先輩が、“驚愕” とタイトルをつけたくなるような表情でこちらに駆け寄ってくる。
「どどどどど、どうやったんじゃーっ?!」
それはですね・・・。




