その日、女子部員が入った 1
「はい! よろこん・・・」
どすっ!
勢いよく立ち上がったバカが変なことを口走きるまえに脇腹に一撃を入れる。見た目より鍛えているのか、予想より厚い筋肉がこちらの拳を押し返すが、効果あり。脇腹を抑えて黙らせられれば、目的は達せれた。
いきなり炸裂した爆弾だが、そういう意味ではないはずだ。
・・・ないはずだよな?
爆弾を放ってきた相手といえば、胸元に両のこぶしを握りしめ、ふんす! と、ばかにりに荒い鼻息を吐いている。
・・・まさか? この生徒があふれている前庭で? ほんとうに?
と。アブノーマルな可能性を考え始めようとした当たりで───
「あうっ!」
───ようやく、向こうにもツッコミが入った。
「すいませんこの子脳ミソと口が直結してるんです言葉も足りないんですそういう意味じゃないんです!」
ここまで一息。
手慣れた? 口慣れた様子だ。
早口かつ途切れなく放たれた言葉をこちらが噛み砕く間に、頭に落とされた拳骨はパーに代わり、がっし! と後頭部掴まれた頭が腕力によって長机に叩きつけ、られようとする寸前まで下げられた。
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「すいません。さっきの発言は忘れて下さい・・・」
いきなり爆弾を放ったのとは同じ口とは信じられないほどか細い声が、さっき騒ぎをなかったことにした。
・・・まだ、ざわり、ざわり、と遠巻きにしてこちらをちらちらと見ている生徒も多いが。
脳ミソと口が直結してるという話だったが、耳と脳はいくつかなにかを経由しているらしい。
自己の発言をようやく認識したらしく、顔はもちろん首筋まで真っ赤で。たぶん耳の先まで赤いのだろうが、よく見えないのはフードをかぶっているから。
魔法工学科に作業服があるように、違う科にはそれぞれ制服とは別のその科を象徴する服がある。
フードつきの上着、ローブを腰で切ったような服は───
「私は従魔魔法科一年、沢音リーナ。こっちがパートナーのスラリス、です」
───やっぱり従魔科だったか。
お腹部分に付けられた大型のポケット、使用目的からすると防水加工されてるであろうそこから、ぶよぷよとした透明なゲル状の生物が顔を出した。スライムだ、一つ目のようにも見える核がどこかかわいらしい。
「同じく、一年。瀬渡カーラ。パートナーはワシタカ」
鷲と鷹の違いは体のサイズなのだが、名前に相応しく?、ちょうど中間サイズの猛禽類が瀬渡と名乗った女生徒の肩に舞い降りた。
もちろんこちらのフード付きの上着は革製で万が一着地に失敗しても、鋭い爪で怪我をしたりするのを防いでいる。肘から手首、はめた手袋にいくつ傷がついているのは、普段はそこにとまるからだろう。
魔法工学が新しい科目であるのと同じように従魔もそうだ。いや、魔法使いが魔物や動物を使い魔として従えるのは昔からだが、意味合いが変わった。主に魔力の部分で。
「俺は栄本ジョン! 副部長をやってる。そしてこっちが神田ピキリオン! 部長にして、七年以内に月に行く男だ!」
オイ、コラ待て。
いつの間にお前は副部長になった? 再度ツッコミたいが、先ほどまで、なんならまだ二人しかいない部活、同好会───正確にはそれ未満───だ。
部内の実権を渡せない以上、長は自分が抑えておきたいし、なら、他のポストはと考えると、おかしくない人事だ。
・・・まあ、早い者勝ちとも言うが。
「ご紹介預かりました神田ピキリオンです。ではこちらに記入を」
勧誘セットを借りたときに渡された入部届けを女生徒二人の前に置く。
なんかこう。色々と足りない気もするが、記入さえしてもらえれば勝ちだ。
なんに勝つかはわからないが。
「ちょっ、ちょっ、ちょ! ちょっと待って! あなたも素直に書き始めてるんじゃないわよ!」
瀬渡カーラが、なんの疑いもなくスラスラとペンを走らせ始めた沢音リーナの手首を抑えて書くのを止める。
なんかこう。いっつもこんな感じなんだろうな、と思える安定感が漂ってきて、ほほえましくさえある。
「二人は付き合い長いの?」
ジョンもそうだったようだ。目を細めてそんなことを聞いている。
「この学校に入ってからの付き合いよ!」
おや? そうなのか?
「もしかして、カーラって妹か弟がいる?」
「どっちも二人づつ! 私が長女よ。あと、しれっと名前呼びやめてちょうだい!」
なら、納得だ。
それにしても、ジョンはさりげなく話題を提供するのが上手だ。
もしかしなくても、人付き合いが得意なタイプなのかも。
「カーラちゃん、放して下さい。ここはなんとしてでも、たとえこの二人をだまくらかしてでも子作りする必要があるんです!」
「やっぱり、よろこん・・・」
前言撤回。またパイプ椅子を後ろに倒す勢いで立ち上がったジョンの脇腹に一撃。
・・・なんかこう。そろそろバカの肋骨が心配になってくる。
「子作り、子作りって! 外でいうことじゃないでしょ!」
「だってぇ」
今回もごつん! と拳骨が落ちた頭も・・・。




