その日、方針を決めた
「仲間を集めて欲しい。できるだけたくさん。足さえ引っ張らなければ、いや引っ張っても、腹に何か抱えてても、協力してくれるならいい」
いまがチャンスだ。
目の前で笑っている栄本ジョン、というよりも、まだ静かな教室全体に届くように声をあげる。
「わかった!」
ダメか・・・。我もわれも、と。までは行かなくとも一人二人は声をかけてくるのでは? なんて期待は露と消え、返ってきたのは栄本ジョン、もうめんどくさいのでジョンの元気のいい返事だけだ。
「任せとけ! あー」
まだこちらの顔と名前が一致していないのか、ジョンの視線と手が宙をさ迷う。
「神田ピキリオン」
握手かなーと思ったらそうだった。
こちらが控えめに差し出した手ががっちりと握られた。
「そうそう、神田、ぴ?」
視線はまだだが。
どうやら、自分の名前はあまり一般的ではないらしく、あまり一回で覚えてもらえない。
「ピキリオン、・・・リオンでいいよ」
ほっとくとピキリ、いっつも怒っているような人にされるし。
「おう! なら俺はジョンでいいぜ!」
うん。もう心の中ではそう呼んでた。
「よーし! やるぞ~! なっ!」
バンバンとこちらの背中を叩いて去っていく尻の上に、ブンブンと振られるしっぽの幻が見える。
・・・とにもかくにも。
これで、月への旅の参加人数は増え二人。
なんと初日から二倍にふえたのである・・・。
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「数百年前から活性、非活性を繰り返してきた世界の魔力の周期は、三世紀前より非活性側に天秤が傾き、人類は魔法以外の力を考え、取り入れるより他に道はなくなりました。当初、細々と研究、実用化されてきた、
科学、と名付けられた新分野の成果は、輪津都ジェームスによって実用化された蒸気機関によって一気に・・・」
時代の最先端を走る魔法工学科の授業と言えど、最初は復習からだ。
語学、数学、歴史、魔法理論と。中等学校で習ったことの繰り返しをただひたすら聞かされる無駄な時間から解放されると、やっと自分の時間が始まる。
「よっす!」
からの~スパーン!
ジョンが乗せようとしてくる尻から自分の机を平手の一撃で防衛する。
「なんだよ。いいじゃないかよ。それぐらい。俺らの仲だろ?」
尻をさすりながら、それでもジョンが前の席の椅子をまたいで座り、背もたれの上で組んだ腕に顎を乗せた。
「机は使うんだよ」
そう言って自分はノートを広げた。
書かれているのは板書の写し、ではなく、授業中に書いたこれからの計画だ。
「まずは、同好会、もしくは部活を?」
「ああ」
人集めは上手くいっていなかった。
自分もジョンも何人か誘ってみたのだが、ほとんどの相手には、胡散臭いモノをみる目で見られ首を横に振られるだけだった。
何か、が圧倒的に不足している。
それは───。
「まずは真剣さを伝える、保証する、・・・ええと」
「バックボール」
「バックボーン、精神的支柱、というかある程度の保証? 真面目さの証明? が必要だと思う」
やっぱり一人よりも二人、二人よりもたくさん、だ。こうやって助けて? もらえるし。
「その後は情報集め、検証、検討、設計、検証、作成、検証、・・・か」
「ああ。できれば情報を集めたあとは、それぞれ担当を決めて別々に同時進行したい」
「最初に情報を集めるのは、すべての基本だから?」
「ああ。月までの距離、正確な移動速度、環境、その他諸々。それがわかんないと、何をどれだけ準備すればいいかわからない」
もちろん、自分で調べられることは一通り調べたつもりだ。だが、悲しいかな、地方には、すぐ使える、役にたつ、つまりは結果をすぐ出すのに必要な情報しかなかった。
本当は、こんな話をしている時間も惜しい。今すぐにでも、地方なんかとは比べものにならない蔵書数を誇る図書館に行って知識を仕入れたい。旅に耐えうる心身を作るためにさらに色々鍛えたい。移動手段を作るための資金を稼ぎたい。金属加工を、星を渡る手段を考え、何がいる? 何をすればいい? 自分は、じぶんは、jibunは、ハ 八 ノ\。
「おーい。戻ってこーい」
ずびしっ! と手刀が落ちてきた。
わかっている。一人で全部は無理だ。
だからこその・・・。
「姫様が入ってくれれば全部解決なんだけどな」
「ああ。でも、無理だろ?」
ジョンの意見は完全無欠に正しい。王女様がこちらについてくれれば、ほとんどの───技術的なブレイクスルーを除く───問題は、その御威光によって吹っ飛ばされるだろう。
だが、王女殿下は、学習だけに集中できないらしく、休みが多い。登校されても警備の都合で人のいない時間を見計らっているのか、わざと遅刻してきたりしているし、一日の授業が終わればすぐ帰る。
それなら休み時間、とお近づきになりたい人間が意気込んでみても、短い休み時間は護衛とお付きの人による鉄壁ガード。昼休みは教室から移動し、どこにいるかもわからない。たぶん王族専用の待機ルームが学園のどこかに存在するという噂は本当だろう。
要するに。
接触できないのだ。
たとえ、席がとなりでも。
「ここは地道にいくしかないな」
「ああ」
そういうことになった。
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初年度の放課後の学舎から校門までの道は草刈り場だ。
ここぞとばかりに新入生を確保しようと、様々な同好会、部活の先輩が手ぐすね引き引き、べったべたの手をして、哀れな獲物を品定めしている。
「君ら魔法研究会に入って、魔法使いにならないかね?」
「情勢をかんがみるなら、剣術部だろう? やっぱり最後はここだ!」
「いやいや、本当の最後は肉体的強度! ボティをビルドするなら筋トレ部に!」
「いえ、自分ら、こっち側なんで」
なんかこう。
一点に集中するとまわりが見えなくなるようだ。
一年生が? と驚く事務員から借りてきた長机とパイプ椅子をもっているのにもかかわらず、誘ってきた先輩方をいなし、どうにか確保したスペースに設置する。こちらに二脚、向かいに二脚。椅子にジョンと座って一息いれる間も無く、極太の油性マジックとは名ばかりの、ビンに入れられたインクを先端に付けられたフエルトで吸い上げるだけの筆記用具で、広げた勧誘用の、のぼりに───
───張り切って、さあ書こうとしたジョン手が止まる。
「なんて書けばいいンだ?」
「・・・今後六年間で月に行くことを目的とした活動をする団体」
「なげーよ、つか、どっかの小説投稿拠点じゃねーンだから、何でもかんでも全部入れればいいっちゅーもンじゃ」
「月部」
「今度は、みじけー」
目的は月に行って帰ってくることだが、いざそれを簡単に表現するとなると難しい。
「月旅行部、同好会ではどうでしょうか?」
「月」「旅行」
「いいかもな」「ああ」
と、そこで自分とジョンは顔を見合わせた。誰かいる、自分たち以外に。
誰?! とばかりに顔を上げた視線の先には。
小柄な女子生徒が立っていた。
そして。
「入部希望者?」
「はい。子作りに協力して欲しいのです」
爆弾持ちだった。




