その日、初めての仲間ができた
爆笑冷めやらぬ教室がその人が立ち上がった瞬間にビシリ! と引き締まり、清冽さすら感じられる空気のなか、鈴が転がった。
もとい、そう思ってもおかしくないほどの美声が響いた。
「ティアーナです。~~~」
正直に感想を言ってしまえば、王女の自己紹介に内容は無いよう、もとい、なかった。
おそらく、特定の勢力や、個人に肩入れしないよう、当たり障りの無い話をされたのだろう。
それでも、名前だけの名乗り───この国では王族に名字は無いの───は頭で分かっていても、実際に聞くのとでは大違いだったし、何よりも、その発せられた声、教室は静まり返っていたが、たとえざわついていたであろうとも間違いなく全員の耳に届いたであろう美声? 発音方法? は見事としか言いようがなく、自己紹介後、教科書等が配られ、解散となり、王女殿下一行が一番先に帰られた後の話題を一色に染めあげてしまっていた。
「御声を聞いちゃったよ!」
「なー」
「もしかして入学式、音声拡大してなかった、とか?」
「あー!」「それな!」
学園長が話し出す前、軽く口元に現れた、おそらく音を操る魔法の陣に、「おおっ?!」と思ったものだが、上には上がいるようだ。
大勢の人に声を届ける、のが上に立つ人間の資質というなら、学園長<王女なのだろう。
「よっす!」
そんなことを考えつつ、もらった教科書に問題がないか確認していると、そんな声と共に、ドッカ! と自分の机に尻が乗った。
女子ではなく、男の尻が。
二つか三つ前の席の、ええと。
「栄本ジョンだ! よろしく!」
こちらも大勢に届きそうだが、王女殿下とは違う。ただ声がでかいだけだ。
「ンで? どこまで本気なの? 月に行くってヤツ!」
にこやかに放たれた言葉には、悪気なく、自然と、そんなことできっこ無いよな? との思いが多めに含まれていたが、いつものこだ。
少し、ほんのちょっとだけ、教室のざわめきが収まり幾人かが、耳をそばだてる気配がするのも。
「どこまでと聞かれても」
かちり、と。聞いてきたヤツに目を合わせる。
「卒業までには。六年目の頭には組み立てに入って、七年目、最終学年の春休みか、夏休みには旅立ちたい」
学園生でいられるのは最長七年。まずは、ひたすら知識を詰め込み終わった三年の終わりにテストがあり、それを突破すればさらに専門的に学ぶ二年を追加でき、その後もう一回、最難関のテストをクリアすれば晴れて自分の好きな研究ができる二年が与えられる。もちろん、自己都合で三年、五年で止めてもいいし、その場合テストで一定の成績を取れていれば、年数に見合った卒業資格が与えられる。
ざわめき、ささやき、沈黙。
「まぢ?」
「ああ」
沈黙、ささやき、ざわめき。
「できっこ無いだろ」
「なにいってんだ、アイツ?」
「現実が見えてないんですよ」
色々と否定的な声が聞こえてくるが、いまさらだ。
どれとして目新しい発言はなく、いままで言われてきたことの繰り返し。
「どうやって? 大型の大砲から打ち出す弾にでも乗るのか? 命がけ、つーか・・・」
おっ?
能天気に見えて実は繊細な性格なのか、徹底的な言葉の前に話すのをやめたところには好感が持てる。
「命ならかかっている。自分のじゃないが」
「?」
「妹が」
机の上の尻の持ち主の無言のなぜ? に答える。こちらも、なんども、何度も、万度も繰り返して説明だ。
「妹が重度の魔力過敏症なんだ。持ってあと十年って言われてる」
ひゅっ、と。
息を飲む音が聞こえた。
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魔力過敏症は文字通り魔力に過敏に反応し、様々な症状が出てしまう病気だ。
世界全てに宿っている、それこそ人体からも生じる魔力に過敏に反応して、本来ならプラスに働くはずの力が体を蝕む。
軽いものならプラマイゼロ、魔法が使えない、健常者なら自然にできてる身体強化が働かず疲れやすい、などの軽い症状ですむが、重度だと年々生成量が大きくなっていく体内魔力に負けて体力が奪われ、徐々に体力が衰え、最悪・・・。
小さい頃は活発だった妹は、最初に魔法が使えなくなり、咳が出始め、走り回れなくなり、八歳のいまではベッドで横になっているのが多くなった。
「大丈夫だよ! 御本も読めるし。ごほんごほん!」
冗談目かしているが、自分は知っている。
その咳が本物であることを。
魔法薬で症状を抑えていたが、それも薬草が手に入れば、だ。年々見つけるのが難しくなっていく魔力を含んだ植物を使った薬の代金は、あっという間に我が家の財政を圧迫し、父を働きすぎへと、母を看病疲れへと、そして自分をその両方へと追い込んでいる。
「でも、あれって治るンじゃなかったか?」
そんなつもりじゃなかった。どこか慌てたような知識の披露は、正しいが、時代遅れだった。
「昔は、な。まだ大きいダンジョンがあった頃は大型魔石を複数使った、儀式魔法で治療ができたたんだけど・・・」
ゴクリ、と。
今度は唾を飲む音が聞こえた。
「もうダメなのか?」
「ああ」
ダンジョンコアとも呼ばれていた大型魔石が産出する高深度ダンジョンが発生しなくなって久しい。
今あるダンジョンはせいぜい十階層で、クリアは容易いが、ドロップアイテムもそれなり。
ダンジョンコアは、まだ大型魔石と呼ばれているが、それは全体的にサイズダウンしたせいで昔と比較すれば小さく、過去の基準を当てはめれば、せいぜい中型だろう。
それすら規則で全部国に買い上げられており、お目にかかれないのだから、宝物庫の奥の奥のそのまた奥に秘蔵されている真の大型魔石を、さらに複数使って儀式なんてのは・・・。
「だから月か」
「ああ」
それこそ太古の昔から月光には、魔力が宿る、とされており、実際に月明かりの中、使用する魔法は威力が上がる。
月が超巨大な魔石、という説は疑わしくとも、この星に届くほどの魔力放出量の魔石がある、というのは誰も疑わない話だ。
「俺は月に行く。そして戻る。絶対に、だ」
いつの間にか、教室の中は沈黙で満たされていて自分の声だけが響いていた。
そして。
机の上の尻は床、正確には持ち主の片方のかかとの上に移動していた。
「すまない」
片膝をつき、身を屈めるのは騎士を始め貴族の正式な礼。
「茶化していいような話じゃなかった。この通り、お詫び申し上げる」
びっくりした。ほとんどの場合、自分の話を聞いた相手は目を泳がせ、気まずそうに一言、二言謝って去っていく。目をそらさず最後まで聞いて、その上ちゃんと謝られたのは初めてだ。
はっ!
相手が礼を尽くしている以上こちらもそれ相応にしなければいけない。
「謝罪を受け入れます。・・・気にしなくていいよ」
立ち上がり、こちらも軽く頭を下げ、後半はあえて砕けた調子で。
「ンで? 俺にできることはないか? 何でもするぜ?」
泣いたからすがもう笑った、ではないが変わり身が早い。あまり引きずらないタイプ性格なのだろう。
それはそれとして。
言ったな?
この作者はとにかく適当にルビをふったり、しれっと造語を混ぜたりします。
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