その日 会議は
いつの間にか散った桜は葉が茂り、木漏れ日の明るさがくっきりと。
なにがなんだかわからないうちに過ぎ去った一学期の中間テストから数ヵ月。
少々部活の停止期間を経て、期末テストようやく終わった。
たくさんの生徒が集まれば、一人ぐらいは成績はちょっと、と。なりそうなものではあるが、こと月旅行部においてはそんなことはなかった。
・・・何しろ、あのリーナが、学年トップから順に五十名、名前が張り出された中に入っているのだ。
「・・・同姓同名?」
「失礼よ! ・・・ワタシも最初、そう思ったけど」
などとジョンとカーラが掲示板の前で会話したとかなんとか。
とにもかくにも、色々あった一学期はそろそろ終わり。夏休みを待つばかりだ。
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「では。今日の活動は会議です」
昨日までおのおの飛行機の模型に手を加えてたり、気球に再挑戦していたのだが、そろそろ次に取りかからねばならない。
・・・実のところ、やや手遅れと自認する議題もあるが、まだ取り返しはつく、と信じたい。
ちなみに今日の参加者は生徒も先生もフルメンバーだ。・・・むろん先生は一人しかおらず、長机をくっつけて大きな一卓にしても、やはり離れて読書いているが。
「議題は、技術的問題とアレの件で」
とりあえずくっつけた長机の狭い方に座った自分が議長を務める。
発言しづらいし、ちょうど足元に机の足はくるしで、本当は他の人に頼みたいのだが部長という立場上仕方ない。
「技術的問題って言うけど、実際は俺らの手先の器用さの問題、だろ?」
すぐ横に座ったジョンが、自分の言いたいことを代弁してくれた。
「・・・」「・・・」「・・・」
思い当たる節───気球が飛ばなかったり、模型の飛行機の作成にすら四苦八苦した記憶───がありすぎて沈黙する部員。
初歩の初歩の工作すらおぼつかないのだから、このままでは学園祭に有人飛行できる飛行機を、なんてのが間に合わないのは目に見えている。
「外注。他の部に助けてもらうしかないわね・・・」
あと数ヵ月で、部員の工作能力が劇的に上がる可能性は、まずない。彫刻刀で加工する木工ですら苦労する事実に加え、金属加工、それも最高レベルの精度が必要なのだ。
ここはジョンの対面に座るカーラの言う通り、それを持ち合わせている人に頼むしかなさそうだ。
「そこで次の議題、なんだが・・・」
会議室に変わったいつもの部屋に、はぁぁというため息にも似た空気が満ち満ちる。
気分や体格は大人に近くとも、経済的にはまだまだ親に養われている歳なわけで。
お金の問題にはどう手をつければ・・・。
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「いつもどおり、幽霊部員によみがえってもらうンじゃダメなのか?」
ジョンの提案に、「それだ!」と表情を明るくする部員もいるが、そう簡単な話ではない。
「設計図と作り方は提供するが、材料と加工を頼むのかい? 結果、どうなるかは目に見えるよね?」
フェリシア先輩の席は自分の正面。彼女の言う通り、アイデアやアドバイスなど、目に見えないものは実感し難い。
しかも、作ってもらう物が物だ。
あまり考えたくはないが、「最初っから俺らが考えた」とか、「アイデア料は払ってやるよ」とか。そうなっても、ちっともおかしくない。
それを防ぐには、きちんと材料費も加工料も払い、きちんと契約しておくべきだろう。
・・・べきなのだが。
「例の資金はいつでも渡せます」
反射光なのか、そういう仕組みがあるのか。メガネを光らせたアランが、スッとこちらに動かせる金額を書いたメモを滑らせた。
出版事業研究会、実のところは、いかがわしい絵を制作している団体は、結構稼いでいるのか、竹上カッッエの手腕が優れているのか。
・・・搾取はないと信じたい。
「こちらも、投資はできます」
ねぇ、それ。はやってるの? と。思わず聞きそうになるぐらいこれまたメガネを光らせたアンナ先輩もまた、メモを滑らせてくる。
もちろん、お金を出すのはフェリシア先輩なわけで。
腕組み足組しながら椅子に浅く腰かけた様子は、そのまま、余裕なのか、はったりなのか。
両者の金額を合わせれば余裕、片方だけでもギリギリな金額が手元にそろった。
が。
正直、飛び付くのは怖いお金だ。
「あー。もちろんダダ、ではないですよね?」
時計まわりに回るメモの金額を見た部員から歓声や、逆に息を飲む音が聞こえるが、もらって終わりなわけもなく。
ここは確認が必要な場面だ。
「そうだね。詳しくは書面となるかな?」
フェリシア先輩が浮かべる笑顔はいつもと変わらないのに、もたらされる影響は真逆。
怖い。ひたすらに。
・・・顕微鏡、まではいかずとも大きめの虫眼鏡は必要か。
どこまで細かい字に気づけるか。そこが後々のトラブルになるかの分かれ目かもしれない。
「もちろんダダですとも! ・・・あなたはただ、忘れないでいてくれればいいのです! 誰がお金を出したのか、を!」
こちらもこちらで笑顔満面だが、やはりつられて笑いたくはならない。
ペットは飼い主に似るというが、主従もそうなるのだろうか?
突然始まった小芝居、アランによる竹上カッッエの物真似に、思わず深く考えたくなくなったが、そうもいかないだろう。
「うわー。胡散臭い」
「絶対あとからナニか頼まれるヤツです!」
「書面にしない口約束でって。一番やっちゃいけないって、この前新聞の記事に載ってました」
カーラ達の言う通り。
・・・裏事情としては口止め料なのに、これ程受け取りづらいお金があるだろうか?
いや、口止め料って時点で受け取ってはダメっぽいが。
「とはいえ、他に金作する方法も、な」
ジョンが椅子の前足を浮かし、ゆらゆらと考えるが、良い案は出てこないようだ。
「学園祭の」「屋台で!」
「それまでにいるのでござるよ」
「部員にカンパを募る、とかどうっスかね?」
「見返りもなしにか? 俺ならやめるぞ。そんな部は」
「神殿のバザーはいかがですか?」
「あれは金儲けが目的じゃなくて寄付でしょ」
そこそこの案は出るが、これ! という決定につながるようなものではない。
実際にモノが完成すれば売る、という手段が使えるが、今は絵に描いたパン。
どれ程焼きたてホカホカで見たことがない美味しそうな代物でも、欲しがる人は、パン屋さんか、パン好きか、絵画好きか、作者のファンか、たまたま見かけて欲しくなった人ぐらい・・・結構いるな。
絵、エ、え。
絵に描いたモノがお金になるなら・・・。
「先生。フラに聞いたことをお金にするのはまずいですかね?」
「禁書庫の存在がおおやけにならなければ問題ありません。むろん、紹介という形で出された参考文献には作者の権利が発生しますが」
想定内のしつもんだからか、本? から目も上げずエルフ先生が答えた。
いいのか。
それなら・・・。
かくかくしかじか。
自分の意見にフェリシア先輩の片眉が上がった。
「よし! まずはそれでやってみっか!」
後ろに倒れるのを免れたジョンがパン! と膝を打った。
見舞わすが、異論はないようで。
そういうことになった。




