その日 紙と木は 3
「行くぜ!」
ジョンの掛け声は勇ましいが、実際にすることは押さえていたプロペラ? とやらから指を離し、機体をそっと押し出すだけ。
そして押し出された機体は・・・。
「あれっ?! なんでっスか?!」
アルの疑問を伴奏にして。
見事に? 飛んだ。
後方へと。
「あぶねっ!」
自身に向かって戻ってきた機体をジョンがかわすと、そのままの勢いで高さを失い地面へと落ちてなおずりずりと後方へと進み壁にぶつかってようやく止まり。
「「「・・・」」」
皆が絶句する、一番最初の挑戦となったのだった。
「なるほど。プロペラのひねりが逆になると、こうなるのでござるな。ならば・・・」
実験室の壁際で機体を拾い上げたカウズ先輩が、ぶつぶつと言っている。
なにやら改善の余地があるようだが、それは他のチーム挑戦の後にしてもらおう。
「い、いきますっ!」
最初の挑戦があまりよくなかったせいで、次のチームの代表の表情が固い。
本来はあまり、というか、ほとんど危険のないチャレンジになのに、ロゼの腰は完全に引けてしまっている。
「代わろうか?」
みかねたカーラが声をかけた、が。
「い、いえ。こんな簡単な作業でお姉さまの手をわずらわせるわけに、はっ!」
「「「おおっ?!」」」
疑問混じりの完成が上がったのは、まるで危険物のように投げられた機体が。
そのままだと地面を直撃するはずだった機体が、浮き上がったから。
その軌道から、明らかに自らの力で飛んでいるのがわかったからだ。
「飛んでいる?」
「飛んますねぇ」
ゴム動力の飛行機は思ったよりずっと効率がよく。
まっすぐ飛べば───ジョンのチームとは逆の方向で───壁を直撃するはずだった機体は、円を描くように広い部屋の中を舞っている。
うんうんとエルフ先生がうなずいているので、実験前の彼女の一工夫が効いているのだろう。
広い総合技術実験室内を何周かして静かに降りた機体は、損傷もなく。
「なんかこう」「可も不可もなく」
梅々コンビの機体も、同じようにスムーズに飛行を終えたが、前のチームにすべて持ってかれた感じで。
パチパチパチ。
何一つ不備のない実験結果は称賛に値するので拍手はしておこう。
ほら、みんなも。
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その後ジョンのチームの再挑戦も上手くいった。
「プロペラのひねりが逆ならば、回転も逆にすればいいのでござるよ」
とは、ジョンに代わって飛ばしたカウズ先輩の説明だ。
言われてみれば納得できる説明は、何かこう。他の可能性を秘めているような引っ掛かりを感じるが、それが何かまではパッと浮かばないので心のメモ帳に書いておこう。
今はそれより、爆破三兄弟が作り上げた、上げてしまった問題作だ。
「プロペラがないんだが・・・」
「その代わりに筒がついているわね」
「いやな予感」「しかしないです」
最後の一機は外で飛ばす事となった。
理由は簡単。実験結果が室内に収まるとは思えないからだ。
「先生。準備はいいですか?」
飛ばす三兄弟ではなく、エルフ先生に確認するのは、ほぼ確実に消火活動が必要になりそうだから。
確認された先生の顔にちょっとした渋みが感じられるのは、場合によっては水魔法を飛ばす限界距離を越えるからか。
「ワシタカ、GO!」
その時はあらかじめ上空に飛ばしておいたカーラの使い魔の観測により、落下、もとい着陸地点を割り出して対処する予定だ。
「バケツ二杯で足りるか?」
「大丈夫ですよぅ。スラリスもいますし」
・・・リーナが使い魔にバケツの水を与える。与える、与える。
非常時には消火に参加してもらうためだが、何かがおかしい。
バケツ三杯分の水を吸収したスライムのサイズが変わらないとか、いつものポケットに使い魔を収納したリーナが重さに耐えきれずひっくり返らないとか。
まあ、そういうものだ。とすれば、そうなのか、と。納得するしかないが。
「準備OK!」
炎を噴射する物体を手で、というのは色々と危ないので、専用の台、名付けるなら “発射台” に機体をセットする。
三兄弟のリーダーの赤井プロジオンが、機体の筒からのびた導火線を引き引きこちらに歩いてくる。
「・・・そのわずかな光りもて、我が道を照らさん。焔あれ!」
自分も使う発火の魔法は初歩の初歩であり、短縮されたキーワードならともかく、正式とされている長ったらしい呪文を唱えるほうが珍しいのだが、儀式めいた演出には向いている。
作成からそのままテストに入ったのと、・・・予想された結末に対応するべく、軽く夜露が発生する時間帯を狙った結果、夕焼けも燃え尽きかけ、薄暗い中、ぽっと。
地面に灯った炎から火花が、走る、走る、走る。
本体に到達してしばし。
あれっ? 失敗か? という時間が過ぎてからは瞬間。
炎が吹き出し始めたと思った瞬間、ぱしゅん! と。
空気を切り裂く音をさせて本体? が、飛び立った。
「「「あーっ!」」」
両翼と。・・・三兄弟の悲鳴を置き去りにして。
「強度不足で御座ったな」
「ほぼ花火ね」
「飛距離は凄いンだけどな」
幸か不幸か。最大の可燃部を削ぎ落とした結果、心配されていた火事につながるようなことは起きなかった。
ただし・・・。
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「新聞部に『謎の流れ星を調査してくれ』って依頼が殺到してるそうです!」
まだ、運動系の部がいたグラウンドを横断した代償は大きかった。
「申請のない長距離魔法の行使か、って騒ぐのもいるんだな、これが」
ロゼとフェリシア先輩が、どうしようか? と自分を見てくる。
「えーと。新聞部の方は適当に誤魔化しとけ。ほら、謎の飛行物体現る! とか、この学園に妖精が?! とか」
フェリシア先輩の話がなければ、下手に誤魔化す必要もないのだが、正直に「わたしがやりました」と白状すると、勇んできそうな人の顔も浮かぶ。
魔法はともかく、科学的な手法による遠距離の空中移動にはまだ制限がないのだが、これを機に、とかされてしまうと、学園祭の催し物に響く。
「わっかりました! その方向ですね? これは・・・部数がのびますよーっ!」
ロゼもはりきっているし、いいだろう。オカルトぽいものは、いつも人の興味を引くものだ。
「おや? 私には指示がないんだね?」
フェリシア先輩がイタズラっぽく笑うが、必要ないだろう。今さら。
「ええ。なんて返したんです?」
「私ではないがね。『まずは現象が遠距離魔法であったと証明したまえ』と、言われていたね」
あっさりと、指示が必要ないと認めたフェリシア先輩がタネをあかした。
「・・・あの人も懲りませんね」
「そうだね。その点、粘り強さは見習ってもいいかもしれない」
どんな人にも長所と言える部分はあるものだ。たとえ鹿頭氏であっても。
「あ。これは書いちゃだめだぞ?」
びくっ!
そろりそろりと。準備室から脱出しようとしていたロゼの体が震えた。
「えーっ! 生徒会ネタも鉄板なんですよぅ! ちょっとだけ! 名前をぼかして、出どころ不明でもダメですか?」
きゃるるーん! とした上目遣いが向かう先は、自分、ではなく。フェリシア先輩だ。
・・・うん。それぞれの力関係を瞬時に見抜く眼力も長所と言えよう。
「さて。どうしようか」
どう考えてもダメ、───というか出どころ不明で登場人物がわからないならほぼ創作───な話しでも、取り引きに使ってしまえるのも。
自分ではこうはいかない。
が。
そうも言ってられない。
夏休みはすぐそこである・・・。




