その日 木と紙は
「あーっ!」
気球に比べ、もう一つの工作物の作成難度は明らかに高い。どれぐらいかと言えば、今日も部室の、いたるところから悲鳴めいた叫びが上がっていると説明すればご理解頂けるだろうか?
前にも少し触れたが、まず “竹ひご” なる、ある種の植物を細く加工した材料の加工が難しい。
ある程度の熱によって柔らかくなるのか、別の原理か。フラの指示した手段は『ロウソクの火であぶりながら』なのだが、これが難しいのは前に言ったとおり。
加熱が多すぎれば燃える、足りなければ折れる。
「焦げる、は。どうなのかしらね?」
「いいんじゃないですか?」「そういう料理もありますし」
カーラの一人言に、これまた自分達の作業に集中していた梅々コンビが、答えるでもなく応じる。
料理と同じにするのはどうかと思うが、たとえとしては正解だったようだ。
表面が焦げているぐらいなら、許容範囲で。
「あっ!」
ジョンのように中心まで焦がしきると強度が足りなくなる。
いずれにせよ火加減は重要だが・・・。
本番、学園祭で披露する代物にはたぶん使わないと言ったら・・・。
・・・みんな怒るよね?
そんなこんなで “曲げ” が終わると、今度は “削り” の作業で。
火を使わないので、燃えてしまう危険はなくなったが、今度は刃物がもたらすドキドキが発生する。
「いい? 絶対、ぜっ・た・い・によ! 刃の先に指や、・・・その他もろもろ、切れて困るものは置かないのよ!」
ぴっ! と指を立てたカーラがリーナに注意するのは難度目だろうか? 口が酸っぱくなるほど、なんてたとえがあるが、一回言うたび口中の酸性度が上がるなら、彼女の唇がとんがるのも、そう先の話ではないだろう。
「わかりました! 範囲は腕を最大限伸ばして刃が届く範囲でいいですか?」
なんとなく子供っぽさを感じさせるリーナだが、直感的な理解度は高い。今回も、カーラが何を言いたいのかはちゃんと通じているようだ。
「・・・動かせない物以外はなるべく物のないようにしなさい。人や動物は必ずさけること」
「そうですか!」
直感が働かない、今回で言えば「あんたは手をすべらせて刃物を飛ばさないか心配」なんてのは、伝わり難いようだが。
それでも、言われたことはちゃんと守るので、大丈夫だろう。
「大丈夫です。もし貴女が怪我をされても、させてしまっても、私が治します」
エドがさりげなく? リーナの手を握ろうとして───
ガシッ!
───カーラに顔面を握られてしまった。
「・・・そういうことじゃないのよ? 神官様。そもそも怪我をするな、させるなっていう話なの。お・わ・か・り?」
ギギギギっ、と。
カーラの手の甲に血管が浮き上がる。
・・・彼女の言い分は、まったくそのとおりなのだが、部長である自分としては、怪我をさせずに痛めつけるのもやめてほしいところだ。
「・・・はい。わかりました」
まあ、そう言うしかないよねぇ。
ちょっと見当ハズレのことを言ってしまった神官様の顔には、くっきりとほそい指の跡がついたのだった。
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「おーい、リオン。これ、どこにどっちを使うんだ?」
「さぁ」
「さぁ、って、お前・・・」
ジョンが呆れ顔をむけてくるが、フラの指示には『接着箇所を接着剤で』、としか書かれておらず、梅々コンビに作ってもらった膠と小麦粉糊は、とりあえず身近な物をと、用意したにすぎない。
「そうなのか」
そうなのだ。
「じゃあ、どっち使ってもいいってことっスね! ジブン、せ、せ? 接着剤使うのって、初めてっス!」
そういうことも、あるのかもしれない。
いや、もの作りを生業としない家、壊れたら捨てて新しい物を買ったり、修理に出す家がほとんどなら、アルみたいな反応をする人のほうが多いか。
あ。
工作に慣れていない後輩が、たっぷりと膠を着けた物同士をくっつけるがそれではだめだ。
接着剤は乾きやすいよう、なるべく薄くつけなくては。
案の定、部品は彼が指を離すと剥がれてしまう。
膠がまだ液体なのだから、当たり前だが。
「よっ! はっ はぁ? ぜんぜんくっつかないっスよ?」
そんなこっちを攻めるような目でみられても困る。
「きゃぁぁぁぁ!」
そしてロゼよ。理由がわかんない黄色い声を突然上がられるのも困る。
「よく知らないでござるが、膠は接着に時間がかかるのではござらんかったか?」
そう。カウズ先輩。そういう意見を求めていた!
「へい! フラ! 膠の・・・」
まあ、結局のところ、フラに頼るんですけどね・・・。
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そんなこんなで作成に数日。
・・・同じ設計図を元に、同じ加工と組み立てを行えば同じ物ができる。
そのはずなのだが、なぜこうも特色を前面に打ち出した代物が出そろうのか?
一番設計図通りなのは、以外? にもジョンのチームだった。
まあ、あれで彼もアルも暴走するたちではないし、その気配があればカウズ先輩が止めそうなので、納得ではある。
他のチームはとにかく派手。
用意された無地の紙を使ったアルのチームに対し、柄物になったのは三チーム。
・・・ジョンのチーム以外全部と言ったほうが早いか。
カーラのチームのみ紙ごと違い、掲載の終わった学園新聞を使ったのは、ロゼのアイデアか。
他の二チームは元々の紙にペイントを施している。
梅々コンビの絵が料理を元にし、ほのぼのとしているのに対し、爆破三兄弟の方はなんとなく禍々しい。
それ以外にも、独自の創意工夫? がされているので、ふさわしいと言えばそうなのかも知れないが・・・。
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「これが本当に飛ぶのかしらね? 羽ばたきもしないのに」
カーラがそう言って首をかしげるのは、身近にそうやって飛ぶ存在がいるからだろう。
肩に止まったワシタカも反対側に首をかしげている。
まあ、言いたいことはあるだろうが、実際にやってみればわかるはずだ。
・・・むろん、一機? も飛ばなくて「それみたことか」となる可能性も十分、いや六五分? ぐらいはあるが。
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「三騎は、三機は」
どうしても慣れない呼び方は間違ってしまうが、読みは一緒なので、言い直しても意味はない。かえって皆に疑問を抱かせる分、やめたほうがいいか。
「室内で飛ばすのは、少し調整しますね」
今日も存在感の薄いエルフ先生が、背中でかくして、工作物のをちょいちょいと手直しした。
?
前と後ではどこが変わったかわからない間違え探しだが、うんうんと満足げにうなずいているあたり、何か意味はあるのだろう。
「じゃ、俺らからだな!」
今回は魔石使用ではないので、遠隔起動はできない。よってスタートは押さえていた指を離す、というシンプル極まりないものとなった。
「「「・・・」」」
一番目。
皆の注目を集める中、ジョンがくるくると、機体に力を貯める。
あまり欲張りすぎると壊れるらしいので、その加減も参考にしたい。
「よし」
やり過ぎてばっきり、次回の参考、となるわけでもなく。
準備が整った飛行機がジョンの肩の高さで構えられた。
この工作物の名は “飛行機” その名のとおり、羽ばたきもせず、けれども宙に舞うらしいが。
果たして・・・。




