その日 完成したばかりの計画が
「でき、た?」
自分でも信じられない成果は。
「「「・・・」」」
皆もおなじようで。
出来上がった喜びよりも、どこか夢じゃないか、という思いが大きい。
とはいえ、ここ数日、数週間。
禁止された書庫である、フラの使い方にも慣れ、部活発足以来初と言っていいほどトラブルのない日々を過ごした。
まあ、日ごと、一日ごと、二、三日に一回、何らかの問題が生じるなんてのは滅多にあることではなく、これが普通と言われればそうなのだが。
なんとなく。そう、なんとなく。
・・・トラブルが起こらない=ナニカが力をため続けているように感じるのは。
黙っておこう。色々な理由で。
さて。
なぜ突然、ぼんやりとした不安の話になった原因は、自分の手元にある。
その形状からロケット=糸巻き車と名付けられた花火、歓迎会当日に爆破三兄弟が打つ上げた、やや縁起の悪い名前を受け継いだ、継いでしまった乗り物は、この部の最終目標、月への旅行に使う乗り物で。
皆が覗き込み、期待半分、疑い半分、それぞれ抱いているのが、その作成計画書、だ。
我ながら、我々ながら、良くできたものである。一から、以前に。似たような計画がまったくないのだから、零、もしくはマイナスの、何から手を着けていいかわからないからスタートし、こうして形になったのは、ひとえにフラの存在によるところが大きい。
・・・大きすぎて、やや、やっぱり不安になるが。
「なんだな。こう、飛び上がって喜ぶ、って感じじゃないのな」
ジョンの感想が、ここにいる全員の思いかもしれない。
困難を乗り越えた瞬間、歓喜が爆発することもあるが、疲れきってそうならない時もある。
今は、まさにそんな気分で、これから徐々に喜びが込み上げてくるのかもしれない。
「それにしても、三年で完成っスか? 結構余裕あるんですね?」
アルの疑問はもっともだ。
だが、ここは、年若い彼に人生から学んだことを教える場面だろう。
・・・一年しか歳は違わないし、自分以上に適任? 者が、いるみたいだが。
「アル・・・あなた、何かに向けて計画を立てたことないでしょ」
「これだから、素人は」
はぁぁぁあ、という。
カーラの大きなため息から始まったお説教のオープニングは、やはりロゼのため息によって締められた。
「いい? 計画ってのは、前倒しになることが無い、とは言わないものの、そんなことは滅多に起きないの!」
「そうです! その変わりと言ってはなんですが、遅れることの、まぁぁぁぁぁ! 多いこと!」
「そう! 思い通りに進まない何てのはしょっちゅう。計画していた時にはなかった問題は発生するし!」
「何より、誘惑が多いんですよう! ちょっと、ほんの少し、これぐらいならと始めた他の事にかまけてしまって、もう寝る時間、なんてことも!」
それは、計画のせいじゃないんじゃ? とジョンが無言で訴えているが、口を挟むつもりはないようだ。
・・・共倒れになるからね。仕方ないよね・・・。
「「つまりは! 計画は! 余裕をもって立てるべきなの!」です!」
「「「はいっ !!」」」
思い当たる節があるのか、アル以外の何人かが、元気よく返事を、し。
なんとも言えない空気の中、その人は現れた。
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「ん? なんだい? この空気は?」
そういいながら、どよん、とした雰囲気を吹き飛ばし始めたのは、フェリシア先輩その人だ。
今日もキラキラな男装の麗人は、居るだけでまわりを明るくしてくれる。
「それでね! ・・・よい報告と、悪い報告、どちらから聞きたい?」
・・・たとえ、その唇から不吉な予感がする発言がされたとしても。
「良い報告だけ聞いて、悪のはポイです!」
「ああっ! そうだねぇ、リーナくん! そうしたいのはやまやまだけれど、そういかないのが人生さ! 諦めてくれたまえ!」
リーナの一言を切欠に始まる劇の一幕。
指先にまで魂の吹き込まれた名演に、思わず拍手したくなるが、自分の役目はそれではない。
「先輩の思うようにお願いします」
「わかった」
すんなり、お芝居モードを終了したフェリシア先輩が椅子を引き寄せ、長い足を組みんだ。
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「いい報告は、こちらの要望はすべて通った、ってことさ」
指先だけ合わせた手のひらの隙間を開けたり狭めたり。いい報告のはずなのに、この部を代表して会議に参加した彼女の笑顔にはどこか影がある。
「えっ!」「屋台、OKですか?!」
報告を受けた梅々コンビの喜びようを見る目はとても優しかったが。
今日開かれた会議は、学園祭について。
すべて通ったのならば、梅々コンビがやりたいと言っていた屋台も、読書サークルの引き替え条件だったクイズ大会も、ついでに、できればと頼んでおいたあの件もOKと言うわけだ。
・・・自分で頼んでおいてなんだが、よく通ったな。どれも月旅行とは、ぜんぜん関係ないのに。フェリシア先輩の交渉力にはただただ脱帽するばかりだ。
「それでね。悪い、と。限った話でも、ないんだが・・・」
彼女にしては歯切れ悪く。
ついでに、パタン、と。開け締めされていたフェリシア先輩の手のひらが閉じられた。
「『どれもこれも月旅行とは関係がないのでは』という意見が出てね」
うん。まあ、その通り。
自分と、あと何人かが相づちを打つ。
そして。たっぷり間を開けて。
何か、を。
たぶんあまりよくないことを思い出した先輩の口が、舌が、打ちならされそうだ。
むろん、そんな音が鳴ることはなかったが。
「月旅行部にふさわしい催し、それも六百人を抱える部にふさわしい成果を見せて欲しいとさ!」
先輩が珍しく感情をあらわにしたのは、理不尽に触れ、それから逃れられなかったからだろう。
あとから一緒に会議に出席したアンナ先輩に聞いたところによると、本来生徒で運営されるべき学園祭のはずなのに、突然教師が口を挟んできたらしい。
生徒会長も、やんわりと、ただし毅然と「口を出すな」と釘を刺しまくったそうだが、釘で固定するには相手にもそれ相応の固さが必要で。
「金、いや失礼。予算も出していないのに結果だけ欲しがるとは。プライドがないにも程がある」
今回は、相手にそれがまったくなかったそうだ。
「本当に申し訳ないが、初日、開会式のすぐあとに枠まで用意されてしまった。力不足ですまない」
すっ、と。
立ち上がった先輩が、頭を下げるが───
「そんなことはやめて下さい!」
「先輩のせいじゃないっス!」
「なんなの、そいつら!」
───まったくもって、皆の言う通りだった。
「先輩。リオン先輩!」
・・・あっちもこっちも先輩だらけで紛らわしいが、アルが自分を名前まで着けて呼ぶのは珍しく、彼の並々ならぬ覚悟が、それだけでも伝わってくる。
「計画を前倒すのが難しいのは、十分承知っス」
ここでチラッ、と。彼女達の方を見ちゃうのは仕方ないだろう。
・・・自分だって怒った彼女らは怖いし。
「でも、でもでも」
感極まって、言葉にならない、うつ向いてしまって、拳を握りしめてしまっている彼の、背をポン! と優しく叩く。
そこから目を上げれば、皆の決意も一緒だった。
「やるか!」
「やる !!」
「夏休みが潰れても!」
「やる!」
「人並みの青春が遅れなくても!」
「やる」
「後半徹夜続きになっても!」
「や、る?」
「よし! やルぞー!」
「お、おう!」
・・・はい。
後で怒られました。フェリシア先輩に。
激が、下手だと・・・。




