その日 決意はあらたまった
「リアっ!」
叫んだつもりだったが、現実におこったのは、かろうじてくちびるが動いたぐらいか。
それでも、自らの意思で体が動いた、というのは目覚める条件には十分で、自分はようやく、長い長い───後から確認すれば───たった数分の夢から覚めたのだった。
「目覚めたか、リオン! 気分はどうだ?!」
うん。最悪だよ、ジョン。
後頭部に弾力がある暖かな感触。
首が少し辛いのは、普段の枕より少し、いや、かなり高く、あっていないせいだろう。
「おい、リオン? 俺がわかるか?!」
ジョンなのはわかっている。
わからないのは。
・・・なぜほぼ男女比が一対一のこの部の通常メンバーの中で、よりにもよって、お前の膝枕で目覚めなきゃいけないのか、だ。
別に女子に膝枕してほしかったワケではない。
・・・それほど親しくなる時間も理由も今はまだないし。
畳んだ制服とか、なぜか真横で、うにゅーんと心配? そうに変形して、こっちの顔にくっつきそうなスライムをどうにかして頭を保護するなんて手段は取れなかったのだろうか。
「何があったか、覚えてるっスか?」
「ああ、大丈夫だ。アル伍長」
横から───ジョンとは違い、落ちてくる唾の心配のない───問い掛けに答える。
が、失敗した。
「ごちょう?」
しまった、夢とごっちゃにしてしまった。
「ぜんぜん大丈夫じゃ無さそうね」
「心配ですぅ。スラリスも寄って行ってますし」
そういえば、自然界でのスライムの役割には、掃除屋があったな。
え? 自分、そんなに危機的状態、なのか?
「ああっ。スラリスが、ああっ!」
・・・いや、従魔が他人を狙っていたら止めろよ。
「だ、大丈夫と言ったのに、お、起きないのには深い理由が?」
「まだ。まだです。そう判断するには材料が・・・」
いや、・・・。なんの材料だよ。
さすがにこれ以上、のんきに横になっている理由もなく。
むしろ寝ていられない理由があるので、やっと誰も───極極一部、本日から参加の一名と気配を絶った一人以外───得しない地獄絵図は幕を閉じたのだった。
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「これ、は。あくまで、ただの知識の集合体です。使い始めこそ、全知の存在からの託宣のように感じられるかも知れませんが、実態は読みかじりの頭でっかち。モパン族が食べるキノコ二種のうち、キクラゲ以外が何かすら、誰かが書かねば、これにはわかりませんし、逆に誰かが書きさえすれば便所の落書きでさえもっともらしく語るのです」
「た、たくせん? あ、たくさん!」
「「「モ、モパン族?」」」
「便所って・・・せめてトイレじゃ」
エルフ先生の説明は、長いのに加え引っ掛かるワードが多すぎて、なかなか頭に入ってこない。
それでも、一生懸命説明してくれた内容はそこそこ理解できた。
「あー。つまり・・・。あまり信用するな、と?」
「これはエーアイ非搭載ですから、一応、エビデンスはあります。もっともらしい嘘はつきませんが、信用する、しないに注意が必要なのは、人が他人の話を聞いた時とおなじです。申し訳ないことをしましたが、これの発言に衝撃を受けて気絶する必要はありません。あれは『人が空を飛べますか?』と入力されたので、『無理』と出力したぐらいの話で、おなじように『人は海を越えて他の国に行けますか?』にも『無理』と答えますが、あなたたちは、泳いでは不可能でも船、という手段があるのは知っているでしょう?」
・・・エーアイとは? などという話し始めの疑問がどうでもよくなる説明っぷり。
とりあえずわかったのはフラの回答がこの世界唯一の真実ではないと言うことだ。
「月になんて行けるわけ無いだろ」
「なにいってんだ、アイツ?」
「現実が見えてないんですよ」
もうなん十回、何百回と聞いた言葉だ。
人以上の存在っぽいものから言われたとしても、ショックを受けるとは自分もまだまだ、だ。
「エルフ先生はどう思います? 人は月に行けますか?」
口直し、というわけではないが、やや人間離れしている存在にも聞いてみる。
あっさり「無理ですね」とか言われるかもだが、もうショックは受けない。
月に行くのは自分にとって決定しているのだから。
「行けるのは確実です。それがいつになるかはわかりませんが」
彼女は自分のキンショコから目も上げずに答えた。
それを、興味がないととるか、何を当たり前な事をと確信しているととるかは、聞いた人間次第だろう。
もちろん自分は・・・。
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部活を終え寮の自室に戻ると、ドアの下から滑り入れられたのか、自分宛の手紙が床に落ちていた。
「踏んだらの前に、ベッドとかの下に入ったらどうするんだ?」
まあ、そこは配達担当の熟練の技術で絶妙な位置に。もしくは普通はドア下に挟むのが普通なのだろう。だが、そうすると今度は他の人に盗まれないか心配になる。きっちり押し込めば、とか思ったあたりでポストの存在を思い出した。寮の部屋全部のドアに穴を開け、内側に受けを設置する。
うん。それにかかる予算と、今までの方法、生徒の規範意識(費用0)を秤にかけたぐらいで、自分の思考の無意味さに気づいた。
「父上、ありがとうございます」
家族からの手紙、一枚目のは父からで。
急いだのか走り書きのような字で伝えられたのは、一年分の学費を払ったので頑張れだった。
時折、折角入学したのに、勉学に身を入れない生徒を見かけるが、自分にいくらかかってるか・・・、わかってないから、ああなのか。わかっているなら相当の浪費家だ。
二枚目の母の手紙は、自分を心配する内容からの、細かすぎる注意。きちんと嫌いな物も食べなさいとか、下着は毎日代えなさいとか。
本当に自分を何歳だと思っているのだろう。・・・嫌いな物は食べなくとも平気だし、下着は二日ぐらいならいける、のではないだろうか? ダメか?
最後に。
妹のリアの手紙は現状報告だ。
私は相変わらず不健康です、と。
冗談目かして書いているが、ちっとも笑えない。
もうずっと昔に片付けた元物置部屋の中。
こちらに心配書けないように、と。
一文字一文字丁寧に綴る姿が、震えてしまっている筆跡からうかがえてします。
お兄ちゃんを横棒二列で訂正。
『兄上は私のことになると無理しすぎで心配です。もし、もしもの時がきても私は平気です。その時は最初からいなかったとお考えください』
うん。無理だよ。無理だったよ。
終わりまでリアを探したよ。
これからも無理は・・・するよ。




